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(北畑くん……妹かお姉さん……いたんだ)



北畑くんはワガママだから、勝手に一人っ子だと思っていた。



思い込みがはずれてちょっと衝撃を受けていると、その女の子は私に気付き、一気に表情をこわばらせた。



「唯くん……その人、だれ?」



突然睨まれた私は、おもいっきりびくっとした。



な、なに? 私、なんか感じ悪かった?



ただ突っ立ってただけじゃなくて、あいさつしなかったから?



いや、あいさつが気に食わなかったとか、この睨みようだと、そういった感じでもないような……。



とりあえず北畑くんの身内なら、あいさつはしなきゃだよね……。



「こんにちは」と頭を下げようとした時、北畑くんが急に私の肩を抱いて、ぐいっと引き寄せた。



「えっ!? ちょ、ちょっと!」



「智香ちゃん、紹介するよ。この人は同じクラスの大石緑さん。


まだ許可はもらってないけど、俺、この人と付き合うつもりなんだ」





突然の宣言に、私は驚いて「はっ!?」と大きな声で北畑くんを見た。



すぐ近くにある綺麗な顔は、笑って「智香ちゃん」と呼んだその子を見たまま動かない。



「え……なにそれ、唯くん、本気?」



「本気だよ。


俺、本気でみどりと付き合おうと思ってるんだ」



「ちょっ、ちょっと待ってよ!


勝手に決めないで! 私はいいって言ってない!」



私は慌てて北畑くんの手から逃れた。



待ってよ、急にそんなこと言うから、妹?すっごい私のこと睨んでるじゃん……!



ぜんっぜん北畑くんと付き合う気なんてない私のことはおかまいなしに、北畑くんは振り払った私の腕を捕まえて、にっこり笑って言う。



「じゃあ、今「いい」って言ってよ。


みどりがいいって言ってくれるまで……俺と付き合うって言ってくれるまで、この手離さないから」








な、なにその強引さ……!



絶対に断らせないつもりなのか、すっごい笑顔で私を見てるけど、それ超怖いから……!



そしてその後ろで私を睨んでいる妹?も、顔が超怖いし……。



北畑一家、ほんとに近づきたくない!



「みどり、いいって言ってよ。


俺と付き合ったらきっと楽しーって」



「いや、絶対楽しくない、遠慮します」



「なんで、そんなの付き合ってみないとわかんないじゃん」



「いや、わかるから!


だって北畑くん、私の気持ちなんておかまいなしじゃん!」



そうだ。私のことなんてぜんぜん考えてくれていないのに、そんな人と付き合って楽しいわけがない。



そこまで言うと、北畑くんは少ししゅんとして、私を掴んでいた手を離した。



「……やっぱりみどりは一筋縄じゃいかないか。


でもそういうところも気に入ってるから、やっぱりみどりがいいんだ。


だから……俺と付き合って?」



北畑くんはもう一度私のことを見て、それからさっきより優しく笑った。



でも私にとって、今の笑顔もさっきのと大差ない。



え……。



だから、私の話、聞いてた……?







「もう! 唯くん!!」



話の通じなさに言葉が出なかった私にかわって、大声で叫んだのは「智香」っていう北畑くんの妹?だった。



乱暴に門をあけて出てくると、智香ちゃんは北畑くんの手をぐいっと掴む。



「唯くん、もう帰ろう。ね?」



「いや、俺みどりが付き合ってくれるまではここにいるよ」



まだそんなことを言う北畑くんに、思いっきり首を横に振ると、智香ちゃんがじろっと私を睨んだ。



「……ほら、この人だって付き合う気なんてなさそうじゃん。


もういいでしょ、行こう」



そう言って北畑くんを引きずって家に帰ろうとする。



(やった、そのまま家に帰って……!!)



またとないチャンスに、私は心の中で智香ちゃんを全力で応援しつつ、遠ざかるふたりの背中を見つめる。



でも北畑くんは門の前で智香ちゃんの手をほどいた。









「唯くん?」



智香ちゃんが北畑くんを見上げる。



でも北畑くんは路地で棒立ちの私のほうにどんどん近づいてくる。



(えっ、なんで戻ってくるの……!?)



焦って顔が引きつった瞬間、北畑くんの右手が私の肩を掴んだ。



「え」と思った時には、顔が近付き、頬にキスをされる。



「……じゃあね、また明日」



耳元でささやかれ、北畑くんは呆然とする私を見て微笑むと、何食わぬ顔で背を向けた。



その向こうでは、私と同じく呆然とした智香ちゃんが見える。



でも顔はみるみるうちに真っ赤になって、智香ちゃんは勢いよくドアをあけると、そのまま家に入ってしまった。



「あっ、そうだ、みどり」



のんきな声で、門の前で立ち止まった北畑くんは、くるっとこちらを向いて言った。



「明日、朝7時半に駅の改札で待ってる。


一緒に学校行こうね」



キラキラした笑顔とその言葉に、私ははっとした。



「えっ、い、嫌だよ!なんで!!」



「いいじゃーん、一緒に行こうよ。待ってるから」



そう言って北畑くんはもう一度笑うと、私の返事を待たずに家に消えていった。







まるで嵐のようだった。



嵐か、もしくは竜巻か、どっちだろ……。



そんなどうでもいいことを考えてしまうほど放心していた私は、カァーカァーというカラスの気の抜けた声にはっとした。



そして我に返ると、ばっと顔を左右に振って路地に人がいないか確認する。



幸いあたりにはだれもおらず、一部始終を見ていた人はいないと、ほっと胸をなでおろした。



(し、信じられない……!)



もう、本当ありえない……!



家の前で男の子にキスされてたなんて、近所の人に見られて噂がまわったら、私、もうこの家にいられないよ……!



北畑くんは私の家がここだと知らずだったんだから、その怒りはお門違いかもしれないけど、もう本当に北畑くんは要注意だ。



これ以上ここにいるのは危険だと、私はダッシュで家の中に入り、音を立てないようにドアをしめた。



あぁ……これから先が思いやられる……。



靴を脱ごうとした時、ふとさっきの北畑くんの言葉を思い出した。













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