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頼られるとは、案外悪くねえかも知れない。

皇太子殿下の暴走後、事件はほぼほぼ俺とエトワールで解決し、柄にもなく皇族と協力関係を結ぶことになった。本来であれば、光魔法の皇族と、闇魔法の家門であるレイ公爵家は相容れない存在であり、お互い不干渉でいることで均衡を保ってきた。だが、それを覆し手を結んだのは、俺の夢のため。

話し合いでこれまでの歴史が覆るわけではない。もし、話し合いで全てが解決する平和な世界であれば、光魔法と闇魔法などという区別はないだろう。それが一向になくならないのは、互いに嫌悪し、差別し合っているからである。


光は闇を恐れ、闇は光を恐れている。


そのせいで、わかり合えないものだと、真逆の存在であると互いに壁を作っているのだ。

それを壊して歩み寄ってくれたのが、エトワールだった。

彼奴との出会いは最悪なものだった。少なくとも、エトワールにとってはだ。俺にとっては、偶然の出来事でただ現場を見られたに過ぎなかったが、彼奴にとっては一種のトラウマだろうなと未だに思っている。汚れを知らないような、血を嫌う少女の目をしていた。だからこそ、死体を見て悲鳴を上げたのだろう。

そうして、会ったこともないのに、勿論俺も初対面だったが彼奴は俺の名前を呼んだ。

月明かりに照らされた彼女の髪は、今でこそ銀髪だと分かるが金色に見え、その美しさに魅了された。彼女が聖女であることをその時理解したのだ。だが、聖女が国から寵愛される聖女がこんな所にいるだろうかという疑問もあった。だから、半信半疑だったが、後に彼女が「偽物」と呼ばれる聖女だということを知った。

光魔法を使え、その魔力量は果てしないのに、彼女は伝説上の聖女と容姿が違うだけで差別を受けた。災厄をもたらす災いだと、酷い言われようだった。俺たちの住む領地にもその噂は流れてきた。


皇太子を誑かしただの、贅沢三昧しているだの。根も葉もない噂ばかり。

俺が出会ったその偽物は、そんな事をするような奴じゃないと思った。少なくとも彼奴はそんなことが出来るような女じゃないと。俺はその噂を信じなかった。

そうして、もう一度彼女に会ってみたいと呼び出し、そこで彼女は突拍子もないことを言う。アホだと思った。それでも、本人は真剣になって言うものだから、笑えてきて仕方がない。そんな彼女を愛らしいと思った。

俺は別に女に興味があるわけじゃねえ。よってくる女は容姿を見てか、それとも闇魔法の家門で、その権力を高めたいだけかの二択ぐらいで、俺の事をちっとも見ようとしなかった。闇魔法の令嬢が俺の夢を聞けば、きっと理解できないと去って行くだろう。

そんなふうに育ち、一度女に殺されかけた経験もあった俺は、孤独を好んだ。

周りの奴らが信用出来ないほどに、自分の周りは危険で溢れていた。いつ殺されるか分からない、襲われるか分からない。そんな緊張状態が続き、当たり前になり、きっとズッとそうやって生きていくんだろうなと思った時にエトワールに出会った。


彼奴は偏見を持たなかった。

光魔法の奴らに対しても、闇魔法の奴らに対しても。その歴史を知っているだろうに、自分の天敵だろうに彼女は俺と関わっても悪いかお一つしなかった。

俺がからかえば子供のようにきゃんきゃん突っかかってきて、でもどこか大人びている部分もあって、不思議な感覚になった。

俺はこいつは、エトワールといるときだけ自分でも分かるぐらい頬が緩んでいた、彼女といる時だけは肩の力が抜けた。

彼女の独特な雰囲気が、少し幼稚で、それでいて偏見も持たない彼女といるときが幸せだと感じていた。一見すれば、面倒くさい女なのに目が離せなくて、ついついからかいたくなってしまう。からかえば、彼女は決まって嫌そうなかおをしたが、それすら可愛いと思ってしまった。

かなり重傷だと自分でも思う。


「あーあいてぇ」


皇太子の事件からそこまで経っていないというのに俺はエトワールに会いたくて仕方がなかった。

あの時、彼奴は俺をパートナーとして選んだ。頼られるとはどういった感覚なのか、頼られることの幸せや嬉しさを知った。頼られるというのは、存外悪くない気分だった。

今まで誰も信じてこれなかった俺を、信じて頼ってくれたことが何よりも俺の心に響いた。

そんなエトワールは、三日も眠っていた。俺はその間、彼女の為に自分に出来ることを探し、その結果皇太子と父親の了承を得ずに交渉し、災厄への対策に協力することを申し出た。俺が使える権限、権力と言えば公爵家の半分だろうが、それでもいくらかは力になれるだろう。皇族や光魔法の貴族達は気にくわないが、これも全てエトワールの為になると思ったからだ。

残りの半分はヘウンデウン教の息がかかったラヴァインの勢力。彼奴らは徹底的に光魔法を嫌っていた。

公爵家は分裂状態だ。そして、それがぶつかる日も遠くないだろう。


「ほんと、兄さんってエトワールの事好きだよね」

「久しぶりに顔をだしゃ……何を言い出すかと思えば……ッ!」


聖女殿にいくかどうか迷い、城下町まで転移したところで俺は背後から弟であるラヴァインに襲われた。どこから監視していたのか、それとも俺の行動パターンを把握してか分からなかったが、奇襲に俺はナイフを抜いて対応した。

あまり表立って動かないラヴァインが俺の目の前に姿を見せ、襲ってきたところを見ると何か裏がありそうだと俺は彼の攻撃を横へ流す。

隠居生活をしてたんじゃねえのかと、俺は距離を取りつつ、自分とは違うくすんだ紅蓮を見つめる。


(こんなのが、弟なんてな……)


小さい頃の俺は夢を見すぎていたのかも知れない。

弟とは仲良くやっていける、たった一人の弟だから守らなければ……そんな時期が俺にもあった。だが、ラヴァインを次期当主にと動いていた公爵家の従者達によってそれはいとも簡単に崩された。ラヴァインはそれをきに、自分が公爵家を継げるものだと慢心し、俺を暗殺しようと何度も刺客を送ってきた。

ただ怠惰にまかせていたわけではないため、彼奴は頭はそこまで悪くなかった。だから、一向に捕まえることが出来ない。殺そうと思えば殺せるのだろうが、俺はどうしても自分の弟であるという感情を捨てきれずにいた。その弊害がここで出た。


「だって実際そうでしょ。隠さなくても良いって」

「……ッチ!」


俺は舌打ちをし、ナイフを構える。すると、ラヴァインもまた剣を構えた。

俺は今すぐにでも、こいつの首を跳ね飛ばしたい衝動を抑えながら、冷静になれと言い聞かせる。俺は、今この場でラヴァインを殺したところで何も変わらないことは分かっていた。どうせ、俺には殺せない。


「だから俺、すっごく良いこと思いついたんだ。兄さんをどうやったら絶望させられるか、ずっと考えてたから……ようやく兄さんをぎゃふんと言わせることが出来るって」

「ハッ! できんのかよ!」


そう俺が言えば、勿論とラヴァインは答え、詠唱を唱えた。それが、攻撃系のものではないと分かったため俺は隙を突いて攻撃を仕掛けたが、詠唱が終わった後、姿が変わったラヴァインを前に俺はナイフを止める。


「悪趣味だな」


ラヴァインは魔法で俺に変装し、にこりと微笑んだ。

どういった意図があってその魔法を使ったのか理解が出来ずにいれば、お喋りな弟は分かるでしょ? とでも言うように俺に背を向けて走り出した。風の魔法で走る速度を速めたラヴァインを俺はすぐに見失ってしまった。そう、遠くへは行っていないはずだろうと、俺も風魔法を使い高いところからラヴァインを探す。

そうして、見つけた彼奴は俺の姿になりすましエトワールに話しかけていた。ようやくラヴァインの意図が理解できた俺はエトワールに向かって叫んだ。


「エトワール、今すぐそいつから離れろ!」


だが、それも遅くエトワールはラヴァインによって連れ去られてしまった。

全ては俺の落ち度だ。


「ッチ……」

「…………」

「おい、何とか言ったらどうだ。アルベド・レイ」

「呼び捨てとは、皇太子殿下」

「お前のお喋りには付合っていられない。あの男は何だ」


その場に残ったのは俺と、皇太子だけだった。皇太子は、不機嫌を通り越して怒りで我を見失いそうだった。あの時の暴走と比べりゃ可愛いものだが、皇太子がエトワールに好意を抱いているのは明白だった。

少なくともライバルは一人じゃないと言うことだ。

俺は皇太子の質問に軽く答えつつ、どうしたものかと考える。

ラヴァインの性格上、すぐにはヘウンデウン教の奴らに引き渡さないだろう。そう考えると、別荘に逃げたか。

そんな風に考えていると、いきなり俺の目の前に手が差し出された。皇太子が俺に何かを求めるよう手を差し伸べていたのだ。


「どういった風の吹き回しで? 皇太子殿下」

「また同盟を組もうと思ってな」

「同盟?」

「ああ、エトワールを助ける同盟だ。この間の事を水に流すわけではないが、エトワールの命が最優先だ。それに、どう貴様もいくつもりだったのだろう?」


と、見透かしたようなルビーの瞳が俺を捉える。

考えていることは一緒という訳か。

個人的な同盟を結ぶのはこれが初めてではない。あの調査の時もそうだった。

皇太子とは中々に縁があるなあと思いつつ、俺はその手を取った。


「悪いが、俺は皇太子殿下の命までは守れないんで、そこは自分で守れよ」

「貴様に守られる筋などない。安心しろ、俺も貴様を守る気などない」


そう悪態つけば、皇太子は馬鹿にするように笑った。

まあ、一人で乗り込むよりかはマシかと、また別の意味で人のことを頼るのだと、皇太子なら裏切りはしないだろうと、俺は信頼とは呼べないかも知れない感情を抱きながら、皇太子と話し合った後、転移魔法を唱えた。



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