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【第八話:公安の眼光、同期の火花】
翌日、警視庁の屋上。
昼休憩の気怠い空気の中、松田陣平はフェンスに寄りかかり、缶コーヒーを片手にぼんやりと空を眺めていた。
頭の中にあるのは、昨夜見たあの少年の素顔と、キッドが泥棒を続ける理由について。徹夜で考え込んだせいで、思考の霧は一向に晴れない。
「――珍しいな。君がそんなに分かりやすく上の空なんて」
背後からかけられた硬質な声に、松田は視線だけを動かした。
歩み寄ってきたのは、いつも通りの涼しい顔をした降谷零だ。私服姿の彼は、松田の隣に並ぶと、ポケットに両手を突っ込んだ。
「昨夜のキッドの現場、やはり君が先回りしていたそうじゃないか。一課の捜査員たちが、君が煙幕に巻かれて取り逃がしたと悔しがっていたよ」
「あぁ? ……まあな。あのキザ野郎、すばしっこくてよ。あと一歩ってところで煙に巻かれちまった」
松田はいつものようにぶっきらぼうに返し、缶コーヒーを口に含んだ。
だが、そのわずかな視線の逸らし方を、降谷の鋭い眼光が見逃すはずもなかった。
「……松田」
降谷の声のトーンが、一瞬で『公安の警察官』のものへと切り替わる。
「君、何か隠してるな……?」
「あ?」
松田は眉を寄せ、サングラス越しに降谷を睨み返した。だが、降谷の紫紺の瞳は、松田の動揺を見透かすように真っ直ぐに据えられている。
「誤魔化すなよ。君の『嘘をつく時の癖』くらい、警察学校の頃から数え切れないほど見てきている。……昨夜の現場で、一体何があった? 君の身体能力なら、煙幕の手前で奴の身柄を確保できたはずだ。なのに、君は奴をあえて見逃した、あるいは――」
降谷は一歩距離を詰め、声を潜めた。
「奴の正体に繋がる『何か』を掴み、それを僕や一課に隠匿している。違うか?」
心臓がドクリと跳ねるのを、松田は表情に出さないよう必死に抑え込んだ。
さすがはゼロだ。ほんの少しの違和感から、ここまで正確にこちらの動向をプロファイリングしてくるとは。
「買いかぶりすぎだぜ、優等生。俺だってたまにはドジを踏む。あの泥棒が想像以上に手品(マジック)が上手かった、それだけだ」
松田はそう吐き捨てると、飲み干した空き缶をゴミ箱へと弾いた。
降谷はそれ以上追及してはこなかったが、その目は完全に松田への疑念を深めていた。
「いいだろう。これ以上は君のプライドを傷つけるだけだ。……だが、忘れるなよ松田。怪盗キッドは、警察を愚弄する国際犯罪者だ。もし君が妙な情に流されているなら、僕が君ごと奴を引っ捕らえることになる」
「……へっ。やれるもんならやってみろよ」
松田は背中を向け、屋上を後にした。
降谷に疑われた以上、これ以上のんびりとはしていられない。あいつがゼロの網に引っかかる前に、一刻も早く、自分の手で直接ケリをつける必要がある。
松田の足取りは、自然と江古田の街へと向けられようとしていた。
コメント
2件
松田さんケリつけられるのかな……!
ああ、読んでて心臓がドキドキしました……! 松田さんと降谷さんの屋上のシーン、あの張り詰めた空気感がすごく良かったです。降谷さんが「嘘をつく時の癖」って言い当てるところ、警察学校時代の絆を感じさせるようでグッときました。松田さん、まさか自分が一番警戒してる相手に気付かれてるとは…。この先、どうなるんだろう。黒羽くんのことも含めて、続きが気になりすぎます。千導さん、素敵な緊張感をありがとうございます…!
miけぴン
46
花梨
54,611
48
#一般人
유리
56