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──朝、目覚めると、傍らにはもう政宗医師の姿はなかった。
昨夜の気怠さがまとわりつく身体を、のろのろと起き上がらせようとすると、
ふいに足音もなく、その人はベッド脇へ現れて、
「……起きたのですか? ほら、手を貸してあげますよ?」
と、私へ片手を差し出した。
その手をつい取りそうにもなって、思わずグッと引っ込める。
「何を躊躇するのです……もう何もしませんから…さぁ」
言われて、おずおずと伸ばされた手を握ると、昨夜と変わらない冷やりとした滑らかな感触が伝わった。
握った手がぐいっと引かれ、ベッドに起こされると、
「あなたは、今日は午後からの出勤のはずですよね? 自宅でゆっくりと休んでから、クリニックに来るといい……」
既にスーツをきっちりと着こなしている政宗医師は言って、私をベッドから立たせた。
広いリビングへと手を引いて連れて来られ、
「コーヒーでも飲みますか?」
そうごく穏やかな口調で訊かれた。
そんなごく普通の素振りにさえも、何かまた裏があるような気がして、「いいえ……」と力なく首を横に振った。
「そうですか? ではシャワーでも浴びて行かれますか?」
「それも、いいです……」
あまり長居をする気にもなれず、もう一度首を振った。
「……そうですか、残念ですね。君と、ゆるりと昨夜の余韻を味わいたかったのですが……」
政宗医師は口元に薄っすらと笑みをたたえて、思わせぶりにそう呟くと、独りテーブルに着き、置かれたコーヒーカップの持ち手を長い指先で摘まんで、ゆっくりと口へ運んだ。