今では、大蜘蛛の大軍は通行人だけの捕食では飽き足らず。商店街の店や建物を破壊しては、中の人たちも襲うようになっていた。
地面の真っ白い雪の上には、人々の赤い鮮血が凄まじい勢いで広がっていく。
もはや柱を破壊され垂れ下がった天幕は破け散り、その裂け目からはシンシンと降る雪が無情にも人々の破損した死骸の上に落ちていた。
モートは、少し大蜘蛛の大軍から距離を置いた。
銀の大鎌を握り突進すると、それを振り、大蜘蛛の大口の一部を刈り取った。大蜘蛛は人声にも似た悲鳴を発し、絶命した。
別の蜘蛛がすかさず白い糸をモートへ向かって吐きつけた。
モートは避けるが、左腕に糸が巻きついてしまった。
普段は壁や床などを通り抜けることができるモートだったが、対象も同じ存在なのだろう。通り抜けられなかった。恐らく体当たりでもされたら、モートはその巨体による強い衝撃で遥か後方へと吹っ飛んでしまうだろう。
どうしても糸がほどけそうもないと判断したモートは、そのままの状態で今度は大蜘蛛の顔面目掛けて銀の大鎌を投げつけた。
それは、大回転をし。前方の複数の大蜘蛛を掻っ捌いていく。
大蜘蛛の死骸が前方に築かれていった。
銀の大鎌が回転をしながらモートの元へと戻って来た。
それを左腕は使えないので、右手のみで受け取った。
しばらくすると、モートの狩りで大蜘蛛の数も減り。
生きている人は、皆、避難できたとモートは信じた。
だが、辺りを見回していると、真横から突然一匹の大蜘蛛が右腕に噛みついてきた。
モートは痛みを気にしないが、銀の大鎌で大蜘蛛の頭部を素早く刈り取った。噛みつかれた右腕からは銀の大鎌が持てないほどのおびただしい痛みと血が流れている。
未だ大蜘蛛の大軍は数こそ少なくなったが、商店街を暴れ回り、逃げ遅れた人々を捕食していた。
周囲を警戒していたモートは気が付いた。オーゼムが瓦礫と化した「グリーンピース・アンド・スコーン」のパン屋の壁の隙間から這い出て来たのだ。
オーゼムは体中の埃を叩いて辺りの悲惨さにひどく落胆したようだ。
「これは……遅すぎましたね。何もかも……すぐに気付くべきでした。これはマモンの強欲のグリモワールによって起きた惨劇です。グリモワールを使った張本人のギルズはどこかへ逃げて行ってしまいましたが、強欲のグリモワールだけは回収しました」
「グリモワール? オーゼム! それよりヘレンは?!」
モートは崩壊した商店街で、大蜘蛛を警戒しながら早口でオーゼムに聞いた。
「無事です。それより、後五匹の大蜘蛛がいます。どうか気を抜かないでください。さて……ここで、一つ賭けをしましょう。あそこの大蜘蛛に襲われている男はグリーンピース・アンド・スコーンの一員です。その男は今は赤い色の魂ですが、モート君に助けられた後は、その魂が再び黒になるか? それとも、改心して灰色から青い色になるか。どうです? どちらに賭けます?」
モートは首をかしげたが、当然黒い色になる方へと賭けた。
「ほうほう……。では、私は青色へ。そして、再びあなたの狩りの時間ですよ。モート君」
「えっ? オーゼム? ぼくはもう動けないんだ?!」
モートは、満身創痍だった。
突然、オーゼムが早口で祈りを捧げた。
すると、急激にモートの体の大蜘蛛にやられていた出血や傷が癒えていく。モートはさすがに驚いた。それよりも、傷が癒えると同時に見る見るうちに力がみなぎってきたので、モートはすぐさま狩りをしに行った。
グリーンピース・アンド・スコーンの一員の赤い魂の男に襲い掛かろうとしていた大蜘蛛目掛けて疾風のごとく突進し、思いっきり銀の大鎌で複数の足ごと頭部を刈った。
赤い魂だった男は腰を抜かしていた。商店街の建物を破壊している大蜘蛛も、女の子に襲い掛かろうとしている大蜘蛛も、次々に恐ろしいまでの勢いでモートは刈っていく。
全ての大蜘蛛の身体が二つに分断される頃には、商店街全ての真っ白な地面はまんべんなく赤く染め上げられていた。
二つに身体を分断されブスブスと煙をまき散らしながらこの世界から形が崩れてきた大蜘蛛からは、大量の血液が吹き出ている。それを浴びた男は、ただ震え上がっていたが。その場でしばらく、周囲を見回していた。
モートは注意深くその男の魂を観察していた。
さあ、どっちだ……。
黒か青か……?
傷が完治している右手の銀の大鎌を握り直していると、なんと、男の魂は見事灰色から青色になっていた。
「賭けは私の勝ちですね! モート君!」
オーゼムはニッコリと輝くかのような笑顔を作った。
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