テラーノベル
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点滴が終わる頃には、外はもう暗くなっていた。涼ちゃんはまだ少しふらついていて、
看護師に「無理しないでくださいね」と念を押される。
若井は何も言わず、自然に隣に立った。
肩を貸すほど近づかないけど、
倒れたらすぐ支えられる距離。
車の中、涼ちゃんはほとんど喋らなかった。
窓の外を見たまま、時々目を閉じる。
「……家、着いたら」
若井が静かに言う。
「今日はもう横になれ」
「うん……」
返事は弱いけど、拒まない。
家に着いて、鍵を開けて、
部屋の電気がつく。
いつもより静かな部屋だった。
涼ちゃんはソファに座ると、そのまま動かなくなる。
若井はキッチンで水を用意して、
テーブルに置いた。
「飲める?」
「……あとで」
無理に勧めない。
今日はそれでいい。
若井はスマホを取り出して、元貴に連絡を入れる。
――点滴終わった
――今、家まで送ったよ
――今日は俺が少し見とく
送信して、少し待つ。
既読はすぐについた。
返事は、少し間が空いてから。
――……そっか
――仕事もあるしな
――まあ、いいよ
文面だけでも、
少し不満そうなのが分かる。
若井は短く返す。
――無理させたくないし
――何かあったら連絡するから
それ以上、やり取りは続かなかった。
若井はスマホを伏せて、
ソファの涼ちゃんを見る。
「……元貴?」
「うん」
「今日は来れないって」
涼ちゃんは一瞬だけ目を伏せて、
でも何も言わなかった。
若井は、その沈黙を責めなかった。
涼ちゃんが、かすかに笑った。
「……若井」
「逃げる話さ」
若井は息を止める。
「……まだ、有効?」
若井は、迷わなかった。
「有効」
「今は、ここからだけどな」
涼ちゃんは、少しだけ安心したみたいに、
目を閉じた。
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