テラーノベル
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第163話:スイス銀行のトリック・オア・トリート
シマエナガの白い嵐が吹き荒れ、大自然のガチの精霊たちがプラチナ色の光の球となってダンスを踊った、奇跡のハロウィンナイト。
夜がさらに更けていく中、我が家の古民家の居間は、温かいカボチャ提灯の光と、動物たちのまったりとした熱気に包まれていた。
「はい、コン吉、コン次郎! 悪戯をしないでお利口にしてたから、お菓子のクッキーをあげるね!」
カボチャ風エプロンを揺らしながら、小春ちゃんが十勝産のカボチャと小麦粉で手作りした特製クッキーを、動物たちに手渡していく。
全身に包帯を巻いて可愛いミイラ男に変身したキタキツネの兄弟は、「キュイン!」「コンッ!」と嬉しそうに尻尾を振りながら、前足で器用にお菓子を受け取ってカリカリと美味しそうに音を立てていた。
頭の両脇に特大のボルトを生やしたフランケンシュタイン仕様の巨大ヒグマも、小春ちゃんから特大のカボチャスコーンを貰い、「グルォォ……」と満足げに鼻息を漏らして巨体を揺らしている。
そんな優しい時間が流れる居間のド真ん中、大座布団の上に鎮座しているのは、我が家の絶対司令官、純白の神獣シロ様だ。
頭に乗せた小さな魔女の帽子をちょこんと傾け、彼女がゆっくりとこちらを振り返った瞬間。
立ち込める湯煙とジャック・オ・ランタンの灯りの中で、シロ様の神秘的な『オッドアイ』の瞳が、左右で異なる圧倒的な神聖さを伴ってキラリと煌めいた。
左目のサファイアブルーは静謐な深海のように冷徹な輝きを湛え、右目の琥珀色は気高く温かな太陽の炎を宿している。
シロ様は「フンス」と鼻を鳴らすと、小春ちゃんから貰った高級乾燥マタタビスナックを、実にお上品にサクサクと咀嚼し始めた。
世界中の通信インフラを物理的にハングアップさせかけているスマホの画面の向こうでは、四千万人を超えるリスナーたちが、この尊すぎるもふもふ給食タイムに完全に悶絶していた。
『お菓子を貰って喜ぶミイラキツネとフランケンヒグマww可愛すぎて心臓がもたん』
『シロ様のオッドアイがカボチャの光を反射してマジで大魔女の風格すぎる!!』
『世界一平和で、世界一バグったハロウィンパーティーだな』
『見てるだけで日々の仕事のストレスが完全に浄化されていくわ……』
チャット欄が超高速で流れる中、突如として画面が冷徹なスイスフランのエフェクト――純金のインゴットが乱舞する高額ギフトによってジャックされた。
ピコーン! ピコーン! ピコーン!
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)百五十連発』
スイスの最高級プライベートバンクのロゴを背負った、あの冷徹な銀行家のアイコンがチャット欄に降臨し、世界経済の常識を木っ端微塵に破壊するタイピングを叩き込んできた。
『”Trick or Treat, my friends! I can hear your lovely voices from Switzerland! Here is some candy from the Swiss central vault for the magical animals! Enjoy!“(トリック・オア・トリート、我が友よ! スイスまでお前たちの愛らしい声が聞こえてくるぞ! 魔力の宿る動物たちのために、スイス銀行の金庫から私特製のキャンディを贈ろう! 楽しんでくれ!)』
「……ん? スイスからキャンディだと?」
俺が首を傾げた、まさにその直後だった。
ババババババババババババッ!!!!!
深夜の限界集落の夜空を引き裂くように、再び重厚なローター音が響き渡り、古民家の裏庭へと、スイスの国際セキュリティ企業のマークが入った、超厳重装甲の特殊輸送ヘリコプターが強行着陸(バーティカル・ランディング)を敢行したのだ。
ヘリから降りてきたのは、全身を最高峰の防弾装備と特殊タクティカルベストで固めた、スイス銀行直属の国際特殊金庫警備部隊の男たち二人だった。
彼らは、周囲を警戒しながら、映画の核兵器の起動スイッチでも入っていそうな、カーボン製の超頑丈なトリプルロック式アタッシュケースを両手で抱え、居間の縁側へとガチの軍事ステップで突入してきた。
ピピッ、ピピッ、ガシャーン! と厳重な暗証番号と生体認証が解除され、ケースの蓋が重々しく開けられる。
「ア、アキヤ様……! スイスの主より、ハロウィンのお菓子(キャンディ)の配達任務を完了いたしました……!」
超エリート警備兵の男たちが、なぜかヒグマを見てガタガタと震えながら、ケースの中身を差し出した。
そこにあったのは、煌びやかなゴールドの包み紙で綺麗に包装された、一口サイズの長方形の物体がぎっしりと数百個。見た目は完全に、高級海外製のゴールドチョコレート、あるいはキャラメルキャンディの山だった。
「わあ、すごいですお兄さん! スイスの銀行家さん、すっごくお洒落で可愛いゴールドチョコをたくさん送ってくれたんですね!」
小春ちゃんが目を輝かせて、その中の一つを手に取った。しかし、お菓子を掴んだ瞬間、彼女の細い腕が「ズシッ!」と尋常ではないほどの超重量によって地面へと引きずり下ろされた。
「……あれっ!? 重っっっ!! な、何ですかこれ、チョコなのに片手で持てないくらい、信じられないくらい重いんですけどっ!?」
それもそのはずだ。俺がそれを一つ手に取り、包み紙をスッと剥くと、中から姿を現したのは、チョコレートなどでは断じてなかった。
そこにあったのは、月明かりを浴びて鈍い輝きを放つ、スイス銀行の公式刻印がクッキリと刻まれた、純度99.99パーセントの本物の『純金インゴット(1個・約1キログラム・時価約1300万円)』だった。
それが、キャンディやお菓子のふりをして、ゴールドの包み紙でチョコ風に擬装され、ケースの中に数百個も敷き詰められていたのだ。総額にして、数十億円規模のリアルゴールドの山である。
スイスの銀行家は、経済観念を完全にバグらせたまま、本物の金塊を「魔女や動物たちへのハロウィンのお菓子(キャンディ)」としてばら撒き始めたのだ。
『んなわけあるかあああああ!!!! 包み紙だけチョコ仕様にしたガチの金塊じゃねえかwwww』
『お菓子の代わりに1個1300万円のインゴットばら撒くスイスの銀行家ww狂ってやがるww』
『ヒグマに金塊食わせる気かよwww歯が折れるわww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)』
『”Hey! That’s foul play! I was preparing a truck full of golden sugar! Master, do not accept his fake cheap chocolate! I’ll send real diamond candies tomorrow!“(おい! それは反則だ! 私は黄金の砂糖を積んだトラックを用意していたんだぞ! 主よ、あんな偽物の安いチョコレートを受け取るな! 明日、本物のダイヤモンドキャンディを送る!)』
画面の向こうで中東のオイルマネーが激しい嫉妬の炎を燃やして大暴走し、世界中のリスナーたちが腹を抱えて大爆笑する狂気のド真ん中で。
俺――アキヤは、数十億円の純金インゴットの山には目もくれず、静かに縁側に腰掛け、おもむろに保冷バッグからいつものタッパーを取り出していた。
中に入っているのは、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、自家製の『大豆ミートと十勝産小豆のハロウィン風カボチャ煮』である。
「……よし。前線陣地における、高比重金属サンプル(金塊)の突発的な搬入、および国際的防衛ラインの通過を確認。これより指揮官は、これからの夜間警戒任務(ハロウィン事務処理)を完全遂行するため、定時エネルギー補給を開始する」
俺は、窓の外から差し込む月光と、ゴールドのインゴットの鈍い輝きに照らされながら、一切の感情を排した元・社畜の顔で、ストイックにカボチャ風大豆ミートを玄米の上にワンバウンドさせて咀嚼し始めた。
(……ふむ。小豆の豊かなポリフェノールと、大豆の植物性タンパク質。いかなるスイスの富を前にしても、俺の兵站(ロジスティクス)に一ミリの乱れもないな)
脳内で完璧な戦術栄養補給を完了し、淡々と咀嚼を続ける俺。
「お、お兄さぁぁぁん!!! 目の前でスイスの超大富豪さんが1個1300万円のガチ金塊を『ハロウィンのキャラメルキャンディだー!』って言い張って数十億円分もばら撒いて、世界中が腹筋を崩壊させてる歴史的な大狂気の世界線に、なんで一人だけ金塊の輝きを浴びながら真顔で『小豆大豆ミート』をストイックにモグモグ咀嚼できるんですか!!」
小春ちゃんが完全に理性を消失させ、お菓子を配るために台所から持ってきた、ステンレス製の頑丈な『特大配膳用お盆(耐衝撃ヘビーデューティー仕様・重量約一・五キロ)』を両手でテニスのラケットのように構え、凄まじいジト目でツッコミを入れてくる。
だが、俺は玄米の咀嚼を止めない。
「小春ちゃん、取り乱すな。どれほど国際的な金融界の巨頭が我が陣地の経済観念を破壊しにかかってこようとも、元・陸上自衛隊需品科たるもの、定時給食(夜食)という基本兵站を怠ってはならない。いかなる超常現象の前でも己の咀嚼リズムを維持する。これが需品科の鉄則だ」
俺は湯呑みの熱いほうじ茶で喉を潤すと、四千五百万人を突破して地球上の回線を完全に機能停止させかけている配信カメラにキリッとした真顔を向け、いつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面の向こうで、スイスの銀行家が本物の金塊をお菓子としてばら撒き、狂気のハロウィンが成立したと興奮されているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『本物の刻印入りの純金インゴットが山積みになってるのに、絶対に認めない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・スイス銀行の金塊編ww』
『さあ、この数十億円のリアル富をどうやって現実的な事務処理のせいにするつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは本物の純金インゴットでも、お菓子のテロでもありません。先ほど発生した現象は、海外の過激な『高比重重金属インフラ研究所(スイスの銀行)』が、我が限界集落の頑丈な床の『耐荷重および地盤沈下耐性』を測定するために送ってきた、単なる『地盤調査用の規格バラスト(おもり)』に過ぎません。ゴールドの包み紙で包まれているのもお洒落ではなく、夜間の視認性を高めて足元の安全を確保するための、純粋な『安全管理用の反射シート』です。数十億円という資産価値も、国際的な地盤調査における『保証金』が口座のディスプレイにバグとして一時的に反映されているだけです。ええ、すべてはただの『地盤調査用のバラスト搬入』と『安全シートの乱反射』、そして『会計上の過剰な着金エラー』ですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
バコォォォォォンッ!!!!
小春ちゃんが、持っていた特大のステンレス製お盆を全力で振りかぶり、俺の背中に向かってパーフェクトな満塁ホームラン級・お盆スマッシュを見舞った。
ヘビーデューティー仕様の頑丈なステンレスが肉体に直撃した、乾いた、しかし骨に響くような凄まじい大爆音が、湯煙と金塊の光が満ちる古民家の高い天井へと虚しく響き渡る。
「安全シートの乱反射で、スイス銀行の公式シリアルナンバーがクッキリ刻まれてるわけないでしょうが!! 地盤調査じゃなくて、お兄さんの配信とシロちゃんのあの綺麗なオッドアイの瞳の加護が凄すぎて、銀行家さんが嬉しくなって本物の富をプレゼントしてくれたんでしょうが!! 自分の家のチャンネルが、世界中の大富豪を狂わせる本物の聖域だってことを素直に認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのステンレスお盆スマッシュ炸裂www(相変わらずいい音)』
『地盤調査用の規格バラスト(総額数十億円の本物の純金インゴット)』
『会計上の過剰な着金エラー(スイス銀行からの本物のロイヤル資産)』
『適応力バグおじさん、ついに数十億の金塊までただの地盤調査のおもりと言い張ったぞww』
『言い訳の無理矢理さが、世界の財務省と中央銀行から苦情が来るレベルww今日も腹痛いわww』
俺の理不尽極まりない地質学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのお盆ツッコミに、金塊の包み紙を前足で転がして遊んでいたミイラ姿のコン吉とコン次郎は「キュイン!」と楽しそうに鳴き、四千五百万人を超えるチャット欄のリスナーたちも、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、相変わらず数十億の金塊を目の前にしても屁理屈だけは世界一な下僕ね)』
シロ様が、魔女の帽子をちょこんと揺らしながら、満足げにその美しいオッドアイの瞳を細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
サファイアブルーと琥珀色の二色の瞳は、ゴールドのインゴットよりも遥かに眩しく輝いており、彼女にとってはこのリアルゴールドの山も、ただの小さなおもちゃに過ぎないようだった。
頭にボルトをつけた巨大ヒグマも、小春ちゃんのツッコミのリズムに合わせて「グゥ……」と楽しそうに鼻息を漏らし、おばあちゃん達が持ってきてくれた十勝産のカボチャを美味しそうに食べながら、金塊のケースを不思議そうに眺めていた。
「……まぁ、理由はどうあれ。地盤の強固さが確認され、村の公金口座が外貨で天文学的に潤い、これからの厳しい冬に向けた完璧な暖房燃料と物資(ロジスティクス)が完全に宇宙の果てまで確保されたなら、作戦としては完全勝利だ」
俺は背中のステンレスの衝撃を少しだけさすりながら苦笑し、シロ様の純白の背中を撫で、湯呑みの熱いほうじ茶をゆっくりと飲み干した。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いオッドアイの神獣と、最強のフランケンヒグマ、ミイラ化したキツネ兄弟、世界一キレのある女子高生、そしてお菓子の代わりに金塊をヘリで投下してくる大富豪たちに囲まれた、世界一バグっていて温かい『絶対の聖域』になってしまった。
神獣の魅せるハロウィンの奇跡と、元需品科のブレない大豆ミート咀嚼、そして夜空に響き渡るステンレスお盆の快音。
限界集落初の狂気のハロウィンパーティーは、カボチャ提灯の温かい光と大爆笑に包まれながら、さらに強固になった絆と共に、明日からの新しい日常の物語へと、どこまでも力強く続いていくのだった。
コメント
1件
読みました!今回も最高にぶっ飛んでて草ww スイスの銀行家が金塊を「キャンディ」って言ってヘリで投下してくる発想、頭おかしくて好きですわ。でもそれ以上に、数十億のインゴット前に一人だけ「地盤調査用バラスト」って真顔で大豆ミート咀嚼するアキヤさんの適応力バグっぷりが光ってた!小春ちゃんのステンレスお盆スマッシュの快音もたまらん。シロ様のオッドアイが金塊より輝いてるってオチも含めて、狂気と尊さで胃もたれしそうなハロウィンでした。お疲れ様です!🔥
ゆうき あきや
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#心理描写重視