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「本当に傷が残らなくて良かった」

「リースが手配してくれた魔道士達のおかげでね。あれだけ深い火傷おったのに、傷一つ残らないなんて、矢っ張り魔法って便利だね」

「そうだな……エトワールの綺麗な身体に傷が残ったりでもしたら……」

「何か、意味深に聞えてしまう私って、大分頭やられてる?」


怪訝そうに俺を見る彼女もまた可愛かった。

ダズリング伯爵との交渉協定を結び、エトワールとゆっくりしようかと思った矢先、呼び出しを喰らった。俺が引き金となった災厄の進行、またヘウンデウン教の動き。それら全てを、皇太子である俺が引き受けることになった。これは、罪滅ぼしでもあったし、そうしなければならないと直感的に思ったからだ。

この世界にきてから、戦場に度々足を運び人をその手で殺してきた。

平和な時代に生れた俺やエトワールに取って、戦争とは過去に起ったもの、悲惨なものという悲しいものと分かっていながらその実、実感のないもので、授業で習いはするもののやはり自分事には考えられなかった。

悪いものは悪いと分かる。ただ、それを経験していないからこそ、その悲惨さや、危険性を理解していない。

鉄の塊のような兵器をつかい戦争をしていた俺たちの世界とは違い、中世ヨーロッパ風の此の世界では、馬に乗り戦場を駆け回ったり、勿論その足を地面について敵に特攻したりとどちらかと言えば、人の体力や頭が有無を言うものだった。それに咥えて、きっと鉄の兵器よりも優れている魔法なども使い、戦場では絶えず死者が出た。

魔法を使えるものは限られているが、それでも一人に対し爆弾や戦車のような威力を持ち大勢の人間をいとも簡単に吹き飛ばせるのだから、魔法は此の世界で言う兵器としか言いようがなかった。

魔法は良いものだという。魔法を使えるものは優遇され、その魔力が高ければ高いほど評価される世界であった。それは、一般的に貴族に限られることが多かったが、平民で使えるものも少なからずいた。人を殺すことが出来るのに、誰もそれを取り締まらない。魔法が便利であることを、殺傷性がある以前に知っているからだろう。


俺も魔法を使える一人だったから、その便利性は知っている。

剣で直接人の首を跳ねなくて良いのは、魔法の良いところなのかも知れない。

そんな風に平和な世界で生れてきたために、いざ本物戦場を目の前にして少しばかり足がすくんだ。授業で見せられた戦争の映画などとは比べものにならないリアルで、血なまぐさい戦場がそこに広がっている。

俺は、途中からこの身体に転生した身である為、元の持ち主が戦場では英雄のように扱われていたが為に俺が後ろで黙って見ていればどうしたんですか? と不思議なめをされた。人を殺すこと、沢山殺す事が戦場では求められた。そうして、この身体リースはそんな沢山の屍の上に立っていた英雄だったのだ。

俺は、ためらった。命乞いをする人間の首を跳ねられるのか、だが、そうしなければならなかった。だからそうした。


この世界にきて、人を殺して、俺は元のリースの英雄という座を保持し続けた。

未だになれないが、それでもいくらかは、人を殺すのにも慣れてしまった。血を見るのも、魔法を使うのも。こういうのは、慣れが怖いと知っているのに。

エトワールが来る前までは、そこまで頻繁では無いものの戦場に出向く機会があった。だが徐々に減っていき、このまま平和が続けばいいと思っていたが矢先の出来事だった。エトワールを一人残していくにはしのびなかったが、彼女は自分のやるべき事をやると、俺を見送った。

そうして、帰ってきたときエトワールの負傷を聞きつけ、戦場にいるときよりもギュッと心臓を捕まれるような思いをした。


「それはそうと、あのメイドはどうなったんだ?」

「ああ、ヒカリのこと?」


事情は大方聞いて、何があったか、そしてその事件が解決したことを知った。

エトワールも随分強くなって、戦うことから逃げなくなったように思えた。魔法を乱暴に撃っていた守ってあげなければいけない女性から、彼女は成長していた。だが、彼女がそれになれて、魔法を使って人を殺してしまったとき、罪悪感を覚えたら、立ち直れなくなってしまうかも知れないと、そこは常に心配している。


(本当に、火傷の痕が残らなくてよかった……)


俺は暴走して以降、自分の感情を前よりもコントロール出来るようになった。そうしなければ、感情のまま人を傷つけてしまうことを知ったから。それに、エトワールにまた悲しい思いをさせてしまうと思ったから。俺も、精神面でも成長したと実感した。

以前の俺なら、事の発端となったメイドも、暴走していたとは言え魔法でエトワールを殺しかけた伯爵家の長男も殴っていたところだろう。けれど、それをしないのは、エトワールが望まないからである。彼女が許しているならそれでいいと、少しのモヤモヤは残りつつ、俺はそれを受け入れた。


「どうした? まだ、痛むか?」

「ああああ、うん、何でもない! 何でもないの!」


俺をじっと見つめる彼女の夕焼けの瞳と目が合う。

彼女は慌てて首を横に振った。そんな姿も愛らしい。

彼女とはあの事件以降、友人という形に収まったが、俺は必ず彼女とよりを戻そうと思っている。それは、力尽くではなく自分の行動で、言葉でだ。彼女が俺を好きと思えるように、そんな男になろうと思った。エトワールへの気持ちは日に日に増すばかりだ。


「そうだ、リース。ヘウンデウン教の動きはどうだったの?」

「報告に聞いていたほどこの間の戦いは激しくはなかった。俺がきたのを見て引き返したぐらいだしな」

「リースがきて勝ち目がないって思ったんじゃない?」

「いいや、数で言えば俺たちの方が圧倒的に少なかったし、負傷者もいた。あの数なら、俺たちの軍勢がくる前に押し切ればあちら側に勝算はあっただろうに」


彼女はそんなふうに俺の事を心配してくれた。無意識だろうが、それが俺には嬉しかった。

まだ病み上がりだろうに、次のことを視野に入れて本当に素敵な女性だと思う。それが無意識に出来ているのがまた彼女の凄いポイントだ。


「エトワールがいるんだ、生きて必ず帰ってくるに決まっているだろう」

「別に、私そこまで聞いてないんだけど」


エトワールは、そう言うとあきれたとでも言うような、それでいてよかった。と言ってくれているような表情を俺に向けた。

それがつい可愛らしくて、からかってしまう。


「そんな難しい顔をするな。可愛い顔が台無しだぞ?」

「かわ、可愛い……ぴぎゃ!」


ややオーバーな、驚きすぎな彼女を見て俺はプッと吹き出してしまう。そういう所は何も変わっていないと安心する。

だが、やはり自分が強欲だと俺は自分で自分が情けなく思った。


(こんな時にこんなことを言うのは、間違っているとは思っているが……)


「デートをしないか?」

「は?」


予想していた反応を返され、思わず肩を落としてしまいそうになった。だが、わかりきっていたことで、俺が間違っているとは思っている。それでも、あの血なまぐさい戦場から帰ってきて、彼女の温もりに触れていたいと思うのは仕方のないことで、ご褒美が欲しいと思ってしまっていた。

分かっている、状況が状況で、彼女は病み上がりだ。

それでも、こう言ってしまうのは、彼女が俺の全てを許してくれるだろうという傲慢さからか。


「で、デート?」

「ああ、デートだ」

「なんで? 誰と?」

「俺と」


彼女は呆れたというような表情をした後、顔を真っ赤にした。その反応を見て、もう一押しすればいけると、再度デートがしたい。と伝えれば、彼女は首を縦に振ってくれた。


「あ、あ、でも! これはデートじゃないから!」

「いや、デートだろ。男女が二人きりで出かけるなんて、歴としたデートだろ」

「ド偏見! というか、私達友達って言ったよね!? 今度、デートって言ったらもう二度と一緒に出かけてあげないんだから!」


友達と、あえて主張する彼女。

確かに、その関係に落ち着いたが、俺は納得していない。いつかその関係を脱却して、恋人に……その先の夫婦になれればとも思っている。いつの話になるか分からないが、外堀を埋めれば良いだろうと、邪で最低な考えも浮かんでいる。バレたらどうなるか分からない。幻滅されるだろう。

そうして、俺はエトワールとのデートを取り付け、人の少ない城下町へ繰り出したのだが……


「さて、お喋りはここら辺にしておこうかな。俺たちの悲願のためにもエトワールは必要なんだ。てことで、兄さん、皇太子殿下じゃあね」


いきなり現われた男に、エトワールが連れ去られてしまう。

何度目の前で彼女を失ったことだろうか。伸ばした手はいつも届かない。

あの調査の時と同じく、いいやそれ以上に俺の中に憤怒と絶望が渦巻く。


「ッチ……」

「…………」

「おい、何とか言ったらどうだ。アルベド・レイ」

「呼び捨てとは、皇太子殿下」

「お前のお喋りには付合っていられない。あの男は何だ」


取り残されたのは俺と、アルベド・レイ。静かな城下町のとある道路のど真ん中で、俺はアルベドを睨み付けた。彼は、しらをきり通すつもりか、何のことやらと肩をすくめる。

アルベドは確かに先ほど、エトワールを連れ去った男に兄さんと言われていた。確かに思えば、似ているように感じたし、彼に兄弟がいることは把握済みのためそういうことなのだろう。だが、どういう関係か、アルベドは弟であるあの男を憎んでいるように見えた。殺気がすごい。


「……俺の弟だ。皇太子殿下」

「何故、そいつがエトワールを?」

「さあな……ただ、彼奴を野放しにはしておけない」


と、アルベドは目つきを変える。

俺への敬意も何もかもなくなった、ただ弟を捕まえるエトワールを助けることだけに集中した目を見て、俺は思わず溜息が出た。それを見て、アルベドは不快だというような目を向ける。


「その反抗的な目、皇族への態度とは思えないな。貴様もヘウンデウン教の回し者か?」

「……なわけねえだろ。俺を彼奴らといっしょにするな」

「その喋り方が、素のようだな」


俺は、ハンッと鼻を慣らしつつアルベドを見る。アルベドはさらに眉間の皺を深く刻んだが、俺は別に挑発そしているわけでは無い。

今は、この間の事を目を瞑って協力するしかないと考えている。


(こいつのことは気にくわないが……)


エトワールの笑顔が頭をよぎり、彼女を失ってたまるものかと、俺はアルベドに手を差し伸べた。


「どういった風の吹き回しで? 皇太子殿下」

「また同盟を組もうと思ってな」

「同盟?」

「ああ、エトワールを助ける同盟だ。この間の事を水に流すわけではないが、エトワールの命が最優先だ。それに、どう貴様もいくつもりだったのだろう?」


と、俺がいってやれば、アルベドは舌打ちを鳴らした後、俺の手を取った。

気にくわない奴ではあるが、頼れる男であることはエトワールに言われなくても分かる。俺が暴走している当時、彼女を守ってくれたのは彼だったから。


「悪いが、俺は皇太子殿下の命までは守れないんで、そこは自分で守れよ」

「貴様に守られる筋などない。安心しろ、俺も貴様を守る気などない」


そういえば、アルベドはそうですかと、笑い、耳にその紅蓮の髪をかけた。


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