テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ご本人様には関係ありません
188
62
グリルタ
375
食事を終えた晶子がゆっくり紅茶を飲んでいると、いろいろと予想外の事が分かった。その店の客は上品そうな落ち着いた服装の、やや年配の客が多く、奥のテーブルには親子連れの客もいた。
制服姿のカンナが晶子の席に近づき、そっと耳打ちした。
「そろそろあたい仕事終わるから、外で待っててくれるか?」
晶子はうなずいて、テーブルの上の伝票を手に取り、レジに向かう。支払いを済ませ、さっきの先輩メイドさんに見送られてドアをくぐる。
ドアから離れた場所で待っていると、Tシャツ、ジージャン、デニムのミニスカートに着替えたカンナが店のドアから出て来た。
二人でビルを出て、大通りをぶらぶらしながら、晶子がカンナを質問責めにする。
「ね、ほんとにあれが秋葉原のメイドカフェなの?」
「メイドカフェって言ってもいろいろあるんだよ。あそこはクラシカルメイドカフェ。今はああいう店の方が珍しいらしいけど」
「男の人とお酒飲んだりする所じゃないの?」
カンナは通りのあちこちに立っているカラフルな衣装の女性たちをそっと指差しながら答える。
「ああいう服のおねえさんたちの店はそうなんだろうな。ああいう店は今じゃコンセプトカフェ、略してコンカフェって呼ぶみたいだぜ」
「さっきの店とは違うの?」
「あの店は食事もできる喫茶店だよ。ウェイトレスがメイド服着てるだけで。営業時間も午前11時から午後8時。あっちのおねえさんたちの店は深夜営業もする、お酒を楽しむ店なんだって」
「あたしてっきりカンナが、ああいうミニスカートの制服で出て来ると思ってた」
「ははは。ミニスカのおねえさんたちの店は18歳未満は雇わないとこも多いんだ。来週からあのクラシカルな店で正式にバイトする。平日は11時から4時までのシフトで、その後学校に行くんだ」
「でもバイトならいくらでもあるでしょ。どうしてメイドカフェにしたの?」
「あそこだとパソコン教えてもらえるんだ」
「パソコンなら中学で習わなかった?」
「いや公立の中学だったから、パソコンなんて年に数回触れるだけだったよ。機械もソフトも時代遅れだったしな。高校だともうちょっと使う機会も増えるだろうけど、授業では3人か4人で1台を一緒に使うだろ?」
「え? あたしの学校では、パソコン室では一人1台使うよ」
「マジかよ? さすが私立の名門だな。他にもスーパーとかの面接受けたんだけどな、今どきパソコン使えないって言うと門前払いされた事もあったし。体験で入った事務職のバイトでも、パソコンの使い方分からないって言ったら、露骨に嫌な顔されて結局ろくに何も教えてくれなかったし」
「あのお店でパソコン使う事ってあるの?」
「結構あるぜ。店のホームページ更新したり、イベントの告知の画面作ったり。あの店の先輩のおねえさんたちは、ほんとイロハのイから教えてくれるんだよな。むしろ、分からないから教えて下さいって言うと、あっちが喜んでる感じ」
「へえ、親切な先輩さんなんだね」
「あたいみたいな年下に頼られるのがむしろうれしいって感じ。だからバイトするなら、あの店って決めたんだ」
「でもやっぱり心配だなあ」
「だから、いわゆる夜の店じゃないって」
「ううん、そうじゃなくて」
晶子は立ち止まってカンナの前に回り、少し腰をかがめて下からカンナの顔を見上げた。
「あんなお上品なお店の店員が、カンナに務まるのかなあ? それが心配」
「あ、この野郎。人が一番気にしてる事を」
カンナは両手を肩の上に上げ、指を全て直角に曲げて前に突き出した。
「きゃあ、カンナに襲われる! 逃げろ」
笑いながら駆け出す晶子の後ろからカンナも半笑いの表情で追いかけた。
「待て、晶子。ガオー!」
コメント
1件
いやあ、晶子ちゃんの「あんなお上品なお店の店員がカンナに務まるのかな?」ってツッコミ、めっちゃ笑いました(笑)。カンナが「人の一番気にしてる事を」って言い返すところの空気感、すごく自然でいいなあ。 でもその裏で、カンナがパソコンを使えるようになりたくてメイドカフェを選んだっていう動機がちゃんと描かれてて、公立と私立の設備格差とか、実際にパソコン使えないだけで門前払いされる現代の就労現場の厳しさも感じました。そういう社会のリアルを、軽い会話劇の中にさらっと入れてくるのが上手いですね。次に二人がどうなるのか、気になります。