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・【07 人探し】
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今、僕は見知らぬ三人の言い分を聞いている。
ただまあ口癖が独特なこともあり、頭に入ってきづらい。
というわけで時間をもらって、今は脳内で反芻している。
そもそも真澄があんなSNSアカウントを運用していなければこんなことになっていないのに。
SNSアカウントは結局その後、見た。
そうしたらどう考えても、誇大広告な言葉と”料理付き”という謎の文言。
何で探偵と料理を同時にこなさせたいんだ? 僕に。
いやそんな部分から反芻していったらダメだ。
今はあの三人の言い分を精査しよう。
一人目は、安藤寧、ギャルっぽい恰好をした女性だ。
「あたしねぇ、マジでリカポンと仲良くてねぇ、でもぃつのまにか疎遠になっちゃってねぇ、だから会ぃたぃんだぁ!」
甘ったるい口調で何だか時間が遅く経過しているように感じられる。
「リカポンとは小学生の頃ぉ、仲良くてぇ。ぃっつも一緒にぃたんだよぉ。リカポンって何かぁ、リアクションが面白くてぇ、ヤバかったよねぇ! キャハッ!」
何だよ、キャハッて。
殺し屋ギャルの笑い方じゃぁないんだよ。
それに対して深く頷きながら、喋るのは二人目の榊善だ。何か知らんけど、鉢巻きしている坊主の男性だ。
「そうだぜぃ、そうだぜぇ、リカポンは面白かったぜぇ、虫とか異常に怖がってぜぃ」
いや”怖がってぜぃ”という繋ぎ方はもう嘘じゃん。
そうはならないじゃん。もう口癖に思考回路が浸食されちゃってるじゃん。
そんな榊善の変な口調を一切気にせず、口を開いたのが、佐藤純太。見た目は普通、なんだけども、
「まあ虫はみんな怖いじゃんか、苦手な人も普通にいるじゃんか」
いや”じゃんか”はもう完全に虚構でしょ。
虚構の国からやって来てらっしゃるじゃないですか。
「またリカポンのリアクション見たいねぇ、あたしたちと久しぶりにあったらすごぃ驚くじゃねぇー」
「絶対そうだぜぃ、また虫を持って行ってやりたいぜぃ」
「いや虫捕まえるの意味無く大変じゃんか、普通に何か、まー、驚かせばいいだけじゃんか」
何だコイツら。
じゃあそのリカポンというのも何らかの口癖持ちなのかよ。
そうとしか考えられない。
いやそうと考えていることは意味無いんだ。
なんとかこの三人からヒントを得て、リカポンという人を探し出さなければ。
いや別にそんな真面目にやる必要も無いんだけどもな。
なんせこの三人は『他人の手料理いらない』と真澄に伝えていたらしいから。
何でこんな口癖のくせに、そこは気にするほうなんだよ。
”料理付き”を拒否するんじゃないよ。
他人の手料理は親から止められている小学生じゃぁないんだよ。
「そうそうぅ、リカポンってねぇ、結構嘘つきだったよねぇ」
「それは覚えていないぜぃ、そうだったっけぜぃ?」
「まあ確かにそういう一面あったじゃんか、嘘つきというほどじゃないけど、あったはあったじゃんか」
「あったよねぇ! ぃなぃと言ったと思ったら、実はぃたりとかしたこと無かったかねぇ? 家とか、公園とか、連絡するとねぇ」
「あー! それはあったぜぃ! 神出鬼没だったぜぃ!」
「というか小学生の頃は寧からよく連絡あったじゃんか、だから善だって連絡いっぱいあったじゃんか?」
ここを脳内で反芻すると、反芻している今も改めて心の中でツッコんでしまう。
何だよ、連絡いっぱいあったじゃんか? って。
もうどっちの意味なのか分からないんだよ、でもこの三人の中では通じているらしく、矢継ぎ早に会話している。
また脳内で反芻を続ける。
「オレはそもそも寧と家近いから連絡とか無くてもすぐに会ってたぜぃ」
「つーか今もだしねぇ! 善とはしょっちゅう会うねぇ! で! 最近純太と会ってねぇ! また集まろうってなったんだねぇ!」
「純太がリカポンと今も繋がってれば話は早かったのにだぜぃ」
「あー、それは無いじゃんか、中学校も別じゃんか」
「それは知らないけどねぇ!」
全然見知らぬ三人組なんだけども、反芻していてごっちゃになることはない。
口調が特徴的だし、寧が基本的に『ね』で、善が『ぜぃ』で、純太が『じゃんか』だから分かりやすい。
何だコイツら、小学校の頃にそういう“名前で口癖を付けましょう”という授業があったのかよ。
「あとそうだぁ、多分リカポンからもらったモノって結構あるんだよねぇ! 可愛いヘアゴムとかぃっぱぃもらったんだよねぇ!」
「オレも面白い消しゴムもらったことあるぜぃ、リカポンはこういうのすぐくれたぜぃ」
「それは欲しいと言ったからじゃんか、自主的に配ったわけではないじゃんか」
「でも本当に大切なモノなら普通くれないからねぇ、こうぃうご奉仕精神みたいなことがあったんだねぇ」
「優しかったぜぃ、リカポンは」
「でも強欲なのが純太ねぇ! あたしたちがもらおうとしたモノ全部もらうみたぃなことやったことあるねぇ!」
「そうだぜぃ、ヘアゴムなんて純太使わないぜぃ?」
「あー、あれはほら、妹にあげようと思ってじゃんか。別に女装とかではないじゃんか」
「でも本当に優しかったねぇ、リカポンはねぇ」
「まあリカポンは優しかったのは事実じゃん、それは事実じゃんかね」
いや今”事実じゃん”で終わらせられたじゃん、無理やり”じゃんか”で終わらせようとするなよ。
結局”ね”付けて、ちょっと寧の領分まできちゃったじゃん。
勢い余って足をはみ出すじゃぁないんだよ。
ここで確か、真澄が問いを投げかけた。
「何で寧・善・純太でリカポンなんだ? みんなあだ名のほうが楽しいだろ」
そこで俺はあだ名にしたら分かりづらくなるだろ、と思ったが、黙って聞いていた。
答えはこうだった。
「覚えてなぃねぇ! リカポンは何か最初っからリカポンだったねぇ!」
「まあオレは寧とは幼馴染でずっと寧だぜぃ、純太もまあ純太だったぜぃ、リカポンはどうだったっけぜぃ? そう言えばリコーダーで叩くくだりがあったんだぜぃ?」
「それだねぇ! そのノリだねぇ! そのノリ懐かしいねぇ!」
「あー、リカポンの後ろからリコーダーで頭をポンと叩くヤツじゃんか?」
「そうそうぅ! するとリカポンはビックリしておっきな声出して面白ぃんだねぇ!」
「あれは笑ったぜぃ、また良い”ポン”という音が鳴るんだぜぃ」
「まー、確かに綺麗な音は鳴っていたじゃんかー。でもそれはボクもじゃんか」
「あぁそれはそうねぇ! でも純太は自分で自分の頭を叩ぃてぃたねぇ! そのノリであたしたちも叩ぃたけどねぇ!」
「そうだぜぃ、純太は今と違って滑稽だったぜぃ。今はシュッとしているぜぃ」
「今も滑稽ということにしてくれてもいいじゃんか」
そう言って笑い合った三人。
いやもうその口癖は滑稽過ぎるんだけどな。
また安藤寧が喋り出し、
「でねぇ! リコーダーで頭を叩いてポンポンポンでねぇ! リカポンだねぇ! 思ぃ出したぁ! おかしかったぁ!」
「探し出してもらったら、後ろから近付いてまたリコーダーでポンと叩きたいぜぃ」
「まー、それは危険じゃんか、怒るかもしれないじゃんか」
「何言ってんだねぇ! リカポンは怒らなぃねぇ! リカポンは優しかったねぇ!」
「そうだぜぃ、優しいし、モノもくれるし、最高だったぜぃ」
「あー、そうなるじゃんか」
ここでまた真澄が口を出した。
「で、どの高校に行ったとか当たりはついていたりするのか?」
「何かねぇ、純太の高校にぃる? とか聞いたことあるんだけどねぇ、純太はぃなぃって言うよねぇ」
「あー、だっていないじゃんか、いないもんはいないとしか言えないじゃんか。だから県外かもしれないじゃんか」
「いや、リカポンはそんな頭良くなかったから県外とか行く感じじゃないぜぃ。目標持ってるとかそういう感じじゃないぜぃ」
「それはちょっと失礼じゃんか、頭もそんな悪くないじゃんか」
「ううん、リカポンは確かテストの点数とか低かったような気がするねぇ、ぃつ見ても低かったねぇ」
「そうだぜぃ、リカポンのテストは低かったぜぃ」
「じゃー、何か勉強する暇が無かったじゃんか? 何かー、自分のペースが乱れることがあったんじゃんか?」
「えぇー、リカポンってそんな考える人じゃなかったねぇ、もっと単細胞って感じだったねぇ」
「んー、じゃあそうじゃんかってことじゃんか?」
「そうだぜぃ、純太はちょっと記憶が曖昧になってるぜぃ」
「昔のことじゃんか、だからそうかもしれないじゃんか」
違和感は結構早い段階からあった。
それも二個。
いやまあ口癖をそれぞれ一発と数えたら、五個あるけども。
というか口癖のせいでその違和感が沈みがちなんだよな、もう一個のほうは特に。
最初口癖の一種なのかな、と思ったけども、やっぱりどうやら違うみたいで。
だからまあ言うしかないか。
何か面倒なことになりそうだけども、こんな面倒な口癖のヤツらとこれ以上一緒に居たくないし、さっと言って終わらせよう。
反芻を終わらせた。