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#シークレットベビー
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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その日の夕方。
仕事を終えた俺は、会社近くのビルの軒下で小森を待っていた。空は、昼間からずっと鉛色だった。
昨日のニュースで「台風が近づいている」とは聞いていた。けれど、実際に外へ出てみると、想像以上だった。
横殴りの雨。傘を差していても、ほとんど意味がないレベルの風。駅へ向かう人たちは、みんな傘を斜めに構え、肩を丸めて歩いている。
「王子谷さん!」
聞き慣れた声に振り返ると、彼女が小走りでこちらへ向かってくるところだった。ふわふわの髪の端が濡れて、頬に張り付いている。アイボリーのカットソーの肩も、雨を含んで色が変わっていた。
「待たせちゃって、ごめんなさい」
「全然大丈夫っす。むしろ、こんな天気なんだから無理しないでください」
「はい。でも……王子谷さんと一緒に帰れるって思ったら、ちょっと急いじゃいました」
「…………っ」
やめてほしい。そういう無防備なセリフをさらっと言われると、心臓に悪い。
赤くなった顔を隠すように咳払いをして、駅の方へ視線を逸らした。
「と、とりあえず早く駅行きましょう」
「はい!」
二人で傘を差しながら、駅へ向かった。
改札前には、人だかりができていた。電光掲示板のオレンジの文字が、点滅している。
『強風と大雨のため、JR各線は運転を見合わせています』
「……JR全線運転見合わせ?」
小森が、絶望したように呟いた。
「マジかよ……」
スマホを取り出して乗換案内を開く。地下鉄以外の路線は全滅。
完全に詰んだ。一縷の望みをかけてタクシー乗り場へ向かうが、そこにはすでに長蛇の列ができていた。
配車アプリを開いても、近くに空車はない。
「並ぶのはキツい……」
「ですよね……」
お互い困ったように顔を見合わせて、苦笑いする。
その間にも、雨はさらに激しさを増していた。彼女の濡れた肩が、微かに震えている。……このままここにいたら、風邪をひいてしまう。一瞬ためらったあと、意を決して口を開いた。
「……あの」
「はい?」
「家……ここから地下鉄で数駅なんです。普段はJR使ってるんすけど、地下鉄でも一応帰れて。池袋と雑司が谷の間くらいで、駅から歩いて10分くらいなんですけど」
言っている途中で、自分で自分の言葉の破壊力に気づいて固まった。
(これ、めちゃくちゃまずい言い方をしたんじゃないか?)
(まさか、どさくさに紛れて下心で誘ってきたと思われたのでは……?)
「……」
小森も一瞬、驚いたように目を丸くしている。
「あ、いや! あの!」
慌てて弁解した。
「変な意味じゃなくて! 雨が弱まるまでの一時避難っていうか! 風邪ひいたらまずいし、うちならタオルもありますし……! 俺は別に、玄関でも床でもどこでも寝られるんで!」
必死すぎる俺の様子を見て、小森さんはクスッと笑った。
「……じゃあ、お邪魔してもいいですか?」
ドクン、と心臓が余計な音を立てた。
「も、もちろんっす」
平静を装って答えたつもりだった。けれど、声が微かに裏返っていた気がする。たぶん、全然隠せていなかった。
コメント
1件
台風の夜の緊迫感と、ずぶ濡れの小森さんが可愛すぎてキュンが止まらない…!!王子谷さんの「玄関でも床でもどこでも寝られる」って必死なセリフ、完全にときめき案件じゃないですか😭💕 お互いに気を遣い合ってる感じがエモすぎて、続きが気になりすぎる…!二人の距離が縮まる予感にドキドキが止まらないよ〜!!🌸