「アックさん! ご無事ですか?」
バヴァルより少し遅れてルティとスキュラたちが駆け寄ってくる。彼女たちはおれのことを心配してくれているみたいだ。
「大丈夫、平気だぞ」
「良かったです~! ところで……さっきの人間たちって、その魔石に?」
「あぁ、そのようだ。一応聞くけどダメージは無いよな? ルティ」
「――痛みって何でしたっけ?」
前々から感じていたが、ルティの身体能力とか性格はおバカさんなのでは?
それでも彼女には愛嬌も可愛げもあるし、よしとしよう。
「いや、うん……」
「はい~! アックさんもお元気そうで何よりですっ!」
ひとまずおれは元Sランクパーティーたちを封じた魔石を地面に置いた。バヴァル曰く、おれの手に乗せたままでは魔力を吸いかねないのだとか。
「フンッ、それにしてもいい気味ですわね。あたしは元々人間が好きでは無かったですわ! しかも愛するアックさまをひどい目に遭わせていた連中なんて、魔石でも手ぬるいと思いますけど?」
やはりスキュラからすれば甘いと言われてしまうか。
「スキュラ的には納得がいかないか?」
「いきませんわね。アックさまは別として、そこの……途中で加わった魔女も気に入らないですし」
そういってスキュラはバヴァルをちらりと見るも、その視線をルティに移して苦笑する。
「ドワーフ娘はまぁ、どうでもいいですけれど」
水棲怪物スキュラは海底神殿の番人のようなものだった。恐らく人間の嫌な部分は何度も見てきた上で、この結末に納得出来ないのだろう。
一方のバヴァルは、おれが手にする魔石をジッと見つめている。果たして彼女がどういう考えなのか、何となく聞きづらい雰囲気だ。
「あ~あ。わらわの出番が全然無かった~! せっかく起きたのに~」
「あんな奴らを斬っても何にもならないよ。フィーサはもっと別の――」
「そ、それだけわらわのことを大事に!?」
「もちろんそうだよ」
どうも意味合いが違う気がするが、グルートたちを斬る為に使うつもりは無かった。フィーサは別の機会に使わせてもらう。
「あぁぁっ!! マスターイスティさま! ずっとずっと一緒にいたいの!」
「これからも頼むよ、フィーサ」
「はぅぅ……」
フィーサとのやり取りを済ませると、ずっと考え事をしていたらしきバヴァルが口を開く。
「アック様。ひとつお聞きしたいのですが、その魔石……どうされますか?」
「この魔石に連中を封じたとはいえ、あまりいい気分はしないからガチャで使うつもりはないな」
たとえこの魔石でレアガチャが出来るとしてもだ。
「――それでいいと思います。今の状態ではたとえアイテムがレア確定になるとしても油断は出来ませんから」
「邪気が残っているから?」
「悪しき心を持っていたからこその怪物変化。アック様だったら、邪悪な魔獣には変化していなかったはずです」
ガチャで出したアイテムとしては特殊なスキルだとは思っていた。しかし結局奪われてあんなことに。まずは魔石の処分を決めるのが先か。ここはバヴァルの考えに従うか、あるいは。
「なるほど……」
「その魔石を使われるおつもりでしたら、竜の息に近い熱さで浄化をするべきかと」
「竜の息?」
「アック様が吐き出された炎のブレスのことですわ」
「あぁ、竜だった時の攻撃か」
そういや、おれの口から炎を吐き出したんだった。それに近い熱さの所に沈めるとか、そんな所がどこにあるというのか。
「あれっ? アックさん、困り果てた顔をしてどうしたんですか?」
「竜のブレスみたいに、どこか熱い場所は無いかなと」
「そっ、それでしたら、ありますよ!!」
「心あたりでも?」
「フフッフフフ!! それこそわたしの故郷ですよっ! お忘れですか?」
あぁそういえば。彼女は火山渓谷の出身だったか。おれがガチャで引いて呼び出してしまったんだったな。
「確か火山渓谷の――」
「ロキュンテです! 是非! ぜひぜひ!! アックさんに来てもらいたいですっっ!」
「そ、そうだな」
すでに行く気のようで、ルティは大喜びを体現している。ルティはともかく、他の彼女たちの気持ちはどうなのか。
「アック様。水棲の――あの魔物の彼女のことですが、守っておやりになればよいかと」
「バヴァルもそこに行くんだよね?」
「もちろんです。魔石を何とかするのがわたくしの務めでございます」
「そ、そうか」
一刻も早くという距離では無さそうだが、まずはスキュラを説得して火山渓谷を目指すとするか。
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