テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
猫とろ
186
ねらち
111
食事を終えたあと、美少女探偵と加賀美警部補は、案内されて部屋へ向かった。
和風で質素だが、木の香りがする素朴で心地よい部屋だった。障子の向こうに庭の気配があり、備え付けられた布団が二つ、きちんと並んでいる。ここが二人の部屋だと知らされ、姫は小さく礼をした。
浴衣のまま布団に入る。冷やしていた体が、徐々に温もっていく。姫はうっとりとした顔で、隣の加賀美にそっと抱きついた。加賀美は拒否しなかった。ただ、短い吐息を一つこぼし、抱き返すでもなく、離すでもなく、そのまま動かずにいた。
お互いの体温だけが、暗い部屋の中で確かだった。やがて二人は、その温もりの中で眠りに落ちた。
——午前零時前。
絹を切り裂くような、甲高い悲鳴が廊下を駆けた。
加賀美の目が開く。体はすでに起き上がり、扉に手をかけていた。姫も遅れて起き、裸足のまま後を追う。長い大廊下を、足音が重なる。
突き当たりに近い場所で、異様な姿が立ち尽くしていた。
白髪を振り乱し、狂気を帯びた猫の仮面。肩から落ちるマントには、銀河のような斑模様が闇に沈んでいる。鉤爪のついた手が、淡く光っていた。タタリ——現象だと思っていたそれは、人の形をした怪人だった。
悲鳴を上げていたのは、最初に出会ったネコミミ美少女だ。耳が伏せられ、しっぽが強張っている。次の瞬間、タタリが鉤爪を振り上げた。ネコミミ美少女の体がふわりと浮き、まるで打ち捨てられるように後方へ吹き飛んだ。ガラス戸を破り、裏手の池へ落ちる。水音が低く響き、上半身が池に埋まり、足だけが岸に投げ出されて動かなくなった。
「ひっ……!」
姫の膝が折れ、その場にへたり込む。加賀美は一瞥もくれず、タタリへ直線に走った。
距離を詰めた瞬間、かかと落としが落ちる。タタリは鉤爪でそれを受け、金属音に似た鋭い音が廊下に散った。加賀美は着地と同時に重心を下げ、今度は低踢で相手の膝を狙う。タタリはマントを翻して距離を取り、鉤爪を連ねて斬りつけてきた。壁紙が裂け、木屑が舞う。
加賀美は後ろへ飛び、すぐに前へ戻る。拳ではなく、肘と膝、そして踵。警察の制圧術に、実戦で磨いた間合いが乗る。鉤爪がジャケットの袖を掠め、布が裂ける。構わず踏み込み、相手の仮面の横を掌底で払った。タタリの体が傾ぐ。その隙に回し蹴りが入り、マントの端がはためいた。
「……っ」
声のない息が、仮面の向こうから漏れる。タタリは鉤爪を交差させて防ぎ、廊下の闇へ一歩、また一歩と下がった。加賀美は追撃の体勢を崩さない。呼吸を整え、次の一撃の角度を測る。廊下の灯りが揺れ、二人の影が長く伸びた。
その間に、姫は池の方へ這うように進んでいた。膝がまだ言うことを聞かない。それでも指先が縁にかかり、冷たい水に触れる。動かないネコミミ美少女の腕に、必死に手を伸ばす。
——触れた。
その瞬間、意識の底で何かがほどける感触があった。いつもの、説明のつかない力。姫自身も意図していない。ただ「助けたい」という想いだけが先走った結果だった。
水面が小さく膨らみ、ネコミミ美少女の体がゆっくりと池から引き上がる。咳が入り、耳がぴくぴくと動いた。生きている。姫は安堵で前のめりになり、そのまま相手の肩を支えた。
「大丈夫……でごぜぇやすか……」
返事の代わりに、弱い咳が返ってくる。それだけで十分だった。
振り返ると、廊下の向こうで加賀美が立ち止まり、正面を見据えている。タタリの姿は、もうそこになかった。銀河模様のマントが揺れた残像だけが、記憶にこびりついている。隙を見て、逃げられたのだ。
加賀美は裂かれた袖を一瞥し、こちらへ歩いてきた。池の縁でうずくまる二人を見て、短く息を吐く。
「無事か」
「は、はい……こちらの方も、どうにか」
ネコミミ美少女は、まだ伏せたまま小さくうなずいた。遠くで、家のどこかが軋む音がする。タタリは逃げた。しかし、消えたわけではない。
夜は、まだ深かった。
続く。
コメント
3件
うわあ、第68話めっちゃ熱かった…!!😭🔥 加賀美さんの戦闘シーンがかっこよすぎて画面に釘付けだったよ…!肘と膝と踵の制圧術、動きが目に浮かぶようで鳥肌立った💫 それに姫ちゃん、怖くて膝折れてるのに池に這っていって手を伸ばすシーン…もう涙腺やばかった…「助けたい」って想いが力を呼び覚ますの、尊すぎるでしょ…🥺💕 ネコミミ美少女の耳ピクピク動いて生きてたところ、ほんと良かった…。 夜はまだ深くて続きが気になりすぎる!次の話が待ちきれないよ〜!!🌸