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続き
最近、屋上に行っても――
涼架がいない日が増えた。
最初は「たまたまかな」と思っていた。
でも、それが何日も続くと、さすがに気づく。
「…避けられてる?」
元貴はフェンスにもたれて、小さくつぶやく。
理由は、なんとなくわかっていた。
あの日、距離が近づいた帰り道。
あの空気。
たぶん――お互いに、気づいてしまった。
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次の日。
久しぶりに屋上のドアを開けると、涼架がいた。
「…あ」
目が合う。
でも、すぐにそらされた。
それだけで、胸が少し痛くなる。
⸻
「最近、来てなかったじゃん」
元貴は、できるだけ普通に言う。
「…ちょっと忙しくて」
短い返事。
前みたいに、自然な空気じゃない。
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沈黙が落ちる。
何か言わなきゃいけないのに、言葉が出てこない。
⸻
「…もうさ」
先に口を開いたのは、元貴だった。
「こういうの、やめない?」
涼架がわずかに動く。
「避けるの」
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少しの間。
涼架は何も言わなかった。
でも、やがて静かに口を開く。
「避けてるつもりはない」
「でも、そうなってるじゃん」
元貴の声が少し強くなる。
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「…だって」
涼架が小さく言う。
「これ以上、近づいたら戻れなくなるから」
その言葉に、元貴は一瞬止まる。
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「戻れなくてもいいじゃん」
思っていたより、すぐに言葉が出た。
「俺は――」
言いかけて、止まる。
でも、もう止められなかった。
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「涼架といる時間、好きだよ」
空気が止まる。
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涼架は、ゆっくり目を閉じた。
「…ずるい」
小さく、そう言う。
「俺だって、同じなのに」
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元貴は一歩近づく。
「じゃあ、なんで離れるの」
涼架は少しだけ顔を上げる。
その目は、少し揺れていた。
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「怖いから」
正直な声だった。
「壊れたら、終わるから」
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元貴は少し考えてから、ゆっくり言う。
「壊れないようにすればいいじゃん」
「簡単に言うね」
「簡単じゃないけど」
少し笑う。
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「それでも、離れるほうが嫌だ」
はっきりと言った。
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しばらく沈黙。
でも今度は、逃げるための沈黙じゃなかった。
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「…ほんとに?」
涼架が聞く。
「後悔しない?」
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元貴はすぐにうなずく。
「しない」
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その答えを聞いて、涼架は小さく息を吐いた。
そして――
一歩、元貴のほうに近づく。
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「じゃあ」
少しだけ照れたように言う。
「ちゃんと、最後まで付き合って」
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元貴は一瞬固まってから、笑った。
「それ、もう答え出てるじゃん」
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ふたりの距離が、やっと自然に縮まる。
今度は、逃げない。
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屋上の風が、少しだけやわらかく吹いた。
前と同じ場所なのに、少し違う。
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「これからも来る?」
元貴が聞く。
「来るよ」
涼架が答える。
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「一緒に」
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その一言で、全部わかった。
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もう、言えなかったことはない。
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