テラーノベル
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露日が一生ふわふわ末長く幸せにいますように。(血の涙)
夏の夜特有の涼風が、縁側に腰掛ける僕らを撫でる。
虫も静かな七月七日の宵の口。
「笹の葉さらさら、ですね。」
庭の物干しに立てかけた七夕飾りを見てそう言うと、ロシアさんは不思議そうに首を傾げた。
「なぁ日本。あの竹何だ?」
あぁそっか、と飾り付けを指差すロシアさんを見て思い出した。
思い返せば思いっきり東アジアっぽい行事だ。
「七夕、という行事です。少し悲しい伝説があるんですが…短冊にお願い事を書くと空の織姫様が叶えてくださると言われています。」
「ふぅん……願いが叶う、か………。」
ロシアさんは天の川を探すように天を仰いだ。
「……そういえば、私もお願いがまだでした。一緒にどうですか?」
「……織姫は、他言語にも対応してるのか?」
「………元々、中国さんのところの行事ですので…恐らくは……。」
どこか不安そうな彼に笑いを堪えながら折り紙セットを取ってきて、ハサミで切って長方形に、と指示を出す。
「じゃあ、書いてみる。」
ロシアさんはいそいそ筆を取った。
しんとした夜に、墨の香りがほのかに立つ。
切り出した一枚を膝に置き、どんな願い事にしようかと迷いに迷う。
健康のこと、仕事のこと、人間関係のこと……。
考えがまとまらず、気付けばずいぶん長い時間が経っていた。
やっと一行書き終えて隣をみやると、積み上がった紙の束が目に入った。
「……えっと、ロシアさん……?それは……。」
「ん?あぁ、願い事が一枚じゃ足りなくてな。」
「幾つ書いたんですか……?」
「さぁ…数えてない。」
説明不足だったか、と額に手を当てる。
「すみません。お願い事はひとつだけでして……。」
「そうなのか?」
案外融通が効かないんだな、と呟いて、ロシアさんはしばらく黙って目を伏せた。
「なら、これにする。」
抜き取られたのは、水色の千代紙。
その上には、幼い子供が書いたようなひらがなが並んでいた。
『にほんといっしょにいる』。
『よ』が『お』に似ていて、お願い事なのに断定形になってはいるが、きちんと意味の伝わる文章。
血管から染み出すように、じわりと頬に羞恥が滲む。
ロシアさんは生真面目な顔を崩さずにこちらを見つめたまま、一言も喋らない。
すっと指先が伸びてくる。
首に絡められた腕は、思ったよりもずっと優しかった。
目を閉じる間際、唇にやわらかな熱が落ちる。
ちりん、と茶化すように風鈴が鳴った。
身を離すと、ロシアさんはふっと微笑んだ。
「じゃあ……他のお願い事は、全部お前が叶えてくれ。」
「いっ、一個だけです!!」
「そうか?残念だな。」
悪戯っぽい形を取る唇に目を奪われる。
「……で、日本は何て願ったんだ?」
「……他のお願い事、叶えてあげますから……。」
短冊をできるだけ廊下の奥へと滑らせる。
ロシアさんの指が襟元に触れる。
『ロシアさんと一緒に居られますように』。
そんな想いをしたためた短冊が、胸の中で揺れていた。
(終)
コメント
4件
コメント遅れました .. 😭😭 🇷🇺🇯🇵 もうほんっと大好き 🫶🏻️❤️🔥 七夕に読む 🇯🇵受小説は体にいい 🥹🫶🏻️💓 外国の人が書く 日本語って 本当に可愛いのよね 🫠💖 それを想像しながら 読んでいたら自然と母性反応が .. 🥺🥺🥺
幸せになれよ…((満面の笑顔