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楽しみにしています😊
遠くの方で、ツナとシャチの鳴き声が聞こえる。
この声はいつも俺に朝を教えてくれる。
いつもと違う体勢、腕には心地良い温もり、俺ではない誰かの微かな寝息、まだぼんやりとした意識の中で、ゆっくりと目を開ける。
朝まで抱き締め合って寝ていた俺らは、いつの間に繋いでいたのだろう、反対の手を硬く結んでいて、致死量の幸せに身悶えた。
まだ眠っている涼太の顔を何度も目に焼き付けて、頭を撫でて、頬をなぞれば、心臓を紐で締め上げられるような心地になった。たまらなく幸せだった。ずっとこうしていたかったけれど、そうもいかない。今日はメンバー全員での集まりがあるのだ。
名残惜しさを募らせながらも、涼太の頭を撫でながら、声をかける。
「りょうた、朝だよ。起きて。」
「ん、、」
「りょぉた、起きてくれないと佐久間さん寂しくて泣いちゃう」
「ん?…んん、、さくまぁ?」
「うん、佐久間さんだよ?」
「ふへ、さくまだぁ」
涼太は、ふにゃりと笑って、俺の腕の中に潜り込んでくる。俺の腰に回した腕に力を込めて、頭を俺の胸に擦り付け、くふくふと笑っている。
え?なにこの可愛い生き物。は?
朝から意識を飛ばして、また暴走することだけは避けたかったので、衝動をかき消すように、少し強めに涼太を抱き寄せて、俺も涼太の肩口に顔を埋めて擦り付けた。
その衝撃でやっと意識が覚醒したのか、涼太が慌てて離れようとする。
「さ、さくまっ…!! ちょ、ちょっと待って、くるし…っ!!」
「もうちょっと。まだ離れたくない。」
「もう、恥ずかしいって…」
「もっと恥ずかしくなってよ。もっと俺のこと好きになってよ。」
「これ以上好きになったら壊れちゃうよ…」
なぁんでこんなに可愛いこと言うかなこの子は。
涼太を十分に堪能させてもらい、やっと起き上がった。
顔を見て、いつものように
「涼太、おはよ!!」と挨拶をすれば、
「うん、佐久間。おはよう。」と返してくれた。
早く早くとご飯の催促をする愛猫たちに「待ってね〜」と声をかけながら、涼太とリビングへ向かった。
俺は朝もシャワーを浴びるので、涼太に待っててもらい、急いで用を済ませた。
リビングへ戻ると、なにやら美味しそうな匂いがする。
ひょこっとキッチンへ顔を覗かせると、涼太が何かを作っていた。
「あ、佐久間。ごめんね、キッチン勝手に借りちゃった。」
「全然大丈夫!!めっちゃいい匂い!なに作ってるの?」
「軽めにでも佐久間とご飯食べたくて、スクランブルエッグとサラダ。食パンあったからそれも。」
「ありがとう!!朝からこんなにいっぱい食べたことあんまない!!嬉しい!!!」
「ふふ、喜んでくれてよかった」
そう微笑む涼太に、俺の心はまた締め付けられ、サラダを盛り付けている涼太に後ろから抱きついた。
「佐久間、動けないよ…」
「ごめん、今、すんごいんだもん。」
「なにが?」
「心臓がぐわああああああってなって、口から出てきそう。」
「え? どういうこと?」
あまり伝わらなかったのか、涼太にくすくすと笑われてしまった。
てこでも動かない俺に痺れを切らして、涼太は俺にしがみつかれたまま朝ごはんの用意を進めた。
「佐久間、できたよ」
「っ!!ほんと!? やったー! 涼太のご飯だー!」
「運ぶの手伝ってくれる?」
「俺やる!!涼太座って!」
「ふははっ、一緒に運ぼう?」
声を合わせて「いただきます」をして、美味しさを噛み締めた。
今日一日のスケジュールについて話しながら食べ進める。
「そういえば、10時半から集合して何するんだろうね。」と涼太に問いかけてみる。
「確かに、俺も何するか聞いてないな。」
「昨日の今日だからなぁ…怒られたりすんのかなぁ…」
昨日、メンバー全員から喝を入れられた手前、なんだか気まずい。ぼやくように呟くと、
「ん?」と涼太が聞き返す。
「いや、なんでもない…。報告する?俺らのこと。」
「した方がいいかもね。何かあったときに迷惑かけちゃうかもだし。」
涼太と話し合って、どう伝えるかをある程度決めたところで、朝食も食べ終わり、出発の準備を始めた。
家を出る5分前に呼んでいたタクシーに2人で乗り込み、集合場所へ向かった。
タクシーの中で端末を操作していた涼太は、いきなり俺の方を向いたかと思うと、顔を真っ赤にして、 潤んだ瞳で「ありがとう」と言った。
昨夜、 自分で投稿したくせに、面と向かってお礼を言われると、とてもむず痒くて、その気持ちを隠すように涼太の手を取った。