テラーノベル
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笑未
奏多
捜査に大きな進展がないまま時間だけが過ぎていく。季節はすっかり冬へと移り変わり、窓の外には小雪がチラついていた。
焦ってもどうにもならないと分かってはいるものの……どうしても心はそわそわと落ちつかない。長期戦になるかもしれないからもう少し肩の力を抜けと、ルーイ様に何度も注意されているのに――
予言者を捕らえない限り、事件が解決したとはいえない。相手側もこちらを警戒しているようで、なかなか尻尾を掴めないのが現状だった。それでも、今の時点で判明している情報を手掛かりに警備隊の捜査は続いている。皆が頑張ってくれているのだから、悲観してはいられない。私も自分に出来る事を精一杯やろう。
「クレハー、いるー? ちょっと話があるんだけど今いいかなー」
「ルーイ様」
部屋の入り口から私を呼ぶ声が聞こえた。声の主はルーイ様だ。昨日から彼は王宮の方に行っていたはずだが……もう帰ってきたのか。
ルーイ様はレオンの要望で現在も私の家に滞在してくれている。当初ほど付きっきりという感じではなくなり、必要があれば王宮や軍の詰所にも行き来していた。あくまで拠点が私の家ということになっている。
ルーイ様がいることで、屋敷の雰囲気がずいぶんと明るくなった。女性使用人たちは相変わらずルーイ様のカッコ良さにはしゃいでいるし、オーバンさんはルーイ様から語られる外国の珍しい料理の話に興味津々だ。そして、私にとって最も嬉しかったこと……それは、満身創痍だったお父様の状態が徐々に快方に向かっていることだった。
不規則になっていた食事を改善させたことに加え、ルーイ様が定期的にお父様の話し相手になってくれているおかげである。彼が以前神職に就いていたという設定はこんなところでも役に立った。お父様はルーイ様に対しては悩みや不安を打ち明けやすいみたい。娘の私には言いにくい話を聞いて貰えるのは、かなりストレス軽減に繋がっているようだ。
「おかえりなさい、ルーイ様」
「ただいま。外めちゃくちゃ寒かったよ。雪も降ってるし、すっかり冬だね」
「どうぞこちらに掛けて下さい。すぐに温かい飲み物を用意しますね」
暖炉側にあるソファに座るように促すと、ルーイ様は両手を擦り合わせながら着席した。体も小刻みに震えている。どうやら彼は人一倍寒さに弱いようだ。部屋の温度をもう少しだけ上げた方が良さそうだったので、私は暖炉に薪を焚べた。そして、クローゼットから膝掛けを取り出してルーイ様に手渡した。
「ルーイ様、これ使って下さい」
「サンキュー」
やはり相当寒さが堪えているらしく、彼は膝掛けを素直に受け取った。神様って寒がりなんだな。
「レオンは相変わらず忙しそうにしてたよ。それでもピークは脱したみたいで、近いうちにお前に会いに来るって言ってた。詳細はエリスで連絡するから頭に入れておいてくれってさ」
「本当ですか!? 嬉しいです。心配してたんですよ……レオンが頑張り過ぎて倒れちゃうんじゃないかって」
ルーイ様や『とまり木』の面々は頻繁に王宮と我が家を行き来しているが、私自身はあれから一度も王宮には上がれていない。そのため、レオンと直接会うのは久しぶりになる。禁止されているわけではなかったけど、忙しいと分かっている所に押しかけるのも気が引けていたのだ。
「捜査が停滞しているせいで苛立ってるとこはあるけど、休息はきちんと取れてるみたいだから安心しな。詳しい話は今度会った時に本人から直接聞くといい」
「はい。ありがとうございます、ルーイ様」
「どういたしまして」
ルーイ様は紅茶の入ったカップを口元に運ぶ。熱い紅茶を一口啜り、ほうと息を吐いた。体の震えも収まったみたいで良かった。
自宅待機が多くなった私のために、ルーイ様はお茶を飲みがてら近況報告をしてくれるようになった。今回も昨日の王宮訪問の際に見聞きした内容を私に教えてくれるようだ。
「さて、レオンについては本人から聞いて貰うとして……俺からは何を話そうかな。あっ、そうだ。拘束されてたニュアージュのふたり……処分が正式に決まったらしいよ」
「ニュアージュの……『カレン』と『ノア』ですね。現在は島の牢獄で捕らえられていると聞いていましたが……」
『エルドレッド』というニュアージュの魔法使いの仲間であるふたり。本来なら厳罰に処されるはずであるが、ルーイ様と取引をしたことにより、処分が保留になっていた。
「ニュアージュ側にも事情を説明して話し合いをした結果……示談が成立したよ。ニュアージュはこちらに対して多額の迷惑料を支払うことになった。もちろんそれには俺への見舞金も含まれてるからね。カレンとノアは近いうちにニュアージュへ強制送還されることになる」
「つまり、本人たちは特に罰を受けることなく解放されるのですね……」
彼らがした事を考えるとモヤモヤしてしまう。でも、グレッグに関する情報提供で、こちらの捜査にかなり貢献したという事実は否めない。
ルーイ様は『エルドレッド』がニュアージュの要人であるという予想をしていたが……この結果を見ると、それはあながち間違いではなかったのではないだろうか。
「釈放はされるけど、しばらくは監視付きの生活になるらしい。それに、コスタビューテへの再入国は無期限で禁止になったそうだから、あんまり心配はいらないんじゃない?」
「ルーイ様がそう仰るなら……」
そういえば、リズが『カレン』……女の子の方の状況を気にしていたな。もう二度と会うことはないかもしれないが、この結果を知れば少しは安心するだろう。
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