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新学期初日、クラス分けが発表された日。
仁人は「1年D組」の札を確認し、教室へ入る。教室にはもう何人か先に来ていて、和やかに談笑している生徒の中で、ひときわ目を引く少年がいた。
少し茶色がかった髪、よく通る声、そして自然に周囲を笑わせる関西弁。
「おーっ、お前もD組か! よろしくな~!」
男子数人とじゃれ合っていた彼が、ふと仁人の姿を見つけると、ぱっと笑顔を向けて話しかけてきた。
「なんや、めっちゃ静かな子やなぁ。名前、なんて言うん?」
「……吉田仁人。よろしく」
「じんと……? へぇ、おしゃれな名前やなぁ。うち、塩﨑太智って言うねん。よろしくな!」
──その名前を聞いた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。
太智。塩﨑太智。
声が、笑い方が、空気が──懐かしい。忘れられない。
(……え、だいちゃん、なの……?)
記憶の中の“だいちゃん”は、今の彼とまったく同じだった。笑いながら突っ込んで、優しくて、そして──仁人の初恋の人。
だが、太智は何の反応も示さない。仁人を見ても、「じんちゃん」とは気づいていない。いや、気づけるはずがない。
彼の中で“じんちゃん”は、女の子だったのだから。
「どうしたん?ボーとして」
「……ううん、なんでもない。よろしくね」
「そっか、ならいいわ! よろしくな~! じんとって、あだ名つけにくいなぁ。『じんじん』とか『じんくん』とか?」
「……好きに呼んでいいよ」
そう言って、仁人は笑った。
泣きそうになる心を、なんとかごまかして。
(だいちゃん。僕は……じんちゃんだよ。気づいて。できれば、あの夏を……覚えていて)
だが、太智は気づかない。
仁人は太智に伝えた方がいいのか悩んでいた。