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「俺はどうやって、雅輝に気持ちを表したらいいんだろうな。峠をかっ飛ばして気絶させるくらいの衝撃を与えるなんていう、器用な芸当はできないし」
「陽さんってば、さりげなく俺の運転に文句を言ってます?」
「言ってねぇよ。たださ……」
橋本は言葉を引き結び、大好きな宮本をじっと見つめた。
「はい――」
口を噤んだ橋本の視線を受けて、宮本は慈愛を含んだ眼差しで見つめ返す。
「心だけじゃない、躰の中までおまえの想いが深く刻まれているのに、俺は雅輝に同じようなことができているだろうかと考えた」
「陽さん、そんなの」
「おまえの言いたいことはわかる。だがな江藤ちん、第三者に不安材料を突きつけられたら、自分の間違いを正した上で、雅輝を愛さなきゃ駄目だろ?」
ところどころ掠れた橋本の声に、愛しい恋人の顔色がどんどん曇っていった。
「……陽さんは格好いいから、俺が不安になっちゃうんです。どうすればずっと、自分に惹きつけることができるだろうって」
「恭介ならいざ知らず、俺レベルはそんなにモテねぇよ。30過ぎのハイヤー運転手にぞっこんなのは、おまえくらいさ」
宮本の頭が乗ってる太ももを、ちょっとだけ上げながら顔を寄せて、唇を重ねる。
「んんっ!?」
勢い余ってしまい、互いの前歯がぶつかった衝撃で唇が離された。
「おまえが好きだ、雅輝。いつかは結婚したいと思ってる」
キスのあとに、前日されたプロポーズの返事を口にした。内心ドキドキしているのを隠したら、変なアクセントで告げてしまった。
自分が思ってることを言葉にしたというのに、宮本は信じられないといった表情をありありと浮かべる。
「ほんとに?」
「もちろん。戸籍ごとおまえを縛りつけたいんだ、それくらいわかれよな」
「うっ嬉しすぎる!」
「喜んでるところ悪いんだけどな」
ちょっとだけ頬を染めて、うっとりする宮本に、橋本は意を決して話しかけた。昨日考えていたことを、頭の中でばばっとまとめる。
「――陽さん?」
硬さが増した口調を聞いて、宮本は目尻がちょっと上がるような引き締まった顔を作り込んだ。大事な話を察してくれたことに心の中で感謝しながら、できるだけやさしい声で語りかける。
「俺んチの状況も含めて、おまえの家もいろいろあるし、すぐに結婚しないで、まずは同棲しないか? もちろん将来を見越して、一緒に暮らす感じでさ」
結婚を前提の同棲を提案した途端に、自分を見上げる顔が驚きに満ちていく。
「どどどど同棲……っ。陽さんと同棲、一緒に暮らす、なんて」
結婚せずに同棲するのが嫌なのか、それとも同棲を提案したことに喜んでいるのか――宮本の表情が微妙すぎて、橋本としては二の句が継げられなくなった。
「陽さんと同棲するということは、朝起きた瞬間から隣にいたり、『ただいま~』って家に帰ったら『おかえり』なぁんて返事が返ってきて、キスで出迎えられる感じなんでしょうか?」
「悪いが朝は、俺が先に出るだろうから、寝ぼすけの隣にはいねぇし、おまえより帰宅時間が遅いため、キスして出迎えることはまずないと思う」
マイナスの感情にとらわれることなく、一緒に住んだときの妄想を口走る宮本に、一安心させられたため、ありえそうな現実の話をしてしまった。
「だったら、俺が陽さんを出迎えるね。あー、今からすっごく楽しみだなぁ」
「楽しみついでに現実的な話をするが、とりあえず引っ越し代と転居先の敷金礼金を貯めなきゃ駄目だぞ。あとは物件探しもしなきゃな。雅輝のデコトラを停めることのできる、駐車場を探さなきゃだし」
これからしなければいけないことを言った瞬間から、輝きに満ちていた宮本の瞳からハイライトが消えていき、代わりに絶望という言葉が似合う色が眼差しを支配した。
「うう~っ、貯金苦手。貯めたそばからイベントがあって、つい散財しちゃう」
「それなら同棲の話は、なしということに――」
「しないっ! 頑張るから、俺っ! 無駄遣いしないで貯金して、陽さんと一緒に暮らす!」
決意を新たにしたのか、語気を強めて言い放つなり、両腕で橋本の腰に抱きつく。
「わかった。わかったから、抱きつく位置をズラせ。俺のナニに、息がかかってくすぐったい」
本当にくすぐったかったので、宮本の息がかからないように、下半身を動かして微調整しても、宮本は手を放す様子はなかった。むしろ、さらに力を込めて抱きついてくる。
「雅輝、いい加減にしろよ!」
「トップスピードで愛してくれって言ったのは、陽さんでしょ。俺としては、さっきの続きをしようと考えているんですけどね」
「さっきの続きをするなら、ベッドの上でしようぜ。おまえが打ちつける衝撃が膝にかかって、結構響いてるんだ」
膝の皮膚が擦りむける、ヤワな肌をしていないが、絨毯の上でふたたび絡み合うのがしんどかったので、宮本の顔を自分から引き離しつつ、救いを求める悲しい声で懇願した。
「大丈夫ですよ。次は陽さんの膝に負担がかからない体位で、丁寧にいたしますので」
「ここではいたさない! 絶対に腰を痛めるだろ」
橋本の両手で顔を押されているのに、めげる様子もなく、なぜか必死になって抵抗を続ける宮本に、ウンザリしてきた。でも――。
(お互いの想いを譲らずに、素直であり続けることの大切さを、ちゃっかり学んでいる気がするな)
体力が余ってる宮本がこの場を制するのか、あるいは長いものにわざと巻かれて、やり過ごすことに長けている橋本が勝つのか――トップスピードでやり合う不器用なふたりは、恋する気持ちから、愛し合う想いにシフトチェンジしたのだった。
本編おしまい(* ´∀`)つ≡≡≡愛愛愛)Д`)
ここから番外編で短編の連載をしていきます!