テラーノベル
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第3話 泡沫の絶殺
――夢。
俺の家庭は、腐ってた。
周りと全然違う。
友達が家族の話をしていても、俺にはその感覚が分からなかった。
でも――
俺は小さい頃、そんなことを考える余裕すら持てなかった。
……いや。
持たせてもらえなかった。
毎日、毎日。
あのクソ親父の怒鳴り声で身体がビクついて。
何をするにも、親父の顔色を窺って。
酷い時は、暴力沙汰。
その時の俺は――
壊れてしまった人形のようだった。
幼い蓮「…………ッ、痛った……。」
小さな手を床につく。
震える腕に力を入れて、ゆっくり身体を起こす。
幼い蓮「……ッ。」
足に力を入れる。
幼い蓮「……うわっ!?」
――バタンッ。
また倒れる。
小さな身体じゃ、痛みに耐えきれない。
幼い蓮「…………。」
しばらく床を見つめる。
泣かない。
泣いても、何も変わらない。
幼い蓮「…………なんで、こんな……ッ」
頭の中に、父親の言葉が蘇る。
『お前は弱い…いつまで経っても弱い奴なんか生きていけると思うなよ??((圧』
『役に立たない奴に価値なんかないんだよ!』
『一番になれ』
幼い蓮「…………。」
『誰にも負けるな!』
『お前が一番だってことを証明しろ!』
幼い蓮「…………あぁ」
幼い蓮「……そうか」
小さな手を握る。
幼い蓮「俺が一番だってことを……証明すれば……」
幼い蓮「…………俺、生きてていいんだ……」
それから。
俺は変わった。
俺を舐める奴。
俺を見下す奴。
俺を馬鹿にする奴。
――全部、分からせてやった。
負けたくなかった。
弱いと思われたくなかった。
誰かに踏みつけられるのが嫌だった。
だから。
強くなった。
勝ち続けた。
誰より上に立とうとした。
それだけが――
俺がここにいていい理由だと思っていた。
――――――
蓮「…………っ」
目を開ける。
見慣れた天井。
蓮「…………。」
しばらく何も言わない。
蓮「……最悪。俺何ビビってんだろ…」
額を押さえる。
蓮「なんで今さら、あんな夢……。」
ベッドから起き上がる。
鏡を見る。
そこに映っているのは、もう幼い頃の自分じゃない。
蓮「…………。」
そして、いつものように笑う。
蓮「……学校行くか。」
――――――
ガラガラッ。
蓮「おはよー」
生徒「お、蓮!」
生徒「お前また半袖かよ!笑」
蓮「暑いからねーーー」
生徒「寒くないの!?」
蓮「寒い??まぁこの教室は寒いかも」
生徒「暖房ついてるからか!?いやいや、こっちは寒いんだよ!」
蓮「え〜汗止まんなーい…」
生徒「意味分かんねぇ!」
周囲から笑い声が起こる。
蓮「はははっ。」
いつも通り。
くだらない話をして。
笑って。
授業を受けて。
昼休みには友達と騒いで。
――昨日のことなんて、何もなかったみたいに。
結翔「…………。」
そんな蓮を、結翔は少し離れたところから見ていた。
結翔「…………。」
昨日の夜。
屋上で聞いた蓮の言葉。
『俺自身が、どうしたいのか分かんない。』
結翔「…………。」
結翔は少しだけ蓮を見る。
蓮「結翔くーん?」
結翔「……何だよ」
蓮「何ぼーっとしてんの?」
結翔「別に」
蓮「ふーん」
結翔「…………。」
蓮「…無言はキツイよ?結翔くん」
結翔「……いや」
結翔「昨日のこと、ちょっと考えてた。」
蓮「…………。」
蓮の笑顔が、一瞬だけ止まる。
けれど。
蓮「そっか。」
すぐに笑う。
蓮「俺はもう気にしてないよ」
結翔「……お前は考えなさすぎだ!!」
蓮「考えすぎたら老けちゃうからさ」
――ブブッ。
その時。
蓮のポケットの中で、スマホが震えた。
蓮「…………。」
画面を見る。
『今日、話がある。』
『学校が終わったら、すぐ家に帰れ。』
蓮「…………。」
さっきまでの笑顔が消える。
結翔「……蓮?」
蓮「…………。」
蓮はスマホを握りしめる。
蓮「……アイツかよ…((ボソッ…」
結翔「なんか言ったか?」
蓮「…………。」
蓮「なんでもない。」
スマホをポケットにしまう。
蓮「……」
結翔「…………。」
――――――
放課後。
蓮「…………。」
学校を出る。
足取りが重い。
蓮「……わざわざ呼びつけやがって」
――――――
ガチャ。
蓮「…………ただいま」
父「帰ってきたか。」
蓮「…………。」
リビングから父親が出てくる。
父「ったく俺を待たせるとは……。」
父「あれだけ言ったのに守らんとは……。」
蓮「学校終わったら帰ってこいって言ったの、そっちだろ。」
父「……なんだ、その口の利き方は?」
蓮「別に。」
父「別にだと?」
声が荒くなる。
父「お前は昔からそうだ!!」
父「俺が何を言っても、そのふざけた態度!!」
蓮「…………。」
父「誰のおかげで今のお前があると思ってる!!」
蓮「……知らねぇよ。」
父「なんだと!?」
父親が蓮の胸ぐらを掴む。
父「お前はやっぱ俺の手で潰すべきだったか!?」
蓮「…………。」
父「コロシ屋としていい駒として使われてるだけありがたいと思えよ!!」
蓮「…………。」
父「お前に他の価値なんかない!!」
蓮「…………。」
蓮の目が冷たくなる。
蓮「……クソが」
父「何?」
蓮「……クソ親父。」
父「…………ッ!!」
父親が怒鳴り声を上げる。
蓮は睨み返す。
昔のように怯えたりはしない。
でも。
この男だけは。
今でも――大嫌いだった。
父「……もういい。」
父親が蓮を離す。
父「今日は仕事の話だ。」
蓮「…………は?」
父「彗音という女についてだ。」
蓮「…………誰?」
父「知らなくていい。」
蓮「は?」
父「お前には、その女について調べてもらう。」
蓮「……なんで俺が。」
父「お前だからだ。」
蓮「…………。」
父「どこにいるのか。」
父「誰と繋がっているのか。」
父「何者なのか。」
父「全部調べろ。」
蓮「…………。」
父「異名は――」
父「『泡沫の絶殺』。」
蓮「…………泡沫の絶殺?」
父「ああ。」
蓮「…………。」
父「気をつけろ。」
蓮「何が?」
父「その女は、普通のコロシ屋じゃない。」
蓮「…………。」
父「余計なことは考えるな。」
父「お前は俺の言った通りに動けばいい。」
蓮「…………。」
蓮は小さく息を吐く。
蓮「……はいはい。」
父「返事は?」
蓮「分かったよ。」
蓮は部屋を出る。
――バタン。
扉が閉まる。
蓮「…………。」
廊下を歩く。
蓮「彗音……。」
知らない名前。
なのに。
なぜか、妙に引っかかる。
蓮「…………。」
蓮はスマホを取り出す。
検索画面に名前を打ち込む。
『彗音』
――検索結果。
ほとんど何も出てこない。
蓮「…………。」
蓮「……なんだよ……これ。」
その時。
――コツ。
背後から、足音。
蓮「………っ…!?」
振り返る。
誰もいない。
蓮「………何か気配が…」
蓮「気のせいか。」
再び歩き出す。
――少し離れた場所。
一人の少女が、静かに蓮を見ていた。
透き通るような雰囲気。
夜の街に溶け込むほど静かな姿。
少女は何も言わない。
ただ――
蓮を見つめている。
そして。
彗音「…………。」
小さく呟く。
彗音「……あの人が言っていた子。」
――――――
蓮「…………。」
蓮はまだ、その視線に気づいていない。
彗音。
“泡沫の絶殺”。
その名前が意味するものも。
彼女が何を知っているのかも。
まだ、何も。
――この時の蓮は知らなかった。
そして。
この少女との出会いが――
蓮の日常を、少しずつ変えていくことになる。
コメント
1件
うわあ…第3話、すごく重かったね。蓮の幼い頃の記憶がフラッシュバックするところ、胸がギュッてなった。父親に「生きていていいんだ」って思わせるために強くなったっていうのが、もう……切なすぎるよ。現在の蓮は明るく振る舞ってるけど、無理してる感じが伝わってくる。彗音っていう女の子が現れたのも気になるし、これからどうなるんだろう…。続きがすごく気になる。ちゃんと読んだよ、天羽さん。
一ノ瀬ルナ
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