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ルナは上目遣いで俺の顔をじっと見上げ
それから不満げに鼻を鳴らしてミラを睨みつけると
独占欲を誇示するように俺の腕に頬を擦り寄せた。
「あらあら……。どうやらゼノンさんを独占したいみたいね。ごめんね、そんなつもりはなかったのよ」
ミラは動じるどころか面白そうにクスクスと笑い、俺の肩を親しげにポンと叩いた。
その瞬間、ルナの腕に込める力が増した。
「……あ、そうだ。ちょうど良かったわ。実はちょっと、厄介な依頼が入っててね。元SSS級のあなたにしか頼めないような……」
「断る。俺は今、ただの隠居した道具屋だ」
「そんなこと言わずに! 街の北にある洞窟で、変な魔力の乱れがあるのよ。調査だけでいいから。お礼は、この間入ったばかりの『特級スイーツセット』でどう?」
『スイーツ』という単語が放たれた瞬間、ルナの小さな耳がピクリと動いた。
彼女は俺の服の裾をくいっと引っ張り、無言で、だが強烈な期待を込めた「……行きたい」という光線を、潤んだ瞳で送ってくる。
以前、俺が気まぐれに作った甘い果実のコンポートに、すっかり味をしめたらしい。
「…………はぁ。わかった、調査だけだぞ。深追いはしない」
俺が溜息混じりに折れると、ルナはパッと顔を輝かせ、まるで花が咲くような笑みを浮かべた。
ミラは「交渉成立ね!」と楽しげにウインクして去っていった。
◆◇◆◇
買い出しを終え、俺たちは街外れにある見晴らしの良いカフェのテラス席で一息つくことにした。
テーブルの上には、ミラから前払いとして渡された
色鮮やかなクリームと果実に彩られたケーキが並んでいる。
ルナは銀のフォークを手に取り、まずは一口、小さく切り分けたケーキを俺の口元へ運んできた。
彼女なりの流儀があるらしい。
「……あーん」
促されるまま、仕方なく一口食べると
彼女は満足そうに小さく微笑み、それから自分でもケーキを口に運んだ。
高級な生クリームと果実の甘さに、蕩けるような…
まさに年相応な少女の表情。
さっきまで広場で影を使って人間を絞め殺そうとしていた
冷徹な暗殺者と同一人物だとは到底思えない落差だ。
「美味いか?」
尋ねると、ルナは幸せそうに目を細め
空いている方の手で俺の手を掴み、自分の頬にそっと当てた。
かつて檻の中で凍えていた時の冷たかった彼女の肌は、今では驚くほど温かく
柔らかな弾力を持って俺の掌に馴染んでいる。
「……ルナ。あいつの言う通り、俺は元SSS級だ。これからも、ギルドや国といった面倒事が、お前を襲うかもしれない」
俺が独り言のように呟くと、ルナは俺の手をギュッと力強く握り返した。
彼女の瞳には、一切の迷いも、自分に対する恐怖もない。
ただ、今この場所にある温もりを守るためなら、神にだってこの牙を剥いてみせる。
そんな、静かで、どこか狂信的ですらある決意が宿っていた。
「……だから明日からは、もう少し訓練の強度を上げるぞ。スイーツの分、しっかり動いてもらうからな」
俺が不敵に笑うと、ルナは嬉しそうに頷き
皿に残った最後のイチゴを、宝物でも扱うかのように大事そうに口に含んだ。