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『何でアンタは幸せになってるの!?私は、どうして愛されないの?』
ぐぐぐ……と、首を誰かに絞められる。
見たことがあるその銀髪に、でも、前髪で顔は見え無くて。でも、怒っているのは分かっていて。
酸素が切れて、息苦しくなり、私は助けを求めようにも求められない状況が続いていた。かひゅ、かひゅ……と、喉が、肺が危険信号を送っている、訴えかけている。
(ダメ、このままじゃ……死ぬ……)
殺意を向けられていることも、私の首を絞め血える相手が私を殺そうとするのも分かっている。でも、抵抗がろくに出来ない。このまま、死んでしまうのではないかと思ったとき、誰かが私の名前を呼んだ。否、肩を揺さぶった。
「――――ール、エトワール!」
「ひゅっ」
目が覚める。現実に引き戻される。
汗だくになっていることも分かったし、何より目の前で私の心配をする、必死な顔で、私よりも青く汗だくになっている恋人を見ると、安堵感に包まれた。でも、そんな心配そうな顔させてしまって、不安にさせてしまって申し訳ないなあ何て罪悪感も一緒に来て、忙しかった。
「エトワール、エトワール」
「大丈夫、聞えてる……から。落ち着いて」
落ち着くのは私かも知れないけど、とは思いつつも、リースが医者を呼べとか、今すぐに診て貰わないととか言い出しそうだったので、いやいっていたかも知れないけど、私は落ち着かせたくて、彼の手を握った。汗ばんでいて、冷たくなっている手。私よりも大きくて、何度もその手に触れられてきたけど、今は何故か頼りないように見えた。
(心配かけちゃったなあ……)
今自分の身に何が起ったか、ようやく理解できた。
リースの様子を見に、皇宮に来て、彼が仕事をしていたので邪魔しないようにとソファで本を読んでいたら、そのまま寝落ち茶って。それで、多分悪夢を見て魘されて、彼に起こされた、とそういう所だろう。
床には呼んでいたはずの本と、机には零れた紅茶が広がっていた。アールグレイの紅茶が仄かに漂っている。
「本当に、大丈夫……なのか」
「うん、私の言葉信じられない?」
「信じたい……信じたいが」
よほど、魘されていたんだろう。確かに、過保護であるが、ここまでリースが辛そうなかおをしているところを診ていると、かなり本当に誰が診ても不味いほど魘されていた。
悪夢。でも、内容は思い出せない。
「えっと、どんな感じだった」
「死にそうな顔してる」
「それは、アンタでしょうが。じゃなくて、今の状態じゃなくて、寝ていたときのこと」
「ああ、それか」
それ以外何があるのよ。と、突っ込みたかったけれど、こんなこと言っても、リースが落ち着くわけ無いし、とそもそも言う気力は無かったので口は開かずにいた。
リースは思い出すかのように、でも、それが苦しいというように話し出す。
「お前は、本を読んでいるうちに眠ってしまって、それに気づいたのがつい先ほどなのだが、毛布を被せようとしたときから、苦しみだしたんだ。額に汗を浮べて、首を絞められているように、過呼吸にでもなったのかと……何か口にしていたが、俺は聞き取れなかった」
すまない。とリースは頭を下げる。未来の皇帝がこれでいいのかと言いたくなったし、そんな頭を下げるようなことじゃないだろうとも思った。でも、リースは自分が許せないというように、言うので、私は彼の頭を撫でる。ふわふわとした黄金の髪は、綺麗だった。白髪なんて見つからない。
「うーん、悪夢を見ていたって言うのは覚えているんだけど。内容は覚えて無くて」
「そうか……でも、本当に苦しそうで、そのまま死んでしまうんじゃないかって」
「もう、勝手に殺さないでよ。混沌に飲まれても戻ってきたし、死にそうになったらまた連れ戻してくれるんでしょ?」
「あ、ああ……死ぬときは一緒だ」
重い。重いから。
それは望んでいないから勘弁してくれと思った。人が死んで、その人は楽になるかもだし、その後のことは、どうでもイイと感じるかもだけど、残された人のことを考えてくれと思った。仮にも未来の皇帝が。
私は、軽くリースの頭をなぐった後、ふぅと息を整えた。
何を見ていたのだろうか。
魘されていることは自分でも分かった。首を絞められている感覚だってあった。殺されてしまうか持って言う、死の恐怖も感じだ。そして、見慣れた銀髪に……
(あれって、エトワールじゃない?)
何となくそんな気がした。自分の見慣れた髪をすくいあげて、確かに夢に出来た人と髪色が一致すると思った。でも、私はここにいるし、エトワールは私だし。
(もしかして、別世界のエトワール?私が憑依していない本物の)
思えば、此の世界にきて、本物のエトワールの意識は何処にあるのだろうかとか考えたことがあった。私が勝手に身体を奪った形になってしまったのか。あるいは、エトワールという存在は此の世界になくて、器だけ用意されていたのかとか。まあ、考えれば考えるほど分からなくなっていったのだが。もしも、平行世界とか、パラレルワールドとかあって、本来のエトワールの末路を辿った彼女が、幸せになった私を恨んで夢に出てきたとするなら。
あり得る話ではある。
本来なら、そんなことないでしょ、とか言えるのだが転生とかしてしてしまった身、もう何でもありだとか思っている。
(でも、エトワールストーリーって、一応はエトワールは幸せになるんだよね)
リュシオルから聞いた話じゃそうなのである。でも、私の夢に出来たエトワールは、全然幸せのしの字もなくて、その「し」って「死」にも思えて。何言ってるか分からないけど、もう、幸せなんてない絶望に染まったエトワールという感じだったあ。それは、本来のヒロインストーリーで見せる、エトワールそのものだった。
「本当に大丈夫か?」
「え、ああ。うん。大丈夫。もう少しで思い出せるかなあって思って」
「無理に思い出さなくても良いんだぞ。お前が苦しいだけだ」
と、優しい言葉をかけてくれる恋人。
この恋人のこと、何年も放置していたと思うと、今更ながらに罪悪感がドッと押し寄せて、何度も謝りたくなる。でも、だからこうして今の幸せが手に入ったというのなら、彼は私を許して……いいや、許しを乞う必要は無いのかもだけど。彼も私も幸せならそれでいいんだと、そう割り切った。
(本当に心配性だなあ……)
言葉がプラスされて、本当に心配しているという事が伝わってくる。前までは、心配しているけど、言葉がなくて、無言で色々手を回す物だから怖かった。リースの成長にほっこりしている自分がいる。私も変わったから、そういうリースの過保護すぎるところも愛おしく思えるんだけど。
「大丈夫。気になることがあったから」
「そうか……お前が言うなら、俺はもう何も言わないが。苦しくなったら言うんだぞ」
と、優しい言葉もかけてくれる。本当に理想の恋人だなあト思うとし、それに並べるように頑張らないと思う気持ちも強くなってくる。
本当に理想が過ぎる。リース(遥輝)こそ、二次元から出てきた存在なんじゃ無いかって思うぐらいに。
(まあ、リースの心配も嬉しいけど、気になるのは、夢の方か……)
何で今になって、エトワールが夢に出てくるのか。もう、全て終わったんじゃないかと私の中では思っていたのだが、そうじゃないとするなら。
けれど、混沌は眠りについたし、世界は平和になって、今復興中で……まあ、私個人の問題はまだ山のようにあるわけだけど、それはあくまで個人で……
(でも、これが私以外の問題だったら?)
私を巻き込んで周囲にも影響が出ているとしたら。
それがもし、グランツの事だったり、アルベドの事だったり、ラヴァインのことだったりしたら。
物語は、まだ終わっていない。そう、言われているような気がしてならない。
(エトワールが二人いるって可笑しい話だけど)
此の世界のエトワールは私だけだ。だから、もう一人出てきたらそれはドッペルゲンガーだろう。とか、そんなことも思いながら、もう一度夢の内容を思い出す。だんだんと薄れてきて、原型が分からなくなってきている。でも、彼女が言った言葉だけははっきりと覚えているのだ。
『何でアンタは幸せになってるの!?私は、どうして愛されないの?』
(愛されないの……か。そんなの昔の私だったらこっちが聞きたいぐらいだったけど……)
まあ、多分――――
愛は、与えられるものじゃなくて与えるものっていう認識がないと、一生愛なんてもの手に入らないんじゃないかな。
私はそう思って、静かに笑った。