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第52話
族お手製の毒が仕込まれた矢がアニカの喉仏めがけて飛んできた。
僕は左腕を伸ばしてアニカを庇った。
背後を取られたか……
僕も時間の問題。早く逃げないと。
「ロルフさん! 私の所為で……」
「姫様。僕は大丈夫です。族の奴らがきました。この場から早く逃げましょう」
族は多分、二人くらいいるだろう。
僕は矢を二方向に撃ってからアニカを連れて山を下りた。
左手は痺れているけど、意地でアニカの手を握っている。
でも、道中にも敵がいて、ガタイのいい三人に囲まれてしまった。
それも、魔法を使ってくる。雷やら、炎やら、氷やら、散々だ。
アニカは立ち尽くしていた。拳を握りながら僕の情けない姿を見て……
怖い。失望される。
僕はアニカに指一本触れさせないようにと守る事に徹した。
直ぐに取っ払って進もうと思ったけど、全然、抜けられそうに無い。
「死ねぇー!」
そう言ったのはアニカの背後についていた敵だった。そいつは素手をアニカの頭の上に振り上げた。当たったら、十本くらい折れるだろう。
脳筋かよ!
僕はアニカを抱いてゴロゴロと転がった。
痛い。苦しい。怖い。泣きたい。
でも、守りたい。それが今、一番勝つ感情だ。
僕が血反吐を吐いているとアニカが「やめてください……もう、見てられません……」と涙目で訴えていた。
「僕はっ……姫様の事を……守りたいって、自分の意思で動いてるから……」
僕は途切れ途切れになりながら立ち上がった。
ふと、我に戻ると三人とも、疲れ切っていたけど、まとめて来られたら負ける。
僕が気付く前に横を取られて、吹き飛ばされた。
木に当たって、木には傷跡がついた。
痛いのも感じ無くなってきた。咳込んで、僕の体はボロボロだ。骨も分からない程折れているだろう。
アニカは走って来ている。
だめっ……来ないで……
「もう……ここ、っは危険です……逃げて……僕も、片付け終わったら……向かいまっ……す……」
「でもっ!」
「お願い……です……貴女だ、けでも……」
僕が振り向くとアニカが細かく首を横に振っていた。
「大丈夫……です……僕、は必……ず戻、り……ますから」
アニカは泣きながら僕に背を向けて下山した。
僕が口周りの血を袖で拭うと足をお腹に乗せられた。
「ここまで、ボロボロにされておいて、何も無しっていう甘い考えを持つんじゃないぞ。苦しみながら死ぬがいい」
そう言って少し力を入れてきた。
僕は苦しかった。気が遠くなってきた。
だめっ……約束。破りたくない……
僕が粘り強くしていると思い切り踏まれた。多分、粉砕骨折はしているだろう。
痛い。もう、気が遠くなってきた。
周りの音も耳鳴りに邪魔されている。目眩もする。
泣きたくなった。でも、泣けない。また、ソフィーとも、アニカとも、笑い合いたい。自分勝手過ぎるけど生きないと……
それに、やらないと……こんなザマ、馬鹿にされる……
僕は意地で、手元にあった剣で相手の足を斬った。
すると相手も怯んだので、僕はその内に起き上がって構えた。
ふらつくのも、目眩も、耳鳴りも、骨折も、無視しているような動きで、その踏みつけてきた奴を斬り伏せた。
その他二人とは、『体格差なんて関係ない』くらいの勢いで、斬った。
終わったら、少し気が緩んでふらついたけど、僕は『駄目だ』と心に言い聞かせて下山した。
✡
ロルフさん……
あれから数刻経っても下山先の集合場所にある洞窟ロルフさんが来ない。
でも、光は山の中に見える。段々、弱々しくなっている気がするけど……
二人いた騎士たちと合流はできたものの、一人は怪我をして動けない。
私は、何もできなかった。ロルフさんは、ボロボロになるまで戦ってくれたのに……
すると、ロルフさんの光が転がってきた。
え? どういう状況?
私は思わず洞窟の外に出るとロルフさんが瀕死で、転がっていた。転がってきた方向を見ると、あの人たちとはまた別の人がいた。
ロルフさんは、起き上がって剣を構えた。
その人はあっさりロルフさんに斬られて崩れるように倒れた。
それと同時に、ロルフさんのボロボロの体が崩れ落ちるように倒れた。
「ロルフさん!」
私はロルフさんの上半身を持ち上げた。
「ごめんなさいっ……私のっ、私の所為で……」
ロルフさんは私が泣きじゃくりながら言うと『違う』と言うように首を横に弱々しく振った。
「よか……た……貴女だ、けで……も、無事……で……」
「良くないですっ……こんな姿になってまで……」
「いい、です……僕の……つぐ……」
そこまで言うとロルフさんはぐったりと私の腕の中で気を失った。
それから王城に戻った。ロルフさんは起きるような素振りはしないし、息は浅いし、脈も弱い。
治癒騎士に彼の身を預けてから私は報告を待った。
コメント
1件
うわっ……第53話、めちゃくちゃ痛い回でしたね……。ロルフさんの「僕は大丈夫です」って台詞がもう、読んでて苦しかったです。あれだけボロボロになって、骨も折れてるのに、それでもアニカを守りたい一心で立ち上がる執念。自分勝手でも生きたいって思えるところに、ちゃんと人間らしさを感じました。 それと、アニカが「見てられません」って泣く場面、すごく胸に刺さりました。守られる側の無力感と、それでも信じて逃げる決断。二人の関係性が深まった回だったと思います。続き、ロルフさんは目を覚ますんでしょうか……気になります。