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訓練場から少し離れた所で剣を振るう。
ここで剣を振るったのは、いつだったか。というか、私の剣術は全く上達しないというか、教えて貰っていたころはそれなりに出来たはずなのに、どうも、師匠がいなくなると出来なくなる物なのだと、改めて分かった。
「なーにやってるの、エトワール」
「うわっ……どっから生えてきたの」
そんな、雑草みたいに。と、言いながら、気配を消して近付いてきたラヴァインの顔を見る。彼は、不思議そうに私と、私持っている木剣を見た。
「何で、エトワール、剣なんて振るってるの?」
「いいじゃん、私の勝手だし」
「えー、俺とエトワールの仲じゃん。教えてよ」
「アンタと、そんな仲になった覚えないんだけど?」
と、私が呆れて返せば、そういう反応か。と、ラヴァインはスンと顔から表情を消した。それが、怖くて何かされるんじゃないかと身構えてしまう。だから、此奴のことは嫌いなのだ。
私が構えていれば、自分が怖がらせていることに気づいたのか、ラヴァインは珍しく、本当に珍しく謝ってきた。
「ごめん、そんなつもりはなかったんだ」
「そ、そう。なら、いいけど……」
「やっぱ、ダメだなあ。だから、俺エトワールに嫌われるのかも」
そんな風に、面倒くさい男丸出しで、構ってと言う下心が見え隠れしているラヴァインを見て、これは構わないとさらに面倒くさいな、と私は木剣を一度地面に置いた。手から放せたところを見ると、まあ、此奴のこと少しだけ信用しているのかも知れない。と言っても、他に武器を隠し持っていて、狙われたらそれまでの話にはなるんだけど。
(私を殺せば、きっと記憶は返ってこないとか思ってるんだろうな。だから、私のことは殺せないし、殺さない)
考えすぎと言われれば、考えすぎにはなるが、本当に信用出来ると思えるまではこの距離感が良いだろう。
「あーそれで、何だっけ。私が木剣を振ってる理由が知りたかったの?」
「そう。それも、何で訓練場から離れた所でやってるのかなあって。一応、エトワールを護ってくれている騎士達がいるんだし、教えて貰えば良いじゃん。それか、あのアルバっていう女の子の騎士に」
「そう……ね。でも、あそこにいる騎士達は、以前私を侮辱した人達だし、信用していないって言うか。今でも、信用出来ない。私の騎士を馬鹿にしたことも、許せない」
「ふーん、あの女の子、馬鹿にされたんだ」
と、ラヴァインは、どうやらアルバが馬鹿にされたと思い込んでいるようだった。まあ、馬鹿にされる理由はあるけれど、私は全然バカにしようなんて思わないし、逆に凄いし、ありがたいとすら思っている。アルバは私の大切な護衛騎士だ。
私は、誤解を解くために、違うと首を横に振る。
「グランツのこと……」
「ああ、あの。眠ってる」
そう、ラヴァインは口にした。馬鹿にするような様子もなくて、本当に普通にって言う良い方は可笑しいかもだけど、「グランツがね」と呟いていた。
本当に、彼らの関係が気になるところだが、今はそんなことよりも、切り上げて、返る方が良いだろうと思った。
グランツに教えて貰わなきゃ、上手くなりそうにないし。と言っても、彼が目覚めたら目覚めたで、また教えて貰えるって訳じゃないかもだけど。
「あれ?やめるの」
「アンタが来たからね」
「じゃあ、俺が教えてあげよっか」
ラヴァインは提案すると、手を出してきた。一緒にやろうというお誘いだろうが、ラヴァインが剣を振るっているところと化見たことが無かった。でも、教養とか言っていた気がするし、それなりには扱えるのだろう。どちらかと言えば、ナイフで戦っていたイメージがあるし。それに、ラヴァインは魔法の方が凄いっていうのは、分かっている。
「アンタ、剣なんて振るえるの」
「失礼だな。それぐらい出来るって。俺の事本当に信用していないんだね。エトワールは」
「悲しい?」
「そりゃ、まあ、悲しいよ。でも、慣れてきたって言うか。エトワールは、俺の事が嫌いだけど、俺はエトワールのことが好き。それが、俺たちの関係」
と、ラヴァインは勝手にこの関係をまとめる。
嫌いではない、と言い切れないけれど、そんな大嫌いという感じではない。そこは分かって欲しかった。口にはしないし、したら喜ぶんだろうけど。
「でも、アンタは魔法の方が凄いじゃん」
「え、今エトワール俺の事誉めた?」
何て、自分に都合の良いところだけ切り取って可愛らしい子供の顔になる。可愛らしいというか、ラヴァインの顔ってどちらかというと幼く見えるだけで、私の見間違いかも知れないけれど。
(そんな、玩具貰ったばかりの子供みたいな顔して……)
でも、本心だったから。魔法が凄いって言うのは本心だった。ラヴァインの魔法が凄いのはよく知ってる。闇魔法は転移魔法が光魔法と異なるから、私には真似できないけれど、兎に角転移魔法を頻繁に使って、それで風魔法を付与して動きを素早くして。他にももっと魔法の使い方が私じゃ発想できない物ばかりで、多才だった。
此の世界で魔法は、イメージで何処までも強くなれるし、可能性があるものだ。そう思えば、ラヴァインのインスピレーションは止ることがなくて、彼の想像力というのは、計り知れない物なのだと。敵に回すのは厄介だと……実際的だったから、苦労してたんだけど。
そして、それを持続させられる魔力量を持ち合わせていたから、ラヴァインは誰よりも強くて、魔法に長けた男になったのかも知れない。
ラヴァインとアルベドが本気で戦って、どちらが勝つか分からないぐらいに。
「そうよ、魔法は凄いの」
「そっか。エトワールに誉められるって、嬉しくて」
「……あんたの兄も凄かった」
「……」
「比べられるのは嫌かもだけど、アンタ達は凄かった。あんたの兄から魔法を教わったことだってある。勿論、ブライトにも教わってた。でも、闇魔法と光魔法って違うから、教え方も、それぞれ思想もあって……魔法って面白いって思えた。人を傷つけるためのものじゃないって、そう思ってる」
私がそういえば、ラヴァインは黙ってしまった。
記憶にはないだろうが、魔法で悪さをしてきたことに気づいたのかも知れない。心なしか、顔が暗い。でも、それは彼が背負うべきものだから、私は弁護しない。
「魔法は、人を傷つける物じゃない」
「そうでしょ?」
「じゃあ、何で戦争に使われてるの?」
と、ラヴァインは聞いた。それは、戦争をよく知らない子供のようで、無垢でそれでいて大人が知ってしまった汚い世界を、汚いと真正面から言ってくる子供のようで。たちが悪い。
そんなこと、聞かなくても分かるでしょ、と言ってやりたかった。
実際、私がそれを認めてしまったら、ラヴァインの勝ちになってしまうかも知れない。
「アンタの記憶って何処まで覚えてるの?そういえば、聞いてなかった気がする」
「あ、話逸らしたね。うーん、名前も覚えてなかったし、勿論、前後の記憶も無かったから。どうだろう。でも、一般常識ぐらいは分かるよ。戦争があったことも、歴史書とか見てたから覚えてたんじゃない?と言うか、大体の戦争において、魔法は使われるんだよ。兵器としてね」
そう言ってラヴァインは木剣を拾いあげた。
「十人の騎士がいたとしても、一人の魔道士で蹴散らせちゃうんだから、コスパ的に考えたら、魔道士がいっぱいいたほうがいいっていう計算。まあ、でも魔法って扱いづらいし、魔力の暴走とか、想像力とかの問題で、そんなに魔道士はいない。圧倒的に騎士が多い。騎士になる需要は、だから減らない。魔法は特別だね。皆魔力は持っているけど、魔力に耐えきれる器であるかどうか、そして、想像力があるかどうかって話。この魔法を撃ったらどうなるか、とかそういうのを考えられなければ、使えない。自分の魔力に酔いしれて使って自滅する人もいるぐらいだし」
「知ってるの?」
「自滅した人のこと?うーん、よく聞く話ってだけ。でも、魔法って危ない物だよ」
それをお前が言うのかっておもったけど、記憶の無い彼には何を言っても通じないと思ったから、言わなかった。
(兵器ね……)
核爆弾とか……そういう物と一緒なのだろう。軍隊を一人で蹴散らせるほどの魔法……そんあの、兵器としか言いようがないだろう。
私が持っている魔法だって……使い方を間違えれば、死者を出す。そんなの分かっているのに。
そう思っていると、後ろから誰かに首を掴まれる感覚がした。
「……ッ」
「どうしたの?エトワール」
「う、ううん。何でもない」
(気のせい?)
また、先ほどのように、嫌な空気が私の身体にまとわりつく。嫌な胸騒ぎもする。
私は、ラヴァインに木剣を返すよう言って、少しだけラヴァインと手合わせをした。勿論、負けたし、どれだけ手加減されても、全て読まれたわけだけど。
一人でいるのが怖くて、一緒にいて欲しかったとは、口が裂けても言わなかった。