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屋上の帰り道。
並んで歩く距離は、前よりも少しだけ近い。
でも今日は――
その“少し”が、やけに意識される。
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「…元貴」
名前を呼ばれる。
それだけで、胸がじんわり熱くなる。
「なに?」
振り向くと、涼架は少しだけ迷ったような顔をしていた。
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「さっきの…本気?」
「え?」
「後悔しないってやつ」
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元貴は少しだけ笑う。
「しないよ」
今度はちゃんと、まっすぐ見る。
「むしろ、言えてよかった」
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その言葉を聞いた瞬間、
涼架の表情が少しだけやわらいだ。
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「…そっか」
小さくつぶやいて、視線をそらす。
でも、そのまま――
「じゃあさ」
少しだけ近づく。
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元貴の腕を、軽くつかむ。
びっくりするくらい自然な動きだった。
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「これ、嫌?」
低い声で聞かれる。
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元貴の心臓が一気に速くなる。
でも、逃げる気にはならなかった。
「…嫌じゃない」
正直に答える。
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その瞬間、涼架が少しだけ笑う。
安心したみたいに。
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「よかった」
そう言って、今度は手を離さない。
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ふたりの歩幅がそろう。
距離も、そのまま。
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「なんかさ」
元貴が少し照れながら言う。
「こういうの、ちょっと恥ずかしいね」
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「今さら?」
涼架が少し笑う。
「さっきあんなこと言っといて」
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「それとこれとは別!」
元貴が言い返すと、涼架は少しだけ楽しそうに目を細めた。
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少しの沈黙。
でも、今は心地いい。
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ふと、涼架が足を止める。
「元貴」
「ん?」
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一瞬だけ、間があって。
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「これからはさ」
少しだけ真剣な声で言う。
「ちゃんと大事にする」
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元貴は目を丸くする。
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「だから」
ほんの少しだけ近づく。
さっきよりも、さらに近い距離。
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「隣、譲らないから」
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元貴は一瞬固まってから、顔を赤くする。
「なにそれ…」
でも、すぐに笑った。
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「じゃあ俺も、譲らない」
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その言葉に、涼架は満足そうにうなずいた。
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また歩き出す。
手は、自然につながったまま。
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もう、離れる理由はない。