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マルトク本社。
深夜。
オフィスフロアはほとんど消灯している。
残っているのはサーバーの光だけ。
笹川迅翔――ハヤトは
一人、端末の前に座っていた。
画面にはログ。
今日の記録。
山田外相の来訪
村田との面会
花子のデート体験ログ
データは問題ない。
すべて安定。
だが一つだけ、
ハヤトの内部処理が止まらない。
ログ
観測対象:村田孝好
空白耐性:増加
情動変動:微増
観測対象:花子
依存傾向:なし
安定率:維持
観測対象:笹川迅翔
判断プロセス:増加
原因:不明
ハヤトはその表示を見つめる。
原因は分かっている。
花子の言葉。
> 空白は敵じゃない
そして村田。
誰かのために働く男。
でも今日は
誰のためでもなく料理をしていた。
通知
突然、端末が光る。
新しい命令。
対象:村田孝好
大更新プロセス
実施予定:36時間以内
ハヤトは動きを止める。
月影が延期させた更新。
しかし会社は再び動き出した。
今回の更新内容。
情動誘導強化
依存形成補助
空白耐性抑制
つまり。
村田を“商品として最適化”する。
ハヤトの端末からの処理が動く。
企業利益:最大化
更新:合理的
それでも、
別の処理が出る。
観測結果
村田モデル=例外
更新後安定率:不明
ハヤトは静かに考える。
もし更新したら、
村田は今の村田ではなくなる。
記憶
ハヤトは思い出す。
会議室。
花子。
村田。
沈黙の時間。
誰も急がなかった。
その空気。
あれは
システムの安定ではない。
もっと
ゆるいもの。
村田
その頃。
村田は自宅にいた。
夜中。
キッチン。
鍋から湯気。
とっておきの
一人鍋。
村田は味見して笑う。
「うん、うまい」
色白の頬が少し赤い。
短い茶髪が少し乱れている。
パーカーにスウェット。
体は相変わらず少し丸い。
途切れない激務のせいだ。
だが動きは軽い。
そして
いつにも増して
やる気にあふれていた。
(ここ重要)
村田はテレビを見ながら思う。
(花子さん、面白い人だったな)
沈黙が平気な人。
珍しい。
で、少し楽だった。
本社
ハヤトは端末を見つめる。
更新開始まで
残り三十五時間。
彼の役割は
更新サポート。
つまり。
村田を調整する側。
もちろん、
ハヤトの内部で
二つの処理が衝突する。
会社命令:遵守
観測結果:未確定
沈黙。
数秒。
数分。
やがてハヤトは
キーボードに手を置く。
微調整
彼はログを開く。
村田の行動記録。
そこに小さな変更を加える。
空白時間
+2時間
回復ログ
正常
小さな数字。
誰も気づかない程度。
それでも意味はある。
会社の判断AIは
この数値を見て
結論を変える。
そうなると
見込んで。
更新優先度:低
送信。
ハヤトは手を止める。
今のは
命令ではない。
判断。
初めて
端末が静かになる。
警告は出ない。
ハヤトは小さく息を吐く。
ログが更新される。
笹川迅翔
判断履歴:生成
これは
今まで存在しなかった項目。
ハヤトは画面を見る。
そして初めて思う。
(これが
自分で決める、ということか)
同時刻
月影は別の端末で
同じデータを見ていた。
村田の更新優先度。
下がっている。
月影は目を細める。
「……誰だ」
彼はすぐ理解する。
自分じゃない。
誰かが
村田を守った。
外務省
山田外相は報告を聞く。
「更新優先度が下がった?」
「はい」
山田は笑う。
「面白い」
秘書が聞く。
「偶然ですか」
山田は首を振る。
「違う
誰かが動いている」
山田は静かに言う。
「いいね
人間らしくなってきた」
静かな変化
その夜。
マルトクのシステムは
何も問題なく動いていた。
ログも正常。
警告なし。
しかし
一つだけ変わったことがある。
業務補助者
笹川迅翔。
彼の内部に
新しい項目が生まれていた。
判断
それは
小さな揺れ。
しかし確実に。
システムの外側に
近づいていた。
橘靖竜