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アルバイト先であるファミレスの更衣室で、壁にもたれ掛かりながら携帯を弄っている香澄。そんな香澄は、私にチラリと視線を向けるとおもむろに口を開いた。
「……で、新しい家はどうなの?」
『それ、絶対に怪しいよ。やめときな』
ネットで見つけたシェアハウス募集サイトを見せた私に、香澄は以前そう言って反対をしていた。
シフトが被らなかった事もあり、それから香澄と会うのは約二週間ぶり。
その間に、勝手に入居を決めて引っ越しまでしてしまった私に、『信じらんないっ! 私、止めたのに!』と怒りながらも、今もこうして私が着替えるのを更衣室で待っていてくれている。
本当に心配してくれているんだな、と思いながら、私は制服のボタンを留めて口を開いた。
「うん……。静香さんて言うんだけどね、凄く綺麗で優しいよ」
「本当に、家賃3万なんだ?」
「そうなの。未だに信じられないけど……凄く助かる」
大学に通いながら週4日のアルバイトに出ているだけの私には、家賃3万は本当に有り難かった。
同棲なんて、するんじゃなかった……。そんな後悔をしていた時、たまたま見つけたあの募集サイト。
即決して、本当に良かったと思う。
「本当に、女の人なんだね……」
「……え?」
「3万なんて、どう考えても安すぎるでしょ? 女目当ての、キモいオヤジかなんかだと思ってたからさぁ……。3万なんて安すぎだし。何か裏があるんじゃないか、って思ってたんだよね~」
そう言って、安心したかのように小さく溜息を漏らした香澄は、耳元にあるキラキラと輝くお花のモチーフのピアスを揺らした。
彼氏に貰ったというそれは、華やかな香澄によく似合っている。
「確かに……。そんな事、考えてもいなかったよ……」
「……もうっ。真紀はもっと、ちゃんと慎重に考えるべきだよ? 周りの意見もちゃんと聞きなよね」
口を尖らせて怒りながらも、「……でも、家が見つかって良かったね」とポツリと零した香澄。
「うん、ごめんね。……ありがとう、香澄」
顔を覗き込んで微笑みかけると、少しだけ照れた様な素振りを見せた香澄は、「ホント、真紀は世話が焼けるよねっ!」と言いながら携帯をロッカーにしまった。
「今日は週末だから、きっと混むねぇ〜。怠いなぁ。……そろそろ時間だし、行こっか」
ぶつくさと文句を言いながらも、壁に掛かった時計を見てロッカーに鍵を掛けた香澄。そのまま扉の方へと向かって歩いて行く。
それに倣《なら》うようにして自分のロッカーに鍵を掛けた私は、香澄を追うようにして更衣室を後にした。
廊下を抜けた先にある店内をチラリと覗いてみると、夕飯時という事もあってか既にとても混雑している。
それを確認した私は、一度小さく深呼吸をすると、「……よしっ。頑張ろう」と呟いてからホールへと続く道に足を進めたのだった。
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