テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

a rainy day

一覧ページ

「a rainy day」のメインビジュアル

a rainy day

1 - ―a heart drop―

♥

216

2024年02月22日

シェアするシェアする
報告する

心臓機能障がいの赤×呼吸器機能障がいの桃


Side赤


頭上の空はどんよりと灰色に曇っている。

玄関を開けて、今朝の天気予報で「朝から雨が降るので傘をお持ちになったほうがいいでしょう」と言っていたことを思い出した。

一本だけ立っている傘立てから抜き取って、ドアに鍵を閉めた。

最寄りの駅に着くと、改札口を通る。ホームに待合室があるのを見つけて、中の椅子に座った。

「ヤバいかな…」

通勤時間だからか、電車を待つ人は多い。そしてその人々の大半が、スマホに視線を落としている。

どうか頑張ってくれ、と自分の胸にお願いした。

やがて電車がやってきて、目の前ですっと停車する。

大勢の人に混じって乗り込むと、運よく優先座席は空いていた。

そこに座り、かばんにつけているヘルプマークを少しだけのぞかせる。だって、健康そうな若者がここに座ってたら訝しがられるから。

やっぱり周りに立っている人はスマホを使っている。

——いや、このくらい大丈夫だ。先生も大丈夫って言ってた。


今日は、俺の働く会社から出張命令が出た。

いつもは自宅近くのオフィス勤めだし、出張なんて全然ない。だけどなんでそんな命令が下されたのかは、俺もわからない。……経験も大事だよ、ってことか。

でも上司は俺の内部障がいのこともわかってくれてるから、近距離にしてくれたらしい。

車ではちょっと行きにくいオフィス街だから、やむなく電車で、それから徒歩移動になった。そこで出てくる心配事は、人混みと携帯電話だ。

俺の心臓に埋め込まれてるペースメーカーは、強い電磁波を発するものに近づいたら誤作動を起こす可能性があるとかうんぬん、主治医には言われてる。

だから今日のことも相談したら、ダメだと言われるかと思ったら「無理しないこと」ってだけ。まあ実際、日常生活に影響はあんまりないらしい。

その証拠に、このビビりな俺でも二十数年間生きてこられた。自分のスマホだって大丈夫だ。

でも俺の心配性は、知らず知らずのうちに鼓動を速くする。

「ふう…」

所詮は他人のスマホだから、距離なんてそんなに近づかない。じゃあこの頻脈は何のせいだろう。

やっぱり電磁波か、緊張か、それとも薬の効果が切れたんだろうか……。

そうだ、薬を飲めばいいんだ。頓服薬を入れてあるピルケースを探そうとかばんの中をまさぐる。

「え」

いつもあるはずのケースが、なかった。どこを探しても。

「ない…。はぁ…」

イレギュラーな仕事の準備で朝も忙しかったから、忘れちゃったんだ。やっちまった、と心の中で嘆く。

その間にも、早鐘を打つ心臓はキリキリと痛みはじめる。

外はいつの間にか雨が降り出していて、車窓が濡れていた。

そのときだった。

「あの、大丈夫ですか?」

この作品はいかがでしたか?

216

コメント

1

ユーザー

最高です‼️続き楽しみです💟

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚