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「私の黒縄剣の力、見せてーー」
リトが刀を鞘から抜き放とうと、その言葉を最後まで言おうとした刹那、空気が破裂した様な音が響き渡る。
“ーーえっ!?”
リトは眼前の左上に刀身が見えたと思った直後、自分の首筋に斜めの赤い線が走ったのが感覚で分かった。
「はっ……速過ぎっーー」
その赤い線からは一拍子遅れて鮮血が噴き出し、リトは刀を完全に抜く事無く、糸の切れた操り人形の如く、もんどり打って後方に倒れ込んだ。
それと同時に支えを失った首は、ごろごろと後方へ転がっていく。
何時の間にか刀を斬り上げたまま、ユキはその顛末を冷酷な眼で見据えていた。
『なっ!』
『リト軍団長が!』
『たったの一撃で!?』
果たして彼の抜き打ちを目視確認出来た者が、この場に何人居ただろうか? それ程までに刹那の出来事だった。
「きっーー貴様! いきなり斬り掛かるとは卑怯な!!」
軍団員から批難の声が挙がるが、それもその筈。一対一の尋常の勝負を持ち掛けた矢先の出来事。
リトはまだ刀を抜ききってはいなかったからだ。
「アナタ達は何か勘違いをしていませんか?」
ユキは意も介さず、全員を見回して告げる。
「これは御前試合でも、ましてや私は尋常の勝負をしに来た訳でもない。アナタ達の言う事等どうだっていい。ただーー」
敵を見据える深い銀色の瞳。それはまさしく死神の眼、そのものであった。
「私はアミの敵となる者達をーー“皆殺し”に来ただけです」
命を命とも思わぬ無機質な瞳。かつての冷酷な死神の姿が、其処には在った。
アザミはリトを一瞬で斬り伏せたユキを凝視する。
*
ーーやるな……。確かに奴の言う通りだ。
今の一撃、俺の眼にも完全に捉える事は出来なかった……。
リトが殺られたのは油断でも不意打ちでも何でも無い。
ただ奴の動きに反応出来なかっただけだ。
見せて貰おうか、特異点であるお前の力の全てをーー
*
アザミはしばらく観戦する事に決めた。
まだ軍団長二名を含む、五十名がユキを取り囲んでいる。
「果たして一人で何処まで持つかな?」
“もし本当に一人で殺れる事が有り得たなら……フフフ”
アザミは震える興奮を抑えきれないが如く、その表情に笑みを浮かべながらユキを見据えていた。
「面倒だから全員で掛かって来てください。まとめて処理しますので」
ユキのこの一言に全員が激怒し、一斉に襲い掛かって来た。
「この餓鬼ぃ!!」
「殺せぇ!!」
怒り心頭で襲い掛かって来る軍勢に、ユキは冷静に思考。それはなるべく特異能の乱立を控え、直属との闘いに備え力を温存する。この場は出来る限り、剣撃だけで闘う事。
それが彼が頭の中で瞬時に立てた戦略であった。
特異能は無造尽に使える都合の良い力では無い。その力の行使には対価が必要だからだ。
その対価は命そのもの。
本来生きる時間そのものを削る。所謂寿命である。その為、特異点は常人の半分も生きられない。
“使う必要の無い相手、状況でむやみに力を使うなーー”
それが師からの教えだった。
ユキは襲い掛かる軍勢、その内の一人を擦れ違い様に腹部を斬り抜ける。相手が刀を振り上げた瞬間を狙っての一撃。
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
相手は反応する事も出来ず悲鳴を上げ、鮮血と共に胴体が二つにずれ落ちた。
「まずは一人目」
だが落ち着く間も無く、敵は四方八方から次々と襲い掛かって来る。
無防備となっているユキの背後から軍団員の一人が、その首筋へ目掛けて刃を振り下ろすがーー
“ーーへっ!?”
違和感に気付いた時には既に遅し。自身の頭蓋が何故か砕かれていたから。それが彼の持つ白鞘に依るものだと理解した頃にはーー絶命。
「二人目ーー」
その後もユキの刃と鞘による、流れるような連繋。精鋭達が彼の前で、なす術も無く倒されていく。
※星霜剣刀法――双流葬舞。
表に記されない裏の剣術――『星霜剣』に於ける基本戦術。そしてその白鞘も、この為に特殊な金属と製法で造られている。
その演舞のように流れる、余りの美麗さとは裏腹の凶悪無比な太刀筋は、斬と打にその真髄有り。
二つの異なる性質を持つその連繋は、とてつもない速度と威力の波状攻撃となって、相手を容赦なく葬り去る。
その動きには一切の無駄も無く、そして恐ろしい迄に速く、流れる様に次々と斬り倒していく。
ある者は斬られ、ある者は砕かれ、またある者はその両方の葬舞の餌食へと。
怒号と断末魔の絶叫が交差する戦場。
ユキはたった一人で、其処を舞い続けたーー。