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白山小梅
12
#借金
1,754
図書室の空気が、少しだけ揺れた。
律は譜面から顔を上げる。
扉の向こうに、聖名が立っていた。
「律くん」
その声は、空気にやさしく届いた。
律の譜面が、彼女の気配に反応する。
「聖名……来たんだね」
律は立ち上がり、譜面を閉じる。
空気の端に、聖名の波形がふわりと浮かび始めていた。
「記録を、少しだけ……更新したくて」
聖名は、扉の前で立ち止まったまま言った。
「律くんの空気に、今の私を残しておきたいの」
律は静かに頷いた。
「うん。空いてるよ。譜面、開いてある」
聖名は一歩だけ前に進む。
制服の裾が揺れて、空気がそれを受け止める。
「図書室で、たくさん本を読んだから」
彼女は少しだけ笑った。
「言葉の置き方、少しずつ覚えてきたの」
律は譜面に指を置いた。
「聖名の言葉は、いつも静かで、ちゃんと届くよ」
「そうかな……」
聖名は、律の譜面を見つめる。
「届いてるなら、嬉しい」
律は一音を加えた。
聖名の波形が、空気の中心に静かに馴染んでいく。
それは、強い接続ではない。
でも、確かにそこにある記録だった。
「律くん」
聖名は、少しだけ声を落とした。
「もう少しだけ、話してもいい?」
律は、彼女の目を見て、やわらかく微笑んだ。
「もちろん。聖名がここにいてくれるなら、それだけでうれしい」
聖名は頷いた。
言葉はそれ以上続かなかったけれど、空気は静かに揺れていた。
譜面の波形が、二人の気配をやさしく包み込んでいる。
ねむるは棚の端で、記録の揺れを見守っていた。
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