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総理官邸。静けさが重くのしかかる中、タクトは深い息を吐いて、目の前に立つ総理を見据えていた。だが、その総理の瞳はリリスの悪意と狂気に支配されている。
「さあ、どうするタクト君?」
総理(リリス)は冷笑を浮かべながら言った。その声には二重の響きがあり、彼が人間でないことを明確に示している。
「あなたの正義で、私を救うつもりかしら? それとも、このまま逃げ出す?」
タクトは手に握る武器を強く握りしめた。彼の中で葛藤が渦巻く。リリスを倒さねばならない――だが、総理の肉体そのものは罪のない人間だ。
「お前は…リリスなんだろ?」
タクトは低く問いかけた。その目には揺るぎない決意が宿っている。
「ならば、容赦はしない。ただし――」
彼は一瞬言葉を止め、総理の目を真正面から見据えた。
「その体を傷つけずにお前を引きずり出す。それが俺の戦い方だ。」
総理(リリス)はその言葉に笑い出した。その声は高く、不気味で、部屋の中を震わせる。
「引きずり出す? 笑わせないで!」
彼は手を振り上げ、禍々しい黒い光を生み出す。それが一瞬でタクトの周囲を取り囲み、空気が歪む。
「私を倒せると思うな!」
その声とともに、リリスは攻撃を仕掛けた。黒い光の触手が一斉にタクトに向かって襲いかかる。
タクトはすかさず動いた。彼の武器は光を纏い、その刃が触手を切り裂く。しかし、リリスの術式は止まらない。攻撃は次々と繰り出され、タクトを追い詰める。
「お前は自分の体を盾にしているつもりだろうが…俺には別の手段がある!」
タクトは総理の肉体に直接攻撃を加えず、術式の源となるリリスの魔力を狙うように動く。巧妙に隙を突き、彼はリリスを追い詰めていく。
突然、総理の中にいるリリスが悲鳴を上げた。その一瞬の隙に、タクトは彼の光の刃を総理の胸元に突きつけた。ただし、それは殺意のある攻撃ではなく、抑制するための一撃だった。
「お前の負けだ、リリス。」
タクトは静かに言った。その声には怒りよりも哀れみが含まれていた。
総理の目が一瞬だけクリアになり、彼は涙を浮かべてタクトを見た。
「助けて…私は…もう自分が何なのかわからない…」
だが次の瞬間、再びリリスの悪意がその体を支配した。
「タクト、甘いな!」
リリスは総理の肉体を完全に暴走させ、最後の一撃を放とうとする。
タクトは一瞬目を閉じ、深い息を吐いた。そして静かに言った。
「これで終わりだ。」
彼はリリスを封じる術式を発動し、総理の体から悪魔の気配を完全に取り除いた。しかし、その代償として、総理の肉体は一時的に意識を失い、倒れ込んだ。
タクトはその場に膝をつき、疲れ切った表情で総理を見つめた。
「…終わった。」
だが、彼の中には不安が残っていた。リリスが完全に消えたわけではない。彼女の存在は依然として感じられる――タクトの周囲のどこかに、彼女の残り香が漂っているのだ。
静寂が戻った総理官邸に、タクトは一人立ち尽くしていた。
「これで全て終わりとは限らないか…」彼は呟き、空を見上げた。
その空は、嵐の予感を孕んでいた。