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第162話:シマエナガの襲来と、ガチの精霊たち
モフモフたちへの完璧な冬期迷彩(ハロウィン仮装)が完了し、世界中のVIPたちの財布の紐を木っ端微塵に吹き飛ばした、我が限界集落初のハロウィンパーティー。
十勝の広大な大地に夜の帳が静かに下りると、古民家の庭に飾られた無数のジャック・オ・ランタンが、温かみのあるオレンジ色の光を放ち始めた。
おばあちゃん達と手作りしたカボチャの灯りが、晩秋の冷え込む夜気を優しく照らし出し、あたりは実に良い雰囲気に包まれている。
居間の特等座布団の上では、小さな魔女の帽子をちょこんと頭に乗せたシロ様が、気高く香るほうじ茶の湯気をじっと見つめていた。
彼女がふと夜の庭へと視線を向け、その神秘的な『オッドアイ』の瞳をスッと細める。
カボチャの揺らめく灯りを受け、左目の深いサファイアブルーと、右目の気高い琥珀色が、左右非対称の圧倒的な美しさで怪しく煌めいた。
その瞬間、シロ様の全身から、まるでお湯のように温かく神聖なプラチナ色のオーラが、フワァァァッと同心円状に広がっていった。
庭の防風林を越え、限界集落の森全体へと染み渡っていく神獣の波動。
――ジュルルッ! ジュルルッ! ジジッ!!
突如として、漆黒の夜空から、鈴を転がしたような可愛らしい大合唱が響き渡った。
「ひゃあ!? お、お兄さん! 空から何か白いものが、雪みたいにたくさん降ってきますっ!」
カボチャ風エプロンをパタパタさせながら、小春ちゃんが縁側から夜空を指差して声を上げた。
真っ暗な夜空から、オレンジ色のカボチャの光へと向かって急降下してきたのは、雪の結晶ではない。
真っ白で、フワフワで、信じられないほど丸っこい、北海道の雪の妖精――『シマエナガ』の大群だった。
十羽や二十羽ではない。数百、いや数千羽はあろうかという圧倒的な数のシマエナガたちが、白雪の嵐のように古民家の庭へと一斉に飛来したのだ。
シマエナガたちは、庭の木々の枝や、カボチャランタンの頭の上、さらにはフランケンシュタインのボルトをつけた巨大ヒグマの肩の上にまで、ぎっしりと鈴なりになって着陸していく。
庭全体が、一瞬にして真っ白な「もふもふの果実」で埋め尽くされたかのような、凄まじい密度だった。
しかし、シロ様の放つハロウィンの奇跡は、これだけでは終わらなかった。
ゴゴゴゴゴゴ……と、今度は裏山の深い森の奥から、言葉にできないほど神聖な地鳴りが響いてくる。
次の瞬間、漆黒の森の境界線から、ぽつり、ぽつりと『光の球(オーブ)』が浮かび上がってきた。
それは、淡いエメラルドグリーンやプラチナ色に自発光する、直径十センチほどの謎の光の球体だった。
一つ、また一つと増えていく光の球は、まるで意思を持っているかのようにフワフワと空中を浮遊しながら、シマエナガたちが待機する庭のド真ん中へと集結していく。
無数の光の球が、夜風に揺られながらダンスを踊るように優雅に乱舞する。
カボチャランタンの温かいオレンジ色、シマエナガたちの純白、そして空間を埋め尽くす精霊たちのプラチナ色の自発光。
それらが完璧に融合した瞬間、ハリウッドのいかなる最新CGをも一瞬で過去の遺物にするほどの、超幻想的な『本物のファンタジー・ハロウィン空間』が庭に完成した。
あまりの美しさと神聖さに、庭の防草シートの上に佇んでいたミイラ包帯姿のコン吉とコン次郎も、「キュウゥン……」とウットリした声を漏らして光の球を見上げている。
最強のネットワークインフラを通じて世界中へと生配信されている画面の向こうでは、この世の限界を突破した超現実映像を目撃した三千五百万人を超えるリスナーたちが、完全に驚愕のあまり大どよめきしていた。
『うわあああああああ!!! ガチの精霊がハロウィンパーティーに参加してるぞ!!!』
『シマエナガの数がバグり散らかしてるww木が白くなってんじゃねえかww』
『ハリウッドの100億円かけた映画のグラフィックより美しいんだが……っ!』
『シロ様のオッドアイが光の球と完全に同調してる! 完全に大魔女の降臨だ!!』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)二百連発』
『”Oh my God!!! Beautiful! This is true art! My movies look like garbage compared to this! Akiya, I’ll pay 50 million dollars to rent your garden for my next movie!“(なんてこと!!! 美しいわ! これこそが真実の芸術よ! 私の映画がこれに比べたらゴミに見えるわ! アキヤ、次回作のためにあなたの庭を5000万ドルで貸し出しなさい!)』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)百八十連発』
『”Incredible sanctuary! Those floating lights are solid pieces of spiritual diamond! I will purchase that forest for 3 billion yen right now!“(驚異的な聖域だ! あの浮遊する光は精神的なダイヤモンドの結晶だぞ! 私は今すぐあの森を30億円で買い取る!!)』
世界中の大富豪たちが画面の向こうで腰を抜かして札束の弾幕を張り、極彩色のスパチャがプラチナ色の光の球と混ざり合って、宇宙規模のハロウィンナイトが爆発する中。
俺――アキヤは、全員がファンタジーの世界に陶酔している庭には目もくれず、静かに軽トラックの荷台の上で、おもむろに保冷バッグからいつものタッパーを取り出していた。
中に入っているのは、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、自家製の『大豆ミートと十勝産ゴボウの夜食きんぴら』である。
「……よし。前線陣地における、発光性空中浮遊有機物(精霊)の集結、および野生小型鳥類の異常過密状態を確認。これより指揮官は、これからの夜間防衛戦(ハロウィン事務手続き)を完全遂行するため、定時エネルギー補給を開始する」
俺は、プラチナ色に妖しく乱舞する精霊たちの光に照らされながら、一切の感情を排した元・社畜の顔で、ストイックに大豆ミートを玄米の上にワンバウンドさせて咀嚼し始めた。
(……ふむ。ゴボウの豊かな食物繊維と、大豆の植物性タンパク質。真夜中の警戒任務において、これ以上の兵站(ロジスティクス)はないな)
脳内で完璧な戦術栄養補給を完了し、淡々と咀嚼を続ける俺。
「お、お兄さぁぁぁん!!! 目の前で本物の北海道の妖精シマエナガさんが何千羽も集まって、大自然のガチの精霊さんたちがプラチナ色にダンスを踊ってる奇跡のハロウィンナイトに、なんで一人だけカボチャの灯りの下で真顔で『ゴボウ大豆ミート』をストイックにモグモグ咀嚼できるんですか!!」
小春ちゃんが完全に理性を消失させ、ハロウィンの室内装飾用に物置から出しておいた、樹脂製の頑丈な『等身大プラスチック製ガイコツの太ももの骨(耐衝撃仕様・長さ約五十センチ)』を両手で棍棒のように構え、凄まじいジト目でツッコミを入れてくる。
だが、俺は玄米の咀嚼を止めない。
「小春ちゃん、取り乱すな。どれほど空中がオカルト的な発光体によって制圧されようとも、元・陸上自衛隊需品科たるもの、定時給食(夜食)という基本ルーティンを怠ってはならない。いかなる超常現象の前でも己の代謝サイクルを一定に保つ。これが需品科の鉄則だ」
俺は水筒の熱いほうじ茶で喉を潤すと、四千万人を突破して地球上の通信インフラを物理的にハングアップさせかけている配信カメラにキリッとした真顔を向け、いつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面の向こうで、魔女の猫の力によってシマエナガが集結し、本物の精霊がハロウィンを祝いに現れたと感動されているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『精霊が物理的に目の前でダンスを踊ってるのに、絶対に認めない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・ガチの精霊編ww』
『さあ、このお伽話の世界をどうやって現実的な物理現象のせいにするつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは精霊でも魔法でもありません。先ほど発生した現象は、我が陣地(畑)の堆肥置き場に含まれる有機物が、晩秋の急激な気温低下によって急速に発酵・分解された結果、地中から大量の『メタンガス』および『微細なリン光成分』が空気中へ放出され、それが大気中の静電気と反応して発光しているだけの、純粋な『局所的発光ガス現象(セントエルモの火)』に過ぎません。シマエナガたちの大量飛来も奇跡ではなく、庭に飾られた本物の十勝産カボチャから揮発した、糖分の高い濃厚な芳香成分(フレーバー)に、近隣の野生個体が一時的に誘引されたという、極めて一般的な『摂食本能に基づく集団行動』です。ええ、すべてはただの『発酵ガスの静電気発光』と『カボチャの匂いによる鳥類の誘引効果』ですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
バコォォォォォンッ!!!!
小春ちゃんが、持っていた頑丈なプラスチック製のガイコツの骨を全力で振りかぶり、俺の背中に向かってパーフェクトな満塁ホームラン級・ガイコツ骨スマッシュを見舞った。
高密度のプラスチックが肉体に直撃した、乾いた、しかし骨に響くような凄まじい大爆音が、湯煙と精霊の光が満ちる限界集落の夜空へと虚しく響き渡る。
「発酵ガスが、こんなに温かくてお肌がツルツルになりそうな綺麗なプラチナ色の光を放つわけないでしょうが!! 集団行動じゃなくて、シロちゃんのあの綺麗なオッドアイの瞳から溢れた神聖なオーラが、森の精霊さんたちをハロウィンパーティーに招待してくれたんですよ!! 自分の家の猫が、世界をファンタジーに変えちゃう本物の大魔女だってことを素直に認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのガイコツ骨スマッシュ炸裂www(いい音)』
『局所的発光ガス現象(どう見ても本物の森の精霊)』
『摂食本能に基づく集団行動(可愛すぎるシマエナガの白い嵐)』
『適応力バグおじさん、ついに大自然の神秘まで堆肥の発酵ガスと言い張ったぞww』
『言い訳の無理矢理さが、世界中の環境学会からツッコミが入るレベルww今日も腹痛いわww』
俺の理不尽極まりない地質学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのガイコツ骨ツッコミに、ヒグマの肩の上で丸くなっていたシマエナガたちは「ジュルルッ!」と楽しそうにさえずり、四千万人を超えるチャット欄のリスナーたちも、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、相変わらず精霊たちの前でも屁理屈ばかり並べる頑固な下僕ね)』
シロ様が、魔女の帽子をちょこんと揺らしながら、満足げにその美しいオッドアイの瞳を細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
フランケンシュタインのボルトをつけた巨大ヒグマも、小春ちゃんのツッコミのリズムに合わせて「グゥ……」と楽しそうに鼻息を漏らし、光の球を大きな前足で優しくつつこうと、のんびりと戯れていた。
数時間後、世界を驚愕させたファンタジー・ハロウィンは静かに更けていき、精霊たちの光の球は、優しく夜空へ溶け込むようにして森へと帰っていった。
シマエナガたちも、おばあちゃん達から貰った粟の穂を満足そうに突き終えると、白い雪のようにフワフワと夜の防風林へと戻っていった。
村長からは、すぐさま「この幻想的な夜を『限界集落の妖精の夜祭り』として来年から公式行事にする!」と大興奮の連絡が入り、村にはまたしても映画のロケ地費用名目で莫大な外貨が振り込まれることとなった。
俺は縁側に腰掛け、静かに夜風を浴びながら、カボチャ提灯の温かい光を見つめていた。
俺の膝の上では、シロ様が丸くなって静かに寝息を立てており、その美しいオッドアイの瞳は穏やかに閉じられている。
「……まぁ、理由はどうあれ。陣地の夜間偽装(ハロウィン)の有用性が確認され、村の公金口座がさらに天文学的に潤い、来たるべき厳しい冬に向けた完璧な暖房燃料と物資(ロジスティクス)が完全に確保されたなら、作戦としては完全勝利だ」
俺は背中のプラスチックの衝撃を少しだけさすりながら苦笑し、シロ様の純白の背中を撫で、湯呑みの熱いほうじ茶をゆっくりと飲み干した。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いオッドアイの神獣と、最強のフランケンヒグマ、ミイラ化したキツネ兄弟、世界一キレのある女子高生、そして世界中から見守る熱狂的なリスナーたちに囲まれた、世界一バグっていて温かい『絶対の聖域』になってしまった。
神獣の魅せるハロウィンの奇跡と、元需品科のブレない大豆ミート咀嚼。
限界集落初のハロウィンパーティーは、カボチャ提灯の温かい光と大爆笑に包まれながら、さらに強固になった絆と共に、明日からの新しい日常の物語へと、どこまでも力強く続いていくのだった。
コメント
1件
おおっ、今回もやられたわ!シロ様のオッドアイからオーラ出て、シマエナガが白い嵐みたいに降りてきて、精霊まで現れるって、もう完全にハリウッド超えのファンタジー空間じゃん!なのにアキヤさん、一人だけ真顔で大豆ミートきんぴら咀嚼してるの最高すぎるw小春ちゃんのガイコツ骨スマッシュも炸裂してて、この温度差がたまらんわ。今回も腹筋死ぬかと思った、マジで良かった🔥
ゆうき あきや
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#心理描写重視