テラーノベル
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俺が立ち尽くしていると、後ろから声が聞こえてきた。
「ああ、海斗くん。そこ離れとき」
母さんとよく行く八百屋のおじさんだった。
関西人らしく、怒ってる時と怒ってない時の違いが分かりにくい。
俺は不安に思いながら聞く。
「何があったの?」
「わからん。殺人の話は今んとこあらへんし、傷害も同じ。今緑山んとこの翔くんが交番行ってきてくれたから、すぐ警察は来るはずや。でもおっかねぇ。早く帰ろう」
俺はもう一度ベンチを見た。
昨日見た青年が頭に浮かぶ。
ホントに殺人事件とか傷害事件なら、少しの手がかりでも警察に話すべきかも知れない。
「ごめんおじさん。俺、まだここにいるよ」
「そうかい。気ぃつけろよ」
しかし気味が悪いのはそうなので、ベンチから少し離れたところで待っていると町長の息子の翔くんが刑事を連れてきた。
俺を視界に収めると、翔くんが意外そうな顔をする。
「あれ海斗。どうしたの?こんなところで…」
俺は2人に昨夜のことを話した。
「昨日ここを通った時、俺より…少し年下くらいかな。そんな感じの子が、傘もささないでこのベンチに座ってたんです。黒髪で、濡れて肩まで垂れてました。傘を貸そうかって言ったら『雨男だから』って断られちゃって…。」
翔くんと刑事さんが顔を見合わせた。
その表情は見るからに『不穏』。
「それって…」
「いや、あれは迷信でしょう?」
俺は怖くなって首を傾げた。
「何か心当たりが?」
翔くんがおっかなびっくり答える。
「そっか、海斗は最近この街に引っ越してきたから分からないよね。雨男の伝説。」
「伝説?」
「そう。この街に、大雨の日にだけ現れるっていう『雨男』の噂があるんだ」
翔くんは声を潜め、ベンチの血痕を見つめながら言葉を続けた。
「その男が現れた翌日は、決まって海が凪ぐ。だけど……その代わりに、彼がいた場所には必ず、大量の血が残されているんだって」
刑事さんは頭を掻きつつ続けた。
「その血痕が雨男自身のものだとか、雨男に殺された人間のものだとか、色々言い伝えはあるぜ。でも正直、実際にあった人の話をこの耳で聞いたのは始めてだ。」
俺はもう一度血を見た。呟く。
「雨男自身の…」
数日後、俺は図書館へ来ていた。雨男の伝説をもっと深く調べたくて。
昔の新聞をありったけ持ってきて机に並べてひと記事ひと記事確認する姿はさぞ滑稽なことだろう。
それでも調べなきゃ行けない気がした。
2016年。2004年。
すると、数十年前の新聞に『赤い雨が降った』という記事があった。
血の雨だ!と騒がれたようで、成分を調べてもちゃんと血。
しかしおかしいのはその次の文で、どうやらその血を分析した結果、だいぶ昔の物だったらしい。
タイムスリップ?異世界からの転移?
そんなものではない気がする。
俺は調べ続ける。
更に数十年前に遡ると、また赤い雨のニュースが。当時は成分を調べるなんて技術も生まれておらず、祟りだと誰もが嘆いたそう。
「祟り、ねぇ…」
俺は新聞を片づける。
この『血の雨』のニュースが、昨日の青年に関係すればいいんだけど…。
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コメント
1件
麟兎さん、第2話読了しました。雨男の伝説と血痕のつながり、不気味でいてすごく引き込まれます。八百屋のおじさんの自然な関西弁のニュートラルさがリアルで、翔くんと刑事さんの“不穏”な表情の切り返しもゾッとしました。図書館で過去の新聞を調べるシーンは、推理もので一番好きな空気感。血の雨が数十年前にもあったという一文、この青年とどう絡むのか、続きが気になります…!