私は先にダイニングにて待っていた。なんですんなりと彼は隠し事をしているのを認めたのか。
今までの時は……私が聞かなかったらそのままだったってわけ?
なんかそれ信用できないんだけど。でも落ち着いて。そこではぐらかさずに答えようとする謙太……これで彼の死を回避できるのなら。
だって今まで何も気づくことがなかった。隠し事なんてしているなんて思ってもなかった。
謙太は気づいて欲しかったのかな。
「おまたせ」
彼がやってきて私の目の前に座った。なんか緊張する。こんなに緊張するのは彼の実家に挨拶に行った時とか……二人きりでこんな緊張するのは初めて二人きりになった時くらいじゃん。
いつも謙太が和ませてリラックスした場面を作ってくれる。
「……ごめんね、変なこと聞いちゃって」
「ううん、大丈夫だよ」
これまた微笑む謙太だが大丈夫なことなのか。やっぱり彼は私のこんな不躾な質問でさえも微笑んで構えてくれるのか。
「梨花ちゃん、いつの時点で気づいてたかな? 全くそんな感じ、しなかったんだ……いや、気づかないったからと言って黙っておくつもりはなかったんだ」
……でも2回も私にいう前に死んだくせに。
「なんとなく、女の勘」
だなんて言ってみるけど私は鈍感なのにこんな時に女の勘だなんて。
「今日職場に鷲見さんが来たの。TOKiプランニングの」
鷲見、という名前が出た瞬間、謙太の顔は少しハッとした。やはり彼女のことを隠していたのか。
「……そっちかー」
そっちってどっちよ。こんな時もニコニコしてないでよ。まぁそれがあなたの魅力かもしれないけど。それよりも他にもあったと?! 何を隠しているの、謙太! 私はほとんど出したわよ。
両親が毒親だってこと、(あ、今回共同貯金から嘘の親の病気で引き出したことは……)過去の男性遍歴、前の仕事でのこととか学生時代のいじめとか……。
あ、謙太は自分から話さなかった。私の話を聞いて僕はね、と言ってから話すタイプだった。
だから全部知らなかった。
「……じゃあまず鷲見さんのことを話すよ」
と謙太は今までに見たことのない表情をして話を始めた。
なんかショックすぎる。もうやっぱり誰も頼れない。信じられない。でも落ち着いて、落ち着けないけど……てかもう聞かずにそのまま電車飛び降りて死んでしまえとか思っちゃう自分がいる。
もしかして隠し事をしてきたのが苦になって自殺? それならそのまま死んでしまえばいいじゃん。
もう何も聞きたくない。
全てが言い訳になる、そうでしょ?
私は机を叩く。
「……もう何も信じない。隠し事してたこと自体最低、他に女作って子どもまで作って……最低、最低過ぎる!」
「え、ちょっとまず落ち着いて。それに子供って???」
しまった、また先のことなのについ口が……。でもそうなんでしょう、不倫してそれを隠して……!
「もうお願い、私の前から消えて!」
「梨花ちゃん! 落ち着いて。まず話を聞いて欲しい。鷲見さんは、鷲見さんは……」
「不倫相手でしょ!」
「ちがう!」
「言い訳しないでちょうだい!!!!」
だめだ、もう止まらない。言い訳しても無駄よ……。
「梨花ちゃん!」
謙太にガシッと肩を掴まれた。
私はハッと意識を取り戻した。
「……深呼吸するんだ、梨花ちゃん。君のいけないくせが出てしまっている。前もそうだったろ」
「……謙太さん……」
謙太に肩をガッと掴まれたのは初めてではない。
私はボロボロ涙が流れた。声からうあああっと声が出て泣き崩れ力が抜けていく。
そして謙太は私を抱きしめてくれた。
頭も撫でてくれた。……息が上がる。心拍数もすごい。
「呼吸整えて、落ち着いて……少し落ち着いてから話を話そう。僕はもう嘘は言わない。黙ってた僕がいけないんだ。落ち着く まで……僕の腕の中でいいのなら泣いてくれ」
優しい声、優しい抱擁、それが私を救ってくれたんだ……あの時も。
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