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「えぇ、言ったじゃない。そして、私たちはそんな父を地獄に堕とすために情報を集めているの」


ダイキリの目尻に溜まっていた涙が、ついに溢れ、頬を伝った。


若草色のスカートの上に、ポツポツと色の濃い染みが広がっていく。


それでも私は続ける。


ここで彼女を甘やかしては、真実の泥沼から彼女を引き上げることはできない。


「そうしたらギムレットという女性と貴方のことが記録された資料を見つけて、意図的に貴方に接触したってわけ」


「……っ、そ、そんな……う、そ……それじゃあ……わ、私にもなにかするつもりでここに……っ?」


怯え、拒絶するような視線。


私は彼女の目を真っ向から見据えた。


「しないわ」


即答するとダイキリは眼を大きく見開いた。


「な……なんで……っ」


「簡単な理由よ」


私はカクテルグラスを置き、カウンターの上に投げ出された彼女の震える指先に視線を落とした。


「貴方が私たちにとって“利用価値”しかないから」


「利用価値?」


「貴方はまだ若い。健康な肉体がある。それに……」


一拍置いて言葉を選ぶ。


冷酷なまでの現実を、彼女の心に刻み込むために。


「貴方は生きている。だからこそ、役に立てる。過去の犠牲者としてではなく、“今を生きる証人”として。彼を地獄へ落とすための最後の一撃になれる可能性を持っている」


ダイキリは俯きながら、消え入りそうな声で呟いた。


「……わかりません。何もかもが突然すぎて……」


「混乱して当然よ。だけど、貴方の母親を植物状態にしたのは紛れもない私と貴方の父親よ」


「嘘……だ、だって、お父様は、母にいつも優しくて……一番大切にするって言っていたって、母の日記にも……」


「それが彼のやり方なのよ。愛を餌に近づき、飽きたら壊して捨てる。貴方のお母様、ギムレットは、ただ『長いお別れ』を強いられただけ」


私は父の備忘録の写しを、カウンターの上に滑らせた。


湿気でわずかに波打った紙面。


そこには、ギムレットを「面倒な道具」と断じた、父の冷酷な筆跡が踊っている。


ダイキリがそれを震える指で手に取り、文字を追うにつれ、その小さな肩が激しく震え始めた。


呼吸が乱れ、グラスを持つ手が青ざめる。


彼女の中で、優しかった父親の虚像が音を立てて崩れていく。


「こんな……嘘よ……。私たちは家族だと思っていたのに……!」


「あの男にとっては違うわ」


冷たく言い放ちながら、私は自分の唇を噛んだ。

悪役令嬢と悪役令息、地獄行きのディストピア

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