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週末の余韻を熱っぽく引きずったまま、月曜日がやってきた。
デスクに座っていても、ポケットの中のスマホに入っている「あの写真」が気になって仕方がない。
(今日、これを見せるんだ……本当に付き合ってるって、嘘をつくんだ)
朝から心臓がうるさい。
そんな私の不安を察したのか、出勤してきた高橋先輩が
すれ違いざまに一度だけ私の目をじっと見て、小さく頷いた。
大丈夫、という合図。
それだけで、私の背筋が少しだけ伸びる。
◆◇◆◇
昼休み
お決まりのコースのように、美佐子さんが私のデスクへやってきた。
「おはよう、田中さん。……で、どうだったのかしら? 週末の『デート』は」
美佐子さんの目は笑っていない。
私は震える手でスマホを取り出し、あらかじめ用意していた写真を表示した。
「……あ、はい。これ、土曜日に撮ったんですけど」
画面を見せると、美佐子さんは身を乗り出して覗き込んできた。
テラスカフェでの自撮り。
そして、あの「恋人繋ぎ」の手。
「あら、本当に会ってたのね。でも……この写真、なんだか距離があるように見えない? 撮る時だけくっついた、みたいな」
「えっ、そんなことは……」
美佐子さんの鋭いツッコミに言葉が詰まる。
やっぱり、私の緊張が写真からも伝わってしまったんだろうか。
「やっぱり、狂言なんじゃ───」
美佐子さんの言葉が続きそうになったそのとき
「美佐子さん、俺の彼女をあんまり虐めないでくださいよ」
背後から、低いけれど力強い声がした。
気がつくと、高橋先輩が私の椅子の背もたれに手を置き、守るように私を包み込んでいた。
「距離がある、ですか? …じゃあ、これで満足してもらえますか」
えっ、と思った瞬間。
先輩の顔がぐっと近づき、私の頬に、熱い吐息がかかった。
周りの社員たちが息を呑むのがわかる。
先輩は私の耳元に顔を寄せ、美佐子さんからは死角になる位置で、囁いた。
「……もっと、仲良さそうにして?」
先輩の香りが全身を包む。
私はパニックになりながらも、反射的に先輩のジャケットの裾をぎゅっと掴んだ。
「…高橋さん、恥ずかしいです、人前で……っ」
顔を真っ赤にして俯く私を見て
美佐子さんは一瞬呆気に取られた後、顔を真っ赤にして鼻を鳴らした。
「……わ、わかったわよ!もういいから会社でまでやめてちょうだい!!」
ヒールの音を高く鳴らして去っていく美佐子さん。
嵐が去った後のような静けさの中、先輩はゆっくりと体を離した。
「……ごめん、田中さん。ちょっとやりすぎたかな」
先輩はいつもの困ったような笑顔を見せたけれど
私の肩を抱く手は、美佐子さんがいなくなった後も、ほんの数秒だけ、離されなかった。
「…い、いえ!助かりました。ありがとうございます」
「……でも、これでしばらくは大丈夫だと思う」
「そう、ですね」
先輩がふわりと微笑んで、私の頭にぽんと軽く触れた。
「せ、先輩…っ?」
「!…ごめん、無意識だった」
それはまるで、小さな子どもにするような仕草だったけれど
どこか大人びた余裕を感じさせる指先だった。
#ワンナイトラブ