———ピンポーン
『——はい』
「あっ、あの……樋口真紀です」
『……あ。ちょっと待ってね』
インターホン越しから聞こえてくるその声は、先日電話口で聞いたのと同じ穏やかな声で……。緊張で固まっていた私は、ホッと息を吐くと肩から力を抜いた。
「——いらっしゃい、真紀ちゃん」
程なくして目の前の玄関扉から現れたのは、優しい笑顔を浮かべるとても綺麗な女性だった。
その想像以上に美しい姿に、私は再び緊張で固まると思わず見惚れてしまった。
スラリと伸びたモデルのような手足に、ニキビ一つない整った小さな顔。サラサラの綺麗な長い黒髪を耳に掛ける仕草は、なんだかとても色っぽくて……思わず、ドキリとする。
「迷わなかった?」
「……っあ。はい! 大丈夫でした!」
ペコリと小さくお辞儀をすると、クスリと笑った静香さんは、「どうぞ中に入って」と言って優しく私を迎え入れてくれた。
「真紀ちゃんの部屋は、ここ。自由に使ってね」
そう案内された部屋には、ベッドと大きめな棚が用意され、その横にはクローゼットまで付いている。壁にはベッドと同系色の可愛らしいピンクのカーテンが掛かり、全体的にとても女の子らしい部屋だった。
「あの……。本当に、3万でいいんでしょうか?」
(こんなにいい部屋を、本当に3万で貸してもらえるの……? もしかして、私の聞き間違えかも……)
この部屋を見ると、何だかそんな気がしてくる。
「安心して。光熱費込み、3万で大丈夫よ」
私の不安な気持ちを察したのか、静香さんはフフッと柔らかく笑うとそう答えた。
その後、一旦荷物を部屋へと置くと、一通り家の中を案内してくれた静香さん。
リビングは二十畳程あり、そのあちこちには綺麗な花や観葉植物が置かれている。その広さには圧倒されるものの、センスのよい部屋には居心地の良さを感じる。
1階には、リビングと居室が2部屋にお風呂とトイレが。2階には、寝室が3部屋とトイレがあった。
こうして見てみると、家賃3万で住めることが本当に夢のようだ。隣で説明をしながら微笑んでいる静香さんを見て、私は奥にある一室の扉を指差した。
「あの……あの部屋は?」
先程から、家の中を案内してくれている静香さんは、全ての扉を開いて中を見せながら説明をしてくれていた。
2階奥にある、あの部屋を除いて。
「……あそこは、私の趣味の部屋よ。恥ずかしいから、覗かないでね」
私の指差す方向に目を向けた静香さんは、その視線を再び私へと戻すと困ったように微笑んだ。
「あっ……はい! 絶対に覗きません!」
失礼な事を言ってしまったかと焦って頭を下げると、そんな私を見てクスリと笑った静香さんは、「お茶にしましょうか」と言って私をリビングへと誘った。
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