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・【08 仲】
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「ちょっと時間を頂きまして、大体分かりました」
と僕が言うと、安藤寧が大きな声を上げた。
「嘘! すごいねぇ! 居場所の話なんてほとんどしてぃなかったねぇ!」
それに呼応するように、榊善が、
「本当にすごいぜぃ! これは有能ぜぃ!」
佐藤純太は冷静に、
「あー、分かるってすごいじゃんか、マジで。えっ? どこから分かったじゃんか? 元々知り合いとかじゃないとありえないじゃんか」
僕は制止のポーズをとりながら、
「いえ、元々知り合いじゃないですが、あれですよね、貴方がたもリカポンさんと元々友達じゃないですよね?」
その言葉を聞いた真澄が驚きながら、こう言った。
「えぇ! そんなことないぞ! 友達を探してほしいという依頼だったぞ!」
それに大きく頷いたのが、安藤寧だった。
「そうそう! 友達だねぇ! リカポンは友達だよねぇ! えっ? もしかするとこの中にリカポンに復讐したぃとか言う人がいるのぉ?」
「オレはそんなことないぜぃ! リカポンに恨みは無いぜぃ!」
「ボクだってそういうことは思ってないじゃんか! 復讐なんてボクは思わないじゃんか!」
僕は一呼吸置いてから、こう言った。
「そうですね、貴方がたは復讐をしたいだなんて思わないですよね」
安藤寧はムッとしながら、
「何か変なこと言うねぇ、リカポンは私たちの友達でねぇ、また四人で集まって遊びたぃんだねぇ」
「そうだぜぃ、邪魔するんじゃないぜぃ」
僕はまあ順序立てて言わないといけないことは百も承知なんだけども、つい口から出てしまった。
「邪魔したい人はいるみたいですけどもね」
「どういうことだぜぃ!」
そう言いながら僕の肩を強く叩いてきた榊善。
その榊善の腕をすぐさま掴んだのが真澄だった。
「何すんだよ、佐助に何かあったら許さねぇぞ」
真澄に睨まれた榊善はビビったのか、腕を震わせて払った。
僕はあくまで冷静に言う。
「すみません、順序立てて言わなかった僕のミスです。まず第一に、リカポンさんは貴方がたの友達じゃありません」
「それがおかしぃねぇ! リカポンは友達だねぇ! それともあれかねぇ! 今、居場所が分かってぃなぃから友達じゃなぃと言ってるのかねぇ! でも音信不通になる友達くらぃぃるねぇ!」
「いいえ、貴方がたの話を聞けば明白です。これは友達関係じゃなくて、イジメです」
それに安藤寧が驚愕し、榊善は何言ってんだという表情で頭をボリボリ掻いた。
僕は続ける。
「居場所を嘘つくのは一緒にいたくなかったから、モノをくれるのは怖くて断れなかったから、リカポンというあだ名の由来がリコーダーで頭を叩くことなら、親しくなる前の段階からリコーダーで頭を叩いていたことになります」
「ぃぃや! リカポンは笑ってぃたねぇ! 間違ぃなぃねぇ!」
「そうだぜぃ! 一緒に仲良くしていたぜぃ! なぁ! 純太!」
「あー、まー、仲良かったじゃんか」
僕は佐藤純太を指差しながら、こう言った。
「それです。純太さんは困った台詞が出ると言葉の最初に『あー』とか『まー』とか付けますよね? 付けなかった時は『それは失礼じゃんか』とリカポンさんを悪く言ったことに対して否定する時などです。純太さん、貴方は当時からあれがイジメということに気付いていましたよね?」
「はぁっ? 純太そんなことなぃよねぇ! イジメなんかじゃなかったよねぇ!」
「そうだぜぃ、ここは足並みを揃えるぜぃ」
「……だから嫌な予感がしたんじゃんか、寧と善と再会した時」
「「はぁっ?」」
疑問形がユニゾンした安藤寧と榊善。
佐藤純太が面倒臭そうに喋り出した。
「あー、やってるほうは友達でも、やられているほうからしたらイジメなんてことはよくあることじゃんか。ボクはリカポン、というか梨花のことは元々知っていたから、できるだけボクもこの輪に入って、中から助けてたじゃんか」
「でもモノを根こそぎもらったこともあるねぇ!」
「あれは返しているに決まってるじゃんか、特にお気に入りのヘアゴムだって知っていたからボクがもらうことにしただけじゃんか」
安藤寧と榊善は明らかにイライラしていた。
思い通りの話にならないばかり、イジメっ子扱いされているわけだから。
佐藤純太が溜息をついてから、こう言った。
「まー、こうハッキリ言う場に第三者がいて助かったじゃんか。さがしもの探偵さん、ありがとうございます」
”ありがとうございます”って、ちゃんと言えるんだと思った。じゃんかを付けずに。
まあこんな感じで終わりだろうと思っていると、安藤寧が小さな声でこう言った。
「じゃぁ、もし本当にそうならぁ、会ってちゃんと謝罪したぃねぇ……」
それに榊善も同調し、
「そうだぜぃ、そんなつもりはなかったということを言いたいぜぃ」
僕はすぐさま”止めよう”と思い、口を開こうとしたが、それよりも先に佐藤純太がこう言った。
「分かったじゃんか、じゃあ梨花にそう伝えておくじゃんか」
「えぇっ! やっぱり純太ぁ! リカポンの居場所知ってるのねぇ!」
「うん、知ってるじゃんか。というか同じ高校じゃんか」
「じゃあそうだったんだぜぃ! すぐに会いに行くぜぃ!」
佐藤純太もそれに頷き、
「とりま連絡するじゃんか」
と言いながらスマホを取り出したんだけども、僕は大きな声で、
「ダメダメ! そういうのは直接会っちゃダメ!」
と叫んだ。
その言葉に全員こっちを見てフリーズした。
僕も思ったより大きな声が出ちゃって恥ずかしがっていると、安藤寧が喋り出した。
「どうぃうことねぇ! 謝罪したぃは間違ってぃなぃねぇ!」
榊善もそれに乗っかり、
「反省してゴメンと言いたいことは正しいことだぜぃ」
佐藤純太も小首を傾げながら、
「いや謝りたいのならばそれはいいじゃんか」
さらに真澄も腕を組んで、
「うん、謝りたいなら謝るべきだと思うぞ!」
僕は意を決して喋り出した。
「謝罪って受け入れる側の気持ちが重要で、謝罪したいほうが主導で動いていいことじゃないんですよ。今の貴方がたはただただ許してもらいたいだけで、正直自己中心的だと思います」
「そんな言い方無いぜぃ!」
「そうねぇ! 謝罪が自己中心的ってどうぃうことねぇ!」
「今言った通りです。謝罪は受け入れる側の気持ちが大切で、心からは許していないのにも関わらず、急に直接やって来て、ゴメンの圧力に押し切られて『じゃあ許します』になりかねないということです。それでは真の謝罪にはなりませんよね?」
「じゃぁどうすればぃぃねぇっ?」
「まず謝罪したい気持ちがあるということだけ、純太さんが梨花さんに伝えてあげてください。それに対して梨花さんの準備が整って、梨花さんがOKを出せば直接会うこともいいでしょう。でも昨日の今日で、というかその場の勢いで謝罪したいと言うことは間違っていると思います。寧さんも善さんもまず落ち着いてください」
すると真澄がデカい声で、
「まず深呼吸だ!」
と言うと、その場にいた全員で深呼吸をした。
安藤寧も榊善も落ち着いたみたいで、
「じゃぁじゃぁ、純太ぁ、まずこっちに謝罪の意志があることを伝えてほしぃねぇ」
「うん、まあそれからだぜぃ」
それに純太さんは真っ直ぐな瞳で頷き、
「分かったじゃんか、そう伝えておくじゃんか」
まあ一件落着といった感じで、ちゃんと終われて良かった。
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