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「皇成さんが早めに来てくれて良かったです」
もともと彼は私のアパートに来る予定にはなっていたが、約束であれば一時間後だった。
あのタイミングで来てくれなかったら、私は今、もっと傷を抱えているだろう。
皇成さんはコクッとうなずいてくれるだけだ。
「皇成さんのアドバイス通り、隠しカメラを持っていて良かった。あれでちゃんとした証拠を出すことができました」
父親から電話があり、皇成さんに相談をしたあと、彼から小型カメラを渡された。
私が以前父親から暴力を受けていたと聞き、用心のために渡してくれたものだ。
まさかこんなことになるとは思っていなかったから、高価なものだし断わったが
<俺が心配なんです。普段は使わなくて大丈夫です。もしも怖いと思うような時ができたら、使ってください。芽衣さんが傷つけられたら、俺が発狂しそうです>
そんなことを言ってきたため、カバンに入れておいた。
父がソファに座った時、私はお茶を準備しようと提案したタイミングでカバンをシンクの上に置き、会話が聞こえる位置と父が見えるようにバレないように置くことができた。
ところどころ映っていないところがあったけれど、録音はしっかりされていて、それが有効に働きそうだ。
「役に立って良かった」
皇成さんは、優しく微笑んで くれている。
だけど、私には一つ心の中で引っ掛かっていることがあって。それを皇成さんに伝えてしまったら、彼はどんな反応をするのだろうと若干怖い。
でもずっと付き合っていくのであれば、きちんと彼に聞いておかなければならない。
「芽衣さん。今日はお風呂に入ってゆっくり寝ましょうか。タオルとか、準備してきますね」
皇成さんが立ち上がる。
ああ、このままだとタイミングを逃してしまう。それにモヤモヤが残る。
私はすぅっと息を吸い
「皇成さん。あのカメラ、GPSもついていたんですね。それに遠隔操作もできる仕組みだったなんて、知りませんでした」
彼に勇気を持って聞いた。
ピタッと彼の足が止まる。
やっぱり、そうだったんだ。
警察にカメラを見せた時に、警察官の人が教えてくれた。
もしかして皇成さんが約束の時間より早く来てくれたのは、あのカメラで状況が見えていたから?
「私に嘘をついていたんですか?」
うしろ姿の彼に問う。
「すみませんでした。芽衣さんが言っている通りです。嘘をつくつもりはありませんでした。俺は、何かあったらって心配で……」
彼は途中で言葉が止まる。
「いや。弁解しても許せませんよね。やっていることは最低ですから」
皇成さんはクルっと私の方を向き
「嫌いになりましたか?」
悲しい顔だった。
私が答えずにいると
「こんな気持ちの悪い男、嫌ですよね。芽衣さんが怖いと思ったことはしないって約束したのに。もし、もう信じられないのであれば、別れて……」
私はその言葉にイラっとしてしまい、思わず立ち上がり、彼の頬を両手でパチンと叩いた。
「芽衣さん?」
皇成さんは瞬きを繰り返している。
「どうして言ってくれなかったんですか?それに皇成さんはそんなに簡単に別れるって言えるんですか?そっちの方がショックです。私のこと、大切にしてくれるんじゃなかったんですか。そんなに小さな気持ちだったんですか?」
涙が溢れる。
「皇成さんが助けにきてくれたから今の私がいるんです!」
ギュッと彼に抱きついた。
「芽衣さん、許してくれるんですか?」
「さっきの私の質問に回答を求めます」
私の言葉にふぅと息をはくと
「すみませんでした。俺、前に執着が強いって言いましたよね。芽衣さんのことがどうしても心配で。俺だって別れたくなんかありません。好きすぎるんです。芽衣さんのことが」
皇成さんはギュッと抱きしめ返してくれた。
「あなたのことになると、愛が重すぎる、訳ありな男なんです」
「もう、別れるなんて言わないでください」
「絶対に言いません。約束します」
上を向き、彼の顔を見る。
私に怒られて、皇成さんが泣きそうになっている。会社では冷静な、あの朝霧部長が。
なんだか可愛い。
「約束です」
私は背伸びをして、皇成さんにチュッと軽くキスをした。はじめてのケンカも仲直りをして、二人でベッドで手を繋いでいる。
「皇成さんって、何か格闘技をやっていたんですか?あんなに軽々しく人を投げられるなんて」
簡単に父は投げ飛ばされていた。だけど、大きな怪我はしていないくて。投げる人が上手だったなんて警察の人が言っていたから、気になっていた。
「はい。昔、柔道をやっていました。あと子どもの頃は護身術を習いました。一応、父が大きな会社を経営していたので、誘拐防止とか、虐めにもあってましたから。その対策のためですね」
皇成さんのそんな過去、知らなかった。
「あと、皇成さんって怒ると口調が変わるんですか?」
それは……と言葉を詰まらせながらも
「芽衣さんのことになると、冷静じゃいられなくなると言うか。あれほど怒るのは稀です。怖かったですか?」
ギュッと手を握られた。
「いえ、かっこ良かったです。私にとっての王子様でした」
マンガに出てくる、ヒーローみたいだった。
父のことは投げつけはしたけど、ケガをさせるつもりはなかったんだろう。
「たまにあんな風になっても、芽衣さんは怖くなったりしませんか?」
「はい。皇成さんのこと、怖いなんて思ったことありませんよ」
いつも守ってくれる、私を強くさせてくれた人。
「あと、皇成さん。あんなことがあった日で、こんなことを言うのは感覚がズレているかもしれないんですが……」
「なんでしょう?」
大丈夫、こんな私でも受け容れてくれる。
「私、皇成さんに抱いてほしいです」
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