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第47話、読了しました……。 九人で歌って、踊って、笑い合うシーン、本当に温かかったです。 「戻る」じゃなくて「増えた」って言っためめの言葉、すごく響きました。 あべちゃんが「帰ってもいいかも」って自分で言えたのも、少しずつ変わってるんだなって思えて。 でも最後の佐久間くんの「今のあべちゃんも?」……めっちゃ気になります。 静かな佐久間くん、何か抱えてそうで続きが気になる… 次も読みます🌙
47
次の日。
昼前。
インターホンが鳴った。
モニターを見ると、佐久間が立っていた。
「早い」
「一番だね」
目黒が隣から覗く。
阿部が通話を繋ぐ。
「佐久間、早くない?」
『ソファ見たい!』
「ソファ目当てなんだ」
『魔王のソファでしょ!? 開けてー!』
阿部は笑いながら解錠した。
少しして、佐久間が勢いよく入ってくる。
「あべちゃーん!」
「普通に入ってくるじゃん」
「開いてたから!」
佐久間はリビングへ向かい、魔王仕様のソファの前で立ち止まった。
「……何これ!」
「昨日説明したでしょ」
「聞いてたけど、想像以上!」
黒と金の、無駄に立派なソファ。
佐久間はすぐに座った。
「うわ、座り心地めっちゃいい!」
「あべちゃんも気に入ってるじゃん」
「座り心地だけね」
「魔王センスある!」
「絶対褒めたくない」
目黒が後ろで笑った。
その後、全員部屋を見るなり驚く。
「広っ!」
「ほんまに広なっとる!」
そして、やはりソファの前で止まった。
「魔王が壊したあとに直したんだよ」
阿部が説明すると、深澤が吹き出す。
「設定までちゃんと魔王なんだ」
ラウールと康二が座り、岩本が言った。
「これ、九人いけるんじゃない?」
「試そ!」
佐久間の一声で、全員がソファに詰めて座った。
「ほんまに九人いけた!」
康二が写真を撮る。
渡辺は不満そうに言った。
「見た目は最悪」
宮舘が尋ねる。
「座り心地は?」
渡辺は少し黙ってから答えた。
「……いい」
「翔太も気に入ってる!」
「座り心地だけ」
阿部が笑う。
「それ、俺と同じ」
しばらくして、佐久間が突然言った。
「あべちゃん、俺よりイベント楽しんでた!」
「またその話?」
「予習もグッズも俺以上だったじゃん!」
阿部は笑いながらスマホを取り出した。
「でも、最後の映像。絶対続編の伏線でしょ」
「俺もそう思う!」
#❤️💙
みら

19,807
207
二人はすぐに作品の話で盛り上がった。
ラウールが笑う。
「あべちゃん、楽しそう」
「楽しいよ。佐久間に教えてもらったけど、普通に面白かった」
「次も行く?」
「行く!」
「その前に続き全部見る」
「俺も一緒に見る!」
「じゃあ一緒に見る?」
「やった!」
みんなが微笑ましそうに二人を見ていた。
深澤がふと呟いた。
「こういうあべちゃん、久しぶりだね」
阿部の動きが止まる。
「天使にも、前の俺に戻ってきたって言われた」
少し静かになった。
阿部は自分の手を見ながら続ける。
「でも、戻った感じはしないんだよね」
「記憶をなくしてた俺も」
「全部ちゃんと俺だから」
目黒が阿部の手に触れる。
「前に戻ったっていうより、増えたのかも」
ラウールが笑った。
「それ、いいね。減ったんじゃなくて、増えたって」
「うん」
阿部も頷く。
「今の俺でいい」
目黒がすぐに言った。
「ずっとそう言ってる」
阿部は目黒を見て、少し笑った。
その後、岩本がテレビをつけた。
流れてきた音楽に、阿部が自然と口ずさむ。
佐久間が重ね、康二、深澤、ラウールも続いた。
やがて九人の声が重なる。
曲が終わると、阿部は胸に手を置いた。
「……俺、歌うのやっぱ好きかも」
岩本が静かに笑う。
「じゃあ、帰ったらまた九人で歌おう」
阿部は少し迷ってから頷いた。
「うん」
怖さはまだ残っている。
それでも。
九人で歌うのは、楽しかった。
戻ることは、昔の自分になることではない。
増えた自分を全部連れて、また九人のところへ戻ること。
今なら、少しだけそう思えた。
帰ったら、また九人で歌う。
その言葉を口にしても、胸の奥にはまだ九人で声を重ねた感覚が残っていた。
懐かしくて。
楽しかった。
「……歌はできたね」
岩本が頷く。
「できたね」
阿部は少し迷ってから、広くなったリビングを見た。
「じゃあ、踊るのはどうなんだろ」
「踊る?」
佐久間が聞く。
「振りは覚えてても、身体が動くか分かんないじゃん」
岩本が笑う。
「試してみる?」
「今?」
「せっかく広くなったし」
深澤も部屋を見回した。
「魔王、結果的にいい仕事したね」
「認めたくない」
「でも踊れるよ」
「それはそう」
みんなが笑った。
テーブルを端へ寄せて。
康二が曲を流す。
昔、九人で何度も踊った曲だった。
「無理しないでね」
岩本に言われ、阿部は一度深呼吸する。
最初のカウント。
一歩。
次に腕を動かす。
すると。
考えるより先に、身体が次の動きを知っていた。
「あ……」
少し遅れるところはある。
完璧ではない。
それでも動ける。
佐久間が嬉しそうに笑った。
「覚えてるじゃん!」
「うん」
阿部も笑う。
「覚えてる」
最初は阿部の確認だけのつもりだった。
でも。
佐久間が加わり。
康二が入り。
ラウールも。
深澤も、渡辺も、宮舘も。
岩本も目黒も。
結局、九人全員で踊っていた。
「ふっかそこ逆!」
「え、こっち?」
「反対!」
「早く言ってよ!」
久しぶりだから、全然揃わない。
それでも。
みんな笑っていた。
阿部も途中から、間違えることが怖くなくなっていた。
そして最後のサビ。
ほんの一瞬だけ。
九人の動きが綺麗に揃った。
昔みたいに。
同じタイミングで。
同じ方向を向く。
曲が終わる。
阿部は少し息を切らしながら、自分の身体を見る。
「……ちゃんと覚えてた」
岩本が笑う。
「そりゃそうでしょ」
「なんか、嬉しい」
目の奥が少し熱くなる。
佐久間がすぐ隣へ来た。
「あべちゃん」
「泣いてないよ」
「まだ何も言ってない!」
その言葉に。
またみんなが笑った。
その日の夜。
みんなが帰ったあと。
阿部は新しいノートを開いた。
『九人で歌った。』
『踊った。』
『身体はちゃんと覚えていた。』
そこで。
古い日記に書いた言葉を思い出す。
『もうアイドルなんてやりたくない。』
あの時は、本当にそう思っていた。
全部嫌で。
逃げたかった。
でも。
今は少し違う。
阿部は次の行に書いた。
『帰ったら、九人でまた歌いたい。』
そして。
『怖くないわけじゃない。』
少しだけペンを止めて。
『でも、やりたい。』
隣から目黒がノートを見る。
「書いたね」
「うん」
怖さはまだ消えていない。
病院。
仕事。
カメラ。
人の目。
それでも。
戻った先でやりたいことも、少しずつ増えていた。
「めめ」
「ん?」
阿部はノートを見たまま言った。
「俺、戻ってもいいのかも」
目黒の動きが止まる。
「帰らなきゃじゃなくて」
阿部は顔を上げた。
「帰ってもいいのかもしれないって思ってきた」
目黒は少し黙ってから。
優しく笑った。
「嬉しいよ」
「それだけ?」
「すごく嬉しい」
目黒は阿部の手を取る。
「でも、決めるのはあべちゃんだから」
阿部も、その手を握り返した。
「まだ決めてないよ」
「うん」
「もう少し、ここにいたい」
目黒は迷わず頷く。
「いよう」
その答えに。
阿部は安心したように笑った。
帰りたいと思える自分もいる。
まだここにいたい自分もいる。
今は。
その両方がいてもいいと思えた。
次の日。
阿部は、朝から新しいノートを開いていた。
昨日書いたページ。
『帰ったら、九人でまた歌いたい。』
その文字をしばらく眺める。
自分で書いたのに少し不思議だった。
前は、もうアイドルなんてやりたくないと思っていた。
仕事も。
ステージも。
全部嫌だった。
それなのに今は。
帰ったら。
また九人で歌いたいと思っている。
「……変わったな」
隣から目黒が覗き込む。
「何が?」
「俺」
阿部はノートを指差した。
「前は帰りたくなかったのに」
「うん」
「今は戻ってもいいのかもって思ってる」
目黒が少し笑う。
「いい変化じゃない?」
「うん」
阿部も小さく頷く。
でも。
ページを見ながら少し考えた。
「俺だけ帰る準備できても駄目だよね」
目黒の顔が少し変わる。
「また始まった」
「何が?」
「みんなを治す係」
「違うよ」
阿部はすぐ否定した。
「治したいんじゃなくて」
少し考える。
「一緒に帰りたいだけ」
目黒は阿部を見る。
「それならいいけど」
「うん」
「でも、無理に聞き出したりしないでね」
「分かってる」
「本当に?」
「二回聞くの?」
目黒が笑う。
「翔太くん方式」
「流行らせないで」
阿部も笑った。
昼過ぎ。
スマホが鳴る。
佐久間だった。
『あべちゃん!』
続けて。
写真が何枚も送られてくる。
イベントの日。
キャラクターのパネルの前。
コラボカフェ。
グッズを持って笑っている阿部。
そして。
佐久間と二人で撮った写真。
『これ送るの忘れてた!』
阿部は。
一枚ずつ見る。
どれも。
自分が思っていた以上に楽しそうだった。
『めっちゃ笑ってる』
送る。
すぐに。
『でしょ!』
『俺が撮ったから!』
阿部が笑う。
最後に。
二人で撮った写真をもう一度開いた。
イベント帰り。
二人とも。
かなり楽しそうに笑っている。
阿部は。
そのまま送った。
『楽しかった』
少し考えて。
もう一通。
『また行こうね』
既読がつく。
でも。
返事が来ない。
「……」
阿部は。
少しだけ画面を見る。
いつもなら。
すぐに何通も返ってくる。
しばらくして。
ようやく。
一言。
『うん』
それだけだった。
阿部は。
少しだけ首を傾げる。
「佐久間?」
目黒が聞く。
「うん」
「どうしたの?」
「いつもより静か」
阿部は画面を見せる。
目黒も少しだけ見る。
「……そっか」
「何かあるのかな」
「あるかもしれないね」
阿部がスマホを見たまま黙る。
目黒はすぐに言った。
「聞かないんでしょ?」
「うん」
阿部は頷いた。
「佐久間から話してくれるまで待つ」
それだけ送る。
『写真ありがとう』
今度は。
すぐに返事が来た。
『どういたしまして!』
少しだけ。
いつもの佐久間に戻った。
それから。
数日後。
昼過ぎ。
インターホンが鳴る。
モニターを見ると。
佐久間が立っていた。
一人だった。
「珍しい」
阿部が呟く。
目黒も横から見る。
「佐久間くん?」
「うん」
阿部が通話を繋ぐ。
「どうしたの?」
『遊びに来た!』
「一人で?」
『一人じゃ駄目?』
「駄目じゃないけど」
『じゃあ開けてー』
阿部は。
解錠した。
少しして。
玄関が開く。
「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい」
佐久間は。
いつも通り笑っている。
でも。
どこか。
少し静かだった。
「今日は何するの?」
阿部が聞く。
「アニメの続き見よ!」
「あれ?」
「何?」
「俺より先に見るんじゃなかった?」
「今日は一緒に見たい」
「いいよ」
佐久間は。
嬉しそうに笑った。
目黒が。
キッチンから顔を出す。
「俺、ちょっと買い物行ってくるね」
阿部が見る。
「今?」
「うん」
佐久間も。
少し驚いた顔をする。
「蓮いいの?」
「何が?」
「俺とあべちゃん二人にして」
目黒は。
少しだけ黙ってから。
「今日はいいよ」
「今日は?」
阿部が笑う。
「早めに帰ってくるから」
「はいはい」
目黒が出ていく。
二人になる。
佐久間は。
魔王ソファに座った。
阿部も。
隣へ座る。
アニメを流す。
最初は。
普通だった。
「あ、このシーン!」
「分かる!」
「絶対あとで回収されるよね」
「俺も思った!」
二人で笑う。
途中。
阿部が予想を当てるたび。
佐久間が悔しがる。
「なんで分かるの!?」
「分かりやすいでしょ」
「俺初見の時分かんなかった!」
「ちゃんと見てた?」
「見てたよ!」
いつもの佐久間。
いつもの阿部。
普通に楽しい。
でも。
一話見終わって。
エンディングが流れ始めると。
佐久間が。
少し静かになった。
スマホを取り出す。
イベントの日の写真を開く。
「……ねえ」
「何?」
佐久間は。
画面を見たまま言った。
「これ」
二人で笑っている写真。
「現実には持って帰れないんだよね」
阿部も。
その画面を見る。
「多分ね」
「そっか」
「でも」
阿部は。
少し笑う。
「覚えては帰れるよ」
佐久間は。
返事をしなかった。
ただ。
写真を見ている。
阿部も。
何も聞かない。
少しして。
佐久間が。
小さな声で言った。
「……今のあべちゃんも?」
阿部が。
佐久間を見る。
「え?」
佐久間は。
まだ画面を見ていた。
「今のあべちゃんも」
その声は。
いつもの明るい佐久間より。
ずっと小さかった。