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・【01 さがしもの探偵】
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「佐助! 起きてるか! 佐助! なぁっ! なぁっ!」
僕は背中をバンバンと叩かれた。
机に突っ伏して寝ていたのに、すぐに真澄に起こされてしまった。
「真澄、昨日は料理の研究をしていて寝不足なんだ、寝させてくれよ」
「ハハハ! 夜中に料理だなんて太っちゃうぞ! じゃあ運動だぁ! 運動だぁ!」
「スパイスの勉強だよ、食べているわけじゃないから、大丈夫」
そう言ってまたすぐに寝ようとする僕、というわけなんだけども、当然ながら真澄は、
「寝る子は育つって高校生に言う言葉じゃないんだぞ! 高校生になったら食べて運動そして寝るだぁ!」
「いや勉強しなよ、高校生なら」
「まさにそれだな! ワーッハッハッハ!」
と手を腰に当てて、豪快に笑った真澄。
いやもう女子高生の笑い方じゃないじゃん。
豪快な首領の笑い方じゃん。
デカい生肉に座って、大酒を喰らう山賊の頭領じゃぁないんだよ。
というか、
「まさにそれってなんだよ、僕に構っている暇あったら真澄は勉強したほうがいいよ。マジで真澄は勉強ヤバイんだから」
「そんなことはない! 何故ならアタシは佐助と同じ高校に通っているんだからな!」
「真澄はスポーツ推薦でしょ、学力は全然違うから」
と言ったところで、僕は一瞬”あっ”と思ってしまった。
真澄は果たしてなんと言うか、内心ビクビクしていると、
「ワーッハッハッハ! アタシはもうケガでスポーツできないからスポーツ推薦というモノは意味をなさないんだぞ! つまりアタシは入試で入った連中と一緒だ!」
さすが真澄といった感じだ。
全然メンタルが違う。
スポーツ推薦というワードが全然禁止ワードに入っていない。
それならもうハッキリ言ってもいいのかな。
「だからって入試で入った人たちと同じ学力とかにはならないから、もう真澄は勉強するしかないんだから勉強しなよ」
「大丈夫! アタシはもう就職先が決まっているからな!」
「あっ、そうなんだ、それならまあいいのか、でも両親はサラリーマンでしょ、親の仕事を継ぐとかじゃないでしょ」
「それは……佐助だぁ!」
そう言って僕のことを指差してきた真澄。
いや僕に就職するって、それって、えっ、プロポーズというヤツ? と思って、ちょっとあわあわしていると、真澄はこう言った。
「というわけで探偵の仕事を持ってきてやったぞ! 偉いだろ! 偉いだろ!」
……またそれのことかぁ……というかさ、
「真澄、僕は探偵をする気はないんだよ。僕は料理人になって店をオープンすることが夢なんだって。というか僕へ就職ってもしかすると探偵の助手をするということ?」
「その通り! アタシは佐助の助手をして仕事をバンバンとってくるから大丈夫だぞ!」
「だからそれがダメというか望んでいないんだって。僕は料理人になりたいんだって」
「それだけじゃ食っていけないだろ? 副業もしなきゃダメだぞ!」
「料理人は繁盛すれば食べていけるんだよ、むしろ逆だよ。探偵だけでは食ってはいけないから料理人をするんでしょ」
と僕が言うと、小首を傾げて真澄はこう言った。
「じゃあそれ! それでいこう! 新しい案をありがとう! 積極的だな!」
「いや僕発信みたいに言わないでよ、やる気満々のファイティングポーズじゃぁないんだよ」
「とにかく! もう依頼はあるからそれはやらないと信用問題だぞ! 料理人も信用が大切だろ!」
「まあ客商売は全部そうだけども、まだ料理人も微妙に始めていないんだよ」
と言ったところで、真澄が意見を曲げることなんてありえないから、また探偵っぽいことしないといけないんだろうなぁ、あーぁ。
でもまあやるからには一応前向きにやるか。
言い方悪いけども依頼者には上からいけるから、依頼人に料理を振る舞ってまた僕の料理を食べてもらって感想を聞こう。
やっぱり他人の意見が上達の第一歩だからな。
というわけで、
「じゃあ真澄、探偵っぽいことすることは了承するから、どんな依頼内容が教えて」
「それは依頼主から直接聞いたほうが早いだろ!」
「まあそうだな」
そう言って僕は立ち上がると、真澄は誰かを手招きした。
すると同じクラスメイトの裕子さんが近付いてきたので、僕はまた席に着いた。
いや同じクラスの人だったのかよ、意味なく立ち上がっちゃったじゃん、恥ずかしい。
警戒しているプレーリードッグじゃぁないんだよ、僕。
裕子さんは僕の前の席に座って、僕のほうを振り返ってちょっとだけ頭を下げた。
真澄が喋り出した。
「鍵! 無いんだってさ!」
いや、
「依頼主の話を聞いたほうが早いって真澄が言ったのに、真澄が喋り出さないでよ。タイトルの振りは自分で絶対したい司会者じゃぁないんだよ」
裕子さんが一呼吸を開けてから、
「じゃあ言うね。私が家で大切にしている鍵が無くなったんだ。どこを探しても見つからないの……ほら、佐助くんは”さがしもの探偵”でしょ、だから捜し物なら何でも見つけてくれるって……」
「いやさがしもの探偵は真澄が勝手に言っていることで開業とかはしていないよ」
それに対して真澄が、
「コラ! 依頼主を不安にさせるようなことを言うな! 佐助! そこはドンと構えて何でも見つけてやる! だろっ!」
そう言って僕の肩を漫才のツッコミのように叩いた。
いや、
「そういう無責任なことは言いたくないよ、実際見つからないかもしれないんだから」
すると裕子さんが目を潤ませながら、
「あれは本当にとても大切な鍵なんです! 絶対見つけて下さい! 私はもうここ最近全然眠れなくて!」
真澄はふと何かを思いついたかのようにこう言った。
「じゃあその鍵が掛かっている箱を壊せばいいんじゃないか? そうすれば鍵が無くてもいいじゃん」
それにすぐさま裕子さんが反応し、
「箱も鍵も大切なモノなんです! それは絶対ダメです!」
まあとにかく鍵を捜すということか、でも大事な鍵なわけだから自分で捨ててしまうことは無さそうだ。
ということは誰かが持って行ったと考えることが自然なような。
じゃあ、
「最近、裕子さんの家を出入りした人はいますか? 鍵を持っていきそうな人というか」
「う~ん、あんまり覚えていないです。鍵もいつの間にか無くなっていて……」
と裕子さんが答えると、真澄がやたらデカい声でこう言った。
「まあここで考えていてもしょうがないから! 裕子の家へ行こう!」
確かにまあそうなんだけども。
「じゃあ裕子さん、家へお邪魔させて頂いてもよろしいでしょうか」
「はい! よろしくお願いします!」
「それと僕、料理を作ることが趣味なので、鍋を持って行ってもよろしいでしょうか」
「それはもう全然大丈夫です! 佐助くんの料理、噂で聞いているから実は食べてみたいなと思っていました!」
うん、料理で有名になることは嬉しい。
だけども”さがしもの探偵”の一面を早く消し去りたいな。