TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する




水縹家――


そう書かれた墓石を見て、虚しくなった。そして、あの時のニュースが、瞼を閉じれば蘇ってくる。突然の報道、あの時の衝撃。全てが鮮明に蘇ってくる。そして、楓音の笑顔が、俺を呼ぶ声が聞えてくるような気がした。この墓には、骨しか埋まっていない。だから、楓音がここにいるのか、天国という場所が存在して、そこで元気にやっているか分からなかった。でも、もう、言葉を交すことはないと、それだけは返られない事実だ。




「楓音、俺さ。お前のいうような、いい奴じゃなかったかも知れない」




懺悔。


眠っている人には届かない言葉を、俺は口から吐き出す。

どうしても、後悔している。何だか、楓音を裏切ってしまったような気がして。それだけじゃなくて、俺があの時家について行ってやれば良かったとか、家に泊まっていけばとか言えばよかったとか。兎に角色々。あとからなって、こうしておけば良かったなんてこと、幾らでも出てくる。でも、その大半が、失って気づいたものだから、失わなければ一生気づかなかっただろう点。

分かってる。こんなの、言い訳だし、後出しだって。




「楓音は、俺の事良い奴だって、好きだって告白してくれた。本当は、凄く嬉しかったんだ。告白なんてされたことなかったし、俺の事、本気で好きだっていってくれる人がいたんだって、気づかせてくれたのは、楓音だった。俺も、楓音のこと好きだった。可愛いとか、笑顔が素敵とか……そんな淡いものだったけど。恋愛感情か、否か、分からなかったけど。俺は、友達として楓音のことが好きだった。お前の、笑顔が、俺の名前を呼んでくれるときのトーンや、少し頬を赤らめて笑う楓音が……」




そこまで言って、ズビッと鼻を啜る。


俺が泣く資格なんてないって、自分の中でルールを作ってがんじがらめにしているせいで、俺は、泣けなかった。泣いたらスッキリしたかも知れない。でも、俺には出来なかった。泣くのが恥ずかしいっていうのもあったから。本当に、頑固だよなって自分でも思う。




「……だから、凄くあの日のこと後悔してる。不審者の話し聞いてたから……なんか、報道では、色々あることないこと言われてただろう? 楓音が、道を聞かれてたとか、営業時間外の水縹探偵事務所に人が入っていったとか……だから、何がほんとか分からないけどさ、あの時ついて行ってれば良かったって、思ってしまうんだよ」




ついて行ったところで、何かがかわったわけじゃないかもだけど。それに、俺も殺されてしまう可能性もあったわけで。

不審者がいる、という情報だけで、どんなも、何処でも、聞いていなかったから、朔蒔に不審者の話をしたくせに、フワッと考えていたのかも知れない。それが、この結果だ。

いや、止めれなかったのかも知れないけど。何をしても、変わらなかったのかも知れないけど。

自分を責めることで、救われようとしていたのかも知れない。




「……楓音の告白、何度も言うけどさ、嬉しかった。けど、応えられなくてごめん。俺は朔蒔のことを好きになっちゃってたから……でも、今分からないんだ。楓音、聞いてくれ」




きっと、いいたかったのはこっちだと。

俺は、息を整えて、水縹と描かれた墓石を見る。




「朔蒔がさ……朔蒔の父親が、なんだけど、お前を殺した犯人なんだって。彼奴がいってた。嘘だって思いたかったけど、何となくそうだって気がしたんだ。何も証拠ないのにさ、信じちゃったんだ。けど、うん……そうだと思うから。楓音の仇が取れる、とならなきゃっていったら、きっと楓音は止めるだろうから、そんなことはしない。だけど……仇がすぐそこにいて、それが、好きな人の父親だっていうんだ。殺人鬼の息子っていうことになる。俺って、いいのかな」




いいのか。


何に対してのいいのか。

大好きな友達の仇である殺人鬼の息子を好きになって、罪悪感とか、色々わいて出てきた。でも、好きという気持ちだけは、消せなかった。それが、何よりも悔しい。割り切ってしまえない自分と、好きな人を、そんな風にしか見えない自分と。

楓音だったら、どんな答えをくれるのか。どう、アドバイスをくれるのか。でも、応えてはくれない。俺の中の楓音像があるだけで、楓音はもう俺に助言なんてしてくれない。というか、あの時だって厚かましすぎた。楓音の気持ちに気づいてあげていれば、あんなアドバイスをしてくれ、なんていわなかっただろうから。


いつも、俺は気付くのが遅すぎる。そして、後悔を生んでいる。負の連鎖。




「……クソ、クソ……ッ」




ここに来たら、少しは落ち着くかも知れないと思ったが、吐けば吐くほど苦しくなった。俺は、またその場にしゃがみ込んだ。

すると、それまで聞えてこなかった足音が、気配が近付いてき、俺はゆっくり顔を上げる。パサリと、地面に何かが……花束が落ちる音がした。




「星埜?」

「朔蒔? 何で……ここに」




そこにいたのは、琥珀朔蒔。俺を一番悩ます相手であり、仇の息子であり、好きな人。

もう、ぐちゃぐちゃだ。

朔蒔は、俺を見てから、花束を拾い直すと、何が可笑しいんだと言わんばかりに眉をひそめた。




「ともだちの墓参りだけど?」




そう答えた、朔蒔は、真っ黒い瞳で俺を見下ろした。

君と見つけた片割れ時の一等星

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

17

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚