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ゆゆゆゆ
#Paycheck
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アパート。
ドアが閉まる。
バタン。
エリオットが一歩中に入る。
それだけで――
ふっと力が抜ける。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
チャンスが後ろから入ってくる。
部屋はいつもの空気。
少し狭くて。
少し散らかってて。
でも。
落ち着く場所。
エリオットはそのままキッチンへ向かう。
冷蔵庫を開ける。
ガチャ
中から取り出す。
小さな箱。
エリオット。
にこにこ。
「残ってた」
チャンスが壁にもたれる。
腕を組んで。
その様子を見る。
エリオットは箱を開ける。
ケーキ。
フォークを取る。
ぱく
一口。
その瞬間。
顔がゆるむ。
「……おいしい」
本気で言ってる顔。
チャンスが小さく笑う。
「安いな」
エリオット。
「重要」
また一口。
ぱく
完全に幸せそう。
さっきまでの屋敷の空気はもう無い。
ただのエリオット。
チャンスはそれを見ている。
静かに。
優しい目で。
エリオットがふと気づく。
「チャンス」
「ん」
フォークを少し差し出す。
「食べる?」
チャンス。
少し間。
それから歩み寄る。
フォークを軽く押し戻す。
「いい」
エリオット。
「なんで」
チャンスは少しだけ笑う。
「それ」
エリオット。
「?」
チャンス。
「お前の顔見てる方がいい」
エリオット。
一瞬止まる。
それから。
少しだけ照れる。
でも。
すぐににこっと笑う。
「変」
チャンス。
「知ってる」
エリオットはまたケーキを食べる。
ぱく
ネクタイ。
無意識に。
ぐい
チャンスが少し前に引かれる。
チャンス。
「……」
エリオット。
「落ち着く」
チャンスはため息。
でも。
そのまま動かない。
エリオットの近く。
その距離のまま。
小さなアパート。
甘い匂い。
静かな夜。
エリオットがぽつりと言う。
「ここ」
チャンス。
「ん」
エリオット。
「好き」
チャンスは少し目を細める。
エリオット。
「疲れるまで働いて」
「帰ってきて」
少し笑う。
「ケーキ食べて」
ネクタイ。
ぐい
「チャンスいる」
チャンス。
「……」
エリオット。
「完璧」
チャンスは少しだけ視線を逸らす。
それから小さく言う。
「……重いな」
エリオットは楽しそうに笑う。
「知ってる」
静かな部屋。
外の音は遠い。
ここだけ。
別の世界みたいに穏やかだった。