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それは、どこか遠い何処かの国での出来事。
私は、出先から会社へ戻ろうと歩道を歩いていた。その国では、歩道も安全ではなく自転車やバイクが走り、場合によってはそいつらに鞄やスマホをひったくられるような、そんな治安状態の場所だ。普段なら絶対、外を歩いているときに気を抜いたりしない。
でも、その時。建物が続いていたはずの道路脇に、ポッカリと路地が口を開いた。
そんなバカな。さっきまでそこには建物があったはず。
思わず、体ごと路地の入口を向けて奥を覗き見る。一瞬、呆然と立ち尽くした。直後に背後をクラクションを鳴らしながらバイクが通り過ぎる。そのおかげで私は我に返った。
そんなハズはない。彼女がここに居るなんて…だって、彼女は…。
数十年前のことなのに、瞬時に蘇る記憶。あのときのオレは…そうだ、あの頃はまだ自分のことを『オレ』と呼んでいたのだ…彼女に振り回されてばかりだった。彼女とともに過ごしたのはここから何万キロも離れた土地。恐らくもう二度と行くこともない場所。そして彼女も…二度と会わない、ハズだった。でもさっき路地の奥に見えた後ろ姿は、間違いなく彼女だ。2年も共に過ごしたのだ。間違えるはずもない。もうあれから数十年も経っているのに、後ろ姿は驚くほど変わらなかった。
会えるのなら、会いたい。
そう思った自分に少し驚いた。もういい歳のオジサンになっている。あの頃と変わらぬ姿なら、彼女と釣り合いなんて取れるはずがない。そう思ってみても、湧き上がった感情に蓋をするより先に、体が動き始めていた。