午前中に病院について入院手続きとか荷解きとかしたいのに康夫の帰宅が遅れていた。
11時半には帰ると約束したのに、もう12時をまわっている、妻が入院する日ぐらい早退じゃなく休んで欲しかったのに・・・
口うるさいと彼に責められるのがわかっているから、こちらから電話をするつもりはない。 ようやく帰ってきた彼は、遅れたことを渋滞のせいにした
むくれていた私は彼を無視して彼の車の助手席に乗った、シートベルトをしなくて良いのは妊婦の特権だ、康夫は玄関に置いてある私の入院グッズを黙ってトランクへ詰め込んで、車を発車した
大通りに入る前の信号で康夫は、赤に変わりかけている信号を走り抜けた
「信号無視じゃないっ!スピードの出しすぎよ!」
「遅れているって君が怒ってるからだろ!」
「だからって私を殺すつもりなの?どうしてもっと早く帰って来てくれなかったの?入院してからやりたいことが沢山あるのに!私は生まれてからは暫くは動けないのよ!!!」
康夫も怒鳴る
「これでも急いで帰って来たんだ!!休んだらよかったのか?そうしたら給料が減るぞ!君へ渡す分が減ったらまた文句言う癖に!」
「あなたって時々サイテーね!!私は今からあなたの子共を産むのよ!思いやりってものがないの?」
そう吐き捨てると、私は助手席で無言で怒りを募らせながら、遅くなった康夫のせいでだめになった数々の入院生活の事を考えていた。
あの病院はこれで三回目だから産んだら何がいるかもう知っている、お腹を切るのは初めてだから、どんなことにも対応しておきたかった、しっかり準備をする事で手術への恐怖心が消えるのを康夫はちっとも理解していない。
荷解きをしてタオルと赤ちゃんのガーゼハンカチを一番ベッドに近い引き出しに入れて置きたかった、飲み物もベッドの端へ用意して、写真を沢山撮りたいから充電器もセットして、お箸やカトラリー、手帳や文具は一番端の引き出し、ドラッグストアを探して回っても見当たらなかった、病院のコインランドリーで売っている個包装の洗濯洗剤も買っておきたかった、売店にも行きたかった、そして私に口答えをする康夫が大嫌いだ
私はずっと前を向いていた、悔しくて涙が出る、病院の駐車場に着いてサイドブレーキを上げた康夫がこっちを向いて言った
「ゴメン・・・遅れて・・・・」
最初にその一言を言ってくれればいいのに・・・・
今から赤ちゃんを産むのに夫婦喧嘩なんかしたくない、私も涙をティッシュで拭って言った
「私も言い過ぎたわ・・・ごめんなさい」
こうして私の忍耐力は康夫といることで鍛えられるのだ
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