テラーノベル
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夜。
家の中は静かだった。
時計の針が進む音が、やけに大きく聞こえる。
冷蔵庫の低い作動音。
外を走る車の遠い音。
それ以外は、なにもない。
らんはソファに座っている。
毛布を肩にかけて、テレビを見ている“ふり”。
画面はついているのに、内容は全然入っていない。
ただ、音が欲しいだけ。
一人じゃないと確認できる音が。
キッチンでコップに水が注がれる音がした。
それだけで、少しだけ肩の力が抜ける。
(いるま、いる)
当たり前の事実が、今日は妙に安心になる。
「薬、飲んだか」
戻ってきたいるまが言う。
声は低いけど、昨日みたいな荒さはない。
「……うん」
短い返事。
けれどその一言に、ちゃんと“届いてる”感覚がある。
いるまはソファの反対側に座る。
距離は手を伸ばせば届くくらい。
でも触れない距離。
それが、今の二人のちょうど真ん中だった。
沈黙が落ちる。
前なら気まずかった時間。
今は違う。
らんは、テレビの光に照らされながら横目でいるまを見る。
いるまはスマホをいじるふりをして、らんの呼吸のリズムを確認している。
お互い、バレないようにお互いを見ている。
「……昨日」
同時に声が出る。
ぴたり、と止まる。
「……」
「……」
目が合って、すぐ逸らす。
でも逃げたわけじゃない。
まだ“言う勇気”を測ってるだけ。
「先いいよ」
「いや、そっち」
らんが小さく笑う。
いるまも、少しだけ口角が上がる。
たったそれだけで、空気が少し柔らかくなる。
「昨日、言いすぎた」
視線はテレビ。
けれど声はちゃんと向いている。
「触るな、とか」
らんはゆっくり首を振る。
「俺も、勝手だった」
「違う」
少し強い声。
らんが目を上げる。
「俺が慣れてねえだけ」
その言葉は、不器用で、正直で、少し悔しそうだった。
毛布をぎゅっと握る。
指先が白くなる。
「俺ね」
喉が少し震える。
「家族って、どうすればいいか分かんなくて」
視線は床。
「迷惑にならないようにすることばっか考えてた」
いるまの胸が少し痛む。
「でも、それじゃ違うんだって、昨日わかった」
顔を上げる。
まっすぐ。
「ちゃんとそこにいて、頼って、頼られて、だよね」
いるまは小さく息を吐く。
「不器用同士か」
「……かも」
目が合う。
今度は逸らさない。
怖くない。
逃げなくていい目だった。
ソファの上。
手と手の距離は、ほんの数センチ。
触れられる。
でも触れない。
その距離が、今は心地いい。
急がなくていい。
越えなくていい。
ただ、ここにいる。
「無理すんな」
「うん」
「でも頼れ」
「……うん」
らんが少し笑う。
その笑い方は、前より柔らかい。
「兄命令?」
「違う」
間。
「ただの希望」
その言葉は小さいのに、胸にまっすぐ落ちる。
テレビの光が二人を照らす。
同じ部屋。
同じ空気。
同じ夜。
らんは毛布の端を少しだけいるまの方へ寄せた。
いるまは何も言わなかったけど、離れなかった。
夜は静かに流れる。
謝罪でも宣言でもない。
ただ、言えなかった分を少しだけ渡し合った夜。
境界線はまだ消えていない。
でも、もう。
その線の上に、二人並んで立っている。
そして初めて、
「一人じゃない沈黙」を知った夜だった。
コメント
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あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”♡ 付き合おうよぉぉ! 心に刺さりますねぇぇぇぇ... ままぁ! この話、読んでー!
りゅ~せ~くんは‘‘頼る’’ことをだいじにしてるのかなぁ…?૮꒰ྀི⸝⸝⸝ᵒ̴̶̷̥́ ᵕ ᵒ̴̶̷̣̥̀⸝⸝⸝ ꒱ྀིა やばぁい、けっこうぶっささるこれ…((