コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「こちらへ……」
背中に手をあてがわれ促されるまま、エントランスまで行くと、
「……愉しめましたよ、昨夜は。……では、また」
政宗医師は口角の両端を僅かに引き上げ、マンションの扉の鍵をカチャリと開けた。
「どうぞ、存分に休まれてください。……まだ少し昨日の眠剤も残っているはずですから、よく眠れると思いますよ……」
ドアを引き開け、私の背を押し出すようにすると、
「また……永瀬 智花さん……」
ドアが閉まる寸前に隙間から覗く顔に薄く微笑を浮かべ、わざとらしげに私の名前をフルネームで呼ぶと、軽く片手を挙げた──。
──重怠く感じる身体を引きずるようにして家へ帰り着くと、時間をかけてシャワーを浴びた。
そうしてベッドに入りふっと落ち着いた瞬間、一連の出来事が頭に緻密に蘇ってきた。
(……どういうつもりで、あんなことを……。あの人が、私を好きであるはずもないのに……)
『……これからじりじりと、あなたの身体に教え込んでいってあげますから……』
胸に刻み付けられたかのようなその言葉が、幾度となく浮かぶ。
また……あんなことを、するつもりなんだろうかと思う。
いくら考えても、その言葉どころかされた行為の真意すらも全くわからなくて、
昨夜のことを思い出すと、ただ混乱だけが深まっていくようで、枕に顔をうずめると、
もてあそばれ疲れ切った身体を休ませることでしか、もう私にはけりが付けられなかった……。