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#復讐
草原草原(くさはらそうげん)

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木風
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#サレ妻
都築七美
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火曜は休みだったけれど、三度目だった。三度目からは出勤扱いだと、一ノ瀬が言った。
十四時、衣装室。ひなのは三着目のドレスを着て、鏡の前に立っていた。白。肩が出る。裾が床に広がる。
「これ」
「はい」
「やっぱりこれ。一番、花嫁っぽい」
かれんがスマホを構え、ひなのは鏡の中の自分を三方向から撮った。
「佐倉さんは、当日、何着るの」
「スタッフは黒です」
「黒ね。地味でいいから。私より目立たないでね」
「お客様より目立たないように」
「そう。それでいい」
ひなのはドレスの裾を持ち上げて、一回転した。白が、衣装室の照明を受けて、鏡の中で広がった。
「進行表、見せて。当日の」
私は、客用の進行表を出した。十七時半開場。十八時、目隠しの入場。十八時十五分、映像。十八時三十分、部長の挨拶。十八時四十分、指輪。十九時、乾杯。
司会の名乗りの文言と、花束の時刻は、この紙には書いていなかった。依頼者が指定していないものは、依頼者には見せない。それも、十年の決まりだった。
ひなのは、十八時四十分の行に指を置いた。
「ここ。指輪を渡すとき。曲、流せる?」
「はい。ご希望の曲を」
「彼の好きな曲にして」
ひなのは、スマホで曲名を出して、私に見せた。
私は、画面を見た。
五年前、十二月十二日。この式場ではなく、小さなレストランの二階。私と悠人の式で、指輪を交換したときに流れた曲だった。私が選んだ。悠人は「何でもいい」と言った。
「彼、この曲をよく聴いてるの。車で。『大事な曲なんだ』って」
「……そうでしたか」
「指輪のとき、これで。泣けるでしょ」
私は、手帳を開いた。十八時四十分。曲名。
「ご指定どおりに」
書いた。手は、いつもの手だった。
「あと、字幕、最後にもう一個足していい?」
「はい」
「曲の下に、『彼の大事な曲♡』って。小さく」
「ご指定どおりに」
『彼の大事な曲♡』。私は書いた。一文字も変えなかった。
「それと、彼のお母さん」
ひなのは、鏡に向き直った。
「席、隣にしてくれたんですよね。柴田くんから聞いた。ありがとう」
「主賓のご家族は、主賓の隣です」
「私、『お義母さん』って呼ぶ練習したの。プロポーズのあと、お母さんのところに行って、『お義母さん、よろしくお願いします』って。泣けるでしょ」
「……ご指定どおりに、進行に入れます」
「入れて。十八時四十五分くらい」
私は書いた。十八時四十五分。ひなのが、恵子の席へ。恵子が、ひなのの顔を、隣で聞いた語尾のあとに見る。
書いて、閉じた。
◇
ひなのが帰ったあと、私は提携の花屋に電話をかけた。
「十二日の、花束を一つ追加で。白いバラ、小さめ。札は『奥様へ』」
花屋は「奥様へ、ですね」と繰り返して、「珍しいですね、プロポーズの会で」と言った。
「ご招待の方のご希望ですので」
「分かりました。十一日の夕方にお届けします」
電話を切って、進行表の本当のほうに、一行足した。十八時三十五分。花束。渡すのは大森部長。受け取るのは、奥様。
そのあと、若林が企画室に来た。
「報道の段取りです。期限は、明日」
紙を一枚。業界紙の記者が一人、ウェブの記者とカメラが一人ずつ。本部の広報が二人。到着は十七時。撮影は十八時から。記事は翌週。
「席は」
「壁際に。後ろの」
私は席次表の板を指した。壁際のピンが五本。一番後ろに一本。
「カメラの位置は」
「主賓席の斜め後ろ。スクリーンと、主賓席と、司会台が一枚に入る位置です」
若林は、万年筆で書いた。
「一枚に」
「ええ。この式場の、少人数の式は、全部が一枚に入ります。それが売りです」
若林は、書き終えて、顔を上げた。
「佐倉さん」
「はい」
「一ノ瀬は、明後日の最終プレゼンに出ます。社長も出ます。アクセル広告の高梨さんが、プレゼンの最後に、こう言う予定だそうです。『この企画は、現場のプランナーである私の妻と、夫婦で練りました』」
私は、板のピンを見ていた。
「若林さん、それは」
「アクセル広告が本部に出した、プレゼンの台本です。本部の担当が、一ノ瀬に回しました。一ノ瀬は、何も言いませんでした」
「……そうですか」
「何も言わなかったので、私が言いました」
若林は、紙を机に置いて、出ていった。
夫婦で練った。食事の席で一ノ瀬が言った言葉を、悠人は、本部の前で自分の言葉にする。私の企画を、私の夫が、「妻と練った」と言って、私の職場のオーナーの父親の前で、売る。
四百二十三。私は数えた。まだ言っていない言葉を、先に数えた。
◇
夕方、美咲が企画室に来て、席次表と進行表と、映像の秒数の紙を、三枚並べた。
「チーフ」
「なに」
「本当に、これ全部、やるんですか」
美咲は、三枚を見ながら言った。
「目隠しの入場。字幕。部長の挨拶。花束。指輪。曲。全部、あの人たちが持ってきたもので」
「ええ」
「一つも足さないで」
「一つも足さない。一つも引かない」
「……怖いのは、それですよね」
美咲は、紙を一枚ずつ、重ねた。
「足したり引いたりしてたら、こんなに怖くない」
私は、答えなかった。答えは、もう紙に書いてあった。
◇
家に帰って、スマホを開いた。
『hinano_12』
『あと4日♡』
写真は、ひなのの自撮りだった。背景に、今日の衣装室の鏡が映っている。白いドレスの裾。
文面を読んだ。
『場所、ついに彼に教えちゃった♡ 「妻の職場」って言ったら笑ってた。「あいつは何も知らないよ」って。あと4日』
コメント
1件
え、ちょっと待ってこれ……!😭💦 第24話、読み終わったけど心臓がギュってなってる……。白いドレス、花嫁っぽいって笑顔で言うひなのちゃんと、その裏で淡々と進行表に書き込む佐倉さんの対比が痛すぎるよ……。しかも「彼の大事な曲♡」が過去の自分の結婚式の曲って……。美咲の「足したり引いたりしてたら怖くない」ってセリフもゾッとした。この静けさの中に詰まった感情の行方を想像すると、次の話が待ちきれない……!🌸💔