「……執事みたい」
「お望みならコスプレするけど、そん時は朱里もメイドさんやってくれ。勿論、元気な時に」
「私もか」
思わず突っ込むと、尊さんは小さく笑った。
「おやすみ」
そのあと私の頭を撫で、部屋を出ようとする。
「……尊さん」
「ん?」
常夜灯のみの暗い部屋のなか、廊下のライトを浴びた彼が振り向く。
「……うつしたらごめんなさい」
「全然」
彼はクスッと笑ったあと、部屋を出ていった。
そのあと少し眠ったけれど、酷い寒気と腹痛とで地獄のような苦痛を味わった。
あまりにつらくてちょっぴり泣いてしまい、余計に洟をかむ羽目になる。
さらにつらいのは、本当は寝ていたいのに、高級ベッドを汚したくなくて、頻繁に起きてはトイレに向かわないといけない事だ。
尊さんは書斎にいたけれど、ちょいちょい私の様子を見に部屋を訪れていた。
「……もういいですよ。尊さんは明日も仕事あるんですし、私に構わないで」
お互いマスクをしているものの、彼にうつしたらと思うと申し訳ない。
「明日、町田さんが来たら必要な物を買ってもらってくれ」
「ん……」
尊さんは頷いた私の首筋に手を這わせ、「まだ熱いな」と呟く。
そのあとベッドに座り、私の手を握り、髪を撫でてきた。
「早くよくなりますように」
祈るように言ったあと、尊さんはボソッと呟いた。
「俺がインフルになれば良かったのに」
その言葉を聞き、私は首を横に振り、力の入らない手で彼の手を握る。
「……ていうか、タイミング的に朱里にインフルうつしたの、田村っぽいよな。あいつカフェでも少し咳してたし。その前は上村家に行ったけど、誰も体調悪そうにしてなかったもんな」
忌々しげに言ったあと、尊さんは舌打ちする。
「今頃昭人も寝込んでたりして。へへ、ざまーみろ」
反対側の手でグッとサムズアップしてみせると、尊さんは私の前髪をクシャリと撫でてきた。
「あいつとお揃いで寝込んでるなんて、すげぇやなんだけど」
そんな事で嫉妬してくれるのが嬉しくて、私は思わず笑う。
「尊さんは仲間に入れてあげませんよ。体調崩したら大変な人なんですから」
冗談めかして言うと、彼はなおもサラサラと私の髪を撫でて言った。
「……まったく。……それはそうと、こんな時になんだけど、お楽しみを設定しておこうか」
「……お楽しみ?」
目を瞬かせると、尊さんは優しく微笑む。
「バレンタイン前の連休、温泉行かないか?」
連休デートキター!
私は具合が悪いのも吹っ飛ばして、テンションをぶち上げてしまう。
「いぎまず!」
あまりに勢いづいて言ったので、掠れ声になってしまった。
「寒い冬にあえて北海道へ行って、雪まつりを堪能してから、寿司をたらふく食って、温泉でカニ」
「……最高……!」
私はまた布団から手を出し、サムズアップする。
「……早く元気になりだい……」
尊さんと北海道デートするだけで、どん底だった気分が一気に急上昇し、旅行の事しか考えられなくなる。
「ん、よしよし。じゃあゆっくり休んで温かくしておけよ」
「はい」
また頭を撫でられて目を細めた時、尊さんに少しまじめなトーンで言われた。
「さっきから頻繁に部屋を出入りしてるけど、つらくて眠れないか?」
お手洗いに立っている事を指摘され、私は彼から視線を逸らす。
「その……」
「妙な勘ぐりをして『気持ち悪い』って思ったらすまないが、頻繁にトイレに行かないとならないぐらい大量に出血してる? 女性の普通がどれぐらいか分からないが、三十分に一度は替えないとならないものか?」
尊さんが真剣に心配してくれているのを知り、私は彼の手をキュッと握ってボソボソと答える。
コメント
3件
楽しみが有れば頑張れる🤗
病気明けの楽しみ設定があると俄然頑張って直したくなるよね👍 もう…尊さんの全てに尊敬だわぁ☺️ 田村菌を早く追い出せますように🙏
北海道〜🦀アカリンやったね❣️食い倒れツアーだぜぃΨ(*¯ч¯*)'' ŧ‹”ŧ‹” 出血のこといい機会だから話しておこう!これからのためにもね😉