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「……知らねぇよ、そんなの」
「でも、図星でしょ」
「……悪いかよ」
「いや無理嫉妬してる兄さん可愛すぎる本気で心臓に悪い」
「だっ、だからその恥ずかしい言い方をやめろって────」
叫びかけた瞬間、視界が遮られた。
ぎゅっ、と、引きちぎらんばかりの強い力で、俺の身体が直哉の大きな胸の中に抱きすくめられる。
「うわっ!?ちょ、離せ!」
ここは体育館の裏だ。
リハーサル中の生徒や先生が、いつ通りかかるか分かったもんじゃない。
「無理。絶対に離さない。今の兄さん、本当に可愛すぎて、どうにかしたい」
「はっ離せ、バカ直哉……!」
耳まで、首筋まで、全身が沸騰しそうなほど熱い。
だけど
直哉の硬くて広い胸に顔を埋められていると
さっきまであれほど荒れ狂っていた胸のモヤモヤが、嘘みたいにすっと消えて
変な安心感が身体を満たしていく。
「ねえ兄さん」
「……なんだよ、もう」
「そんな風に、俺に嫉妬してくれるの死ぬほど嬉しい」
「……っ」
「俺、ずっと不安だったんだよ?兄さんを無理やり恋人にしちゃったから、俺ばっかりが兄さんのことを好きなのかなって。だから……本当に幸せ」
直哉の背中に回された腕の力が、微かに震えているのが伝わってきた。
いつも自信満々で、余裕ぶっている独占欲の塊のくせに
こいつはこいつで、俺の気持ちが見えなくてずっと怯えていたのだ。
その不器用な健気さが、胸の奥を激しく揺さぶる。
俺はしばらくの間、直哉の胸の中で黙り込んでいた。
ドクドクと打つ、お互いの心臓の音が重なり合う。
俺は意を決して、直哉の制服のブレザーをぎゅっと掴むと
彼の胸に顔を埋めたまま小さく、本当に蚊の鳴くような声で呟いた。
「……俺だって、好きだし」
「え」
直哉の身体が、ピキッと凍りついたように硬硬直した。
「だから!変な奴を近くに寄せ付けるなって言ってるんだよ、このバカ!」
いい終わってから、しまった、と思うも
恥ずかしさのあまり心臓が破裂しそうだった。
次の瞬間、直哉の腕に、これまで経験したことのないような凄まじい力が込められた。
「兄さん、今『俺だって好き』って言ったよね!?」
「い、言ってねぇ!幻聴だ、お前の耳が腐ってんだよ!」
「言った!絶対に言った!俺の耳にはハッキリ聞こえた!」
「うっ…い、今すぐ忘れろ!」
腕の中からすり抜けて逃げようとするが
直哉のバカ力には、一ミリも太刀打ちできない。
直哉はこれ以上ないくらい、パッと世界が輝いたような、めちゃくちゃに嬉しそうな笑顔を浮かべて
俺を壊れ物を扱うように、けれど激しく抱きしめ直してきた。
「兄さん、大好き!本当に大好き、愛してる!」
「重い!!暑苦しいんだよ、離せ!!」
口ではどれだけ罵倒しようとも、自分の腕の中にすっぽりと収まって
子供みたいに満面の笑みを浮かべている直哉の顔を見ていたら。
……俺の口元も、どうしても緩んでしまうのを、止めることができなかった。
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